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下水を行く

 一時間後。集合した時には探索チームが結成された。ピコは携帯ライトを持ってきたようだ。ロットはのんきに手ぶらだった。このあたりに既に性格の差が出ている。カルマが背負い鞄を所持している。中にはサイコダガーが入っていた。彼がサイコダガーを持ち出そうとした辺りは当然の対応と言えよう。一般人が持ちえる唯一の武器なのだから。だが、ロットの家には余っているサイコダガーは無かった。仕事道具として父親がいつも携帯しているのだ。だからと言って手ぶらでよいのかと言えばそうではないだろうが、ロットは何とかなるだろうと楽観しており、手ぶらで集合していた。


「よう、カルマ。お前んちはサイコダガーが余ってるのかよ。うらやましいな」

「父が仕事で使うんだが、予備をいつも家に置いているのさ。まぁ、父さんが帰る前に元通りに戻さないと後で叱られそうだが」


 カルマがへへっと笑った。彼は根が真面目だったのだが、ロットと関わっているうちに感化されてこのようになっていた。


「二人とも。準備はよいか?」

「ああ、準備できているぜ。カルマ、案内を頼む」


 三人が出発する。目指すは立ち入り禁止区画。そこは彼らが子供の頃からそうだった。どこの家でも「あそこに立ち入ってはいけません」と教わっていた。今日、三人はその禁忌を犯す。誰もがどきどきしていた。やってはいけませんと言われる事をやる時とは心躍るものだ。そういった点があるくらいには、三人はまだ子供だった。別に親に反発して、とかではない。ただ、決められたルールを破るという背徳感を感じているのは確かだが、三人が三人とも目的が違う。 

ロットはサイコショットに興味があった。管理者クラスでもなければ所持すら出来ない逸品。あわよくばそれを手にする事ができるかもしれない、と。彼はサイコショットにあこがれていたのだ。

 カルマはバイオモンスターの蔓延による遭遇事故が後を絶たない現状を憂いていた。そのバイオモンスターを根絶できるかもしれない手がかりがあると聞いて、興味を惹かれているのだ。

 ピコは二人が心配でついて来たのだ。危険な所に忍び込もうという友達を放って置く事ができないのだ。

 この中ではロットが一番子供じみていたかもしれない。しかし、彼らに用意された運命とはそんな彼の道にこそほほ笑まれたのかもしれない。それは天使のほほ笑みか、はたまた悪魔のほほ笑みか。もっとも過酷な運命を行く事になる少年に与えられた好機だった。

 三人が歩道を歩く。段々と人通りが少なくなってくる。車道を走る自動車も少なくなってくる。やがてごみが散乱しているエリアに差し掛かる。周囲の建物はひびなどが入って古ぼけた物ばかりで、治安は当然悪い。浮浪者達が闊歩するエリアで、地元の者達はあまり近寄らない。

 そんな地域の奥の奥。そのような場所に目的地はあった。コンクリートの壁で囲まれた場所。出入り口は見当たらない。外から壁を作り、封印したようだ。


「なぁ、カルマ。来たは良いけれど、どうやってここに入るんだ?」

「ふふふっ、実は皆は知らない情報を僕は知っているのさ! だから今日の話を持ち出したんだよ。この研究施設。立ち入り出来ないように壁で封印はされているが、かつて研究施設が稼動していた時は下水道の管理業者が地下から出入りしていたらしい。父さんが言っていたんだ。火災などの緊急時に避難経路の一つとして存在したと」


 カルマの言葉にピコがあからさまに嫌そうな表情をした。


「待ってですわ! まさか、下水道から進入するんですの?」

「そのまさかさ。下水道が封印されたという情報は無い。なら通路は生きているはずだ。そこから侵入しよう」


 カルマはそう言って、近くのマンホールの蓋を開ける。そして中に入っていった。


「カルマの奴、サイコダガーの光輪をライト代わりに使ってやがる!」


 ロットの言うとおり、カルマはサイコダガーで先を照らしている。武器兼明かりとするようだった。


「二人とも、サイコバリアを展開するんだ。それでも明かり代わりにもなるだろう」


 カルマの言葉に、慌てて二人ともサイコバリアを展開した。ヴヴヴンと青い光が身を包む。


「ええい、カルマだけを行かせられませんわ。私がライトで道を照らすから、ロットは後ろをついてきてくださいまし」


 そういうとピコも降りていった。ロットはまったく準備をしてこなかった己の浅はかさを呪う。こんな冒険らしい冒険となるとは思ってもいなかったのだ。

 下水道の中へ進入すると、地下は狭い通路がかろうじて存在する水路となっていた。


「ロット、ピコ。ここはバイオモンスターの巣があるかもしれない。気をつけて! 何かが出てきた時は僕が退治するよ」


 サイコダガーの青白い光に照らされたカルマが先頭を歩いた。

 たしったしったしったしっ。湿った足音だけがあたりに響く。通路は何かしらのごみが山積し、靴の裏の嫌な感触となって伝わる。


「ううっ、非衛生的ですわ!」

「我慢して欲しい。他に進入経路は無かったんだ」


 カルマがサイコダガーで裂き行く道を照らしながら返事を返す。・・・・・・ふと何かが動く。

 チチチッ!

 突如躍り出てくる鼠のバイオモンスターが一行に飛び掛る! バチンと言う音。カルマのサイコバリアを直撃したようだ。弾かれた鼠が地面に落ちる。それをカルマは正確に切り裂いた。バイオモンスターは人間に明確な敵意を持つ。ゆえにモンスター。ただの動物の姿をしていようが、ただの動物とは異なった。


「バイオモンスターか! 大丈夫か、カルマ?」


 ロットが後ろから声をかける。


「大丈夫だ。サイコバリアに傷を受けたが、この程度のモンスターならどうという事は無い。こいつらがいるという事は、この先に人間がいることはまず無いから、下水を抜けてしまえば問題ないだろう」

「しかし困ったものですわ。こんなところにまでバイオモンスターが入り込んでいるだなんて。衛生局は一体何をしているのかしら」

「そこなんだよ。バイオモンスターはどんな階層にもいる。だが、彼らの生態はわからない。神がバイオモンスターの研究を禁止しているからね。だからなにもわからない。ただ、やつらは人の驚異となる以外のことは分かっていないんだ。これから行く研究所の跡地ではかつてバイオモンスターの研究をしていた。その研究の発覚はこの階層の恥とされて隠蔽されたが、僕は正直その研究成果に興味がある」

「壁で研究所の周りを封印するだなんて真似をしたのも何かあるぜ、きっと」

「そう。そこなんだ。実験体のバイオモンスターが何体もまだ眠っているという噂だ。かなり離れた階層のモンスターもいるらしい」

「おいおいおいおい。そんな話は聞いちゃいねぇぞ。大丈夫なのか?」

「なんだ、ロット。怖気づいたのかい?」

「んなわきゃないだろう! だが、危険があるなら俺だってそれなりの準備をしてきたぞ」

「ああ、僕が言っていなかったものな。ごめんごめん。ただ、知っているものとばかり」

「そんなに街の施設の事情に詳しいのは、消防士の家をやっているお前くらいだろうよ!」

「だから知りえた情報ってわけさ! さて、研究施設への出口が見えてきたぞ」


 カルマが天井を見上げると、地面へと向かって伸びる手すりが見えた。昇れば蓋が閉ざされているが、その蓋はサイコダガーでこじ開けるつもりのようだ。

 カルマを先頭に、三人がマンホールの蓋をこじ開けて外へ出る。


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