帰宅
「ただいまー」
「おかえり。今日の会議うわっ」
「由佳たああぁん!ぼく帰ってきたよぉ!んーんー!」
帰ってきた途端善訓は私に飛びつき唇を尖らせている。
(お互い40を超えたというのにこの人は変わらないな)
彼は外では理知的に振る舞っているが、二人になるとこうなってしまう。
漫画の一コマのように手足をバタバタさせている彼の頭を押し除けながら尋ねる。
「会議どうだったの。上手くいくか心配してたでしょ」
「なんとかなったよおぉ!んー!んー!」
「しつこい!あっちいけ!」
パンッ!
軽くビンタする。ここまでが日常の挨拶。
「…とりあえず皆納得してくれたから、作戦は問題なく実行できそう」
「そう、なら良かった。じゃあご飯作るね」
今の日本は食糧事情が逼迫している。各地の支部の周辺には結界らしきものがあり、魔物はその中に入れない。
(だけど私達には対抗手段がないから結界から出ることも碌にできない。早くなんとかしないと備蓄も底をついてしまうし。今回の作戦はみんなの希望になるかもしれない)
「ヨシくんは太ってるし走るの遅いんだから作戦では無理しないように」
「わかっちょる!」
彼が唇を尖らせながらえっへんしている。
「ただ、仲間に命懸けの作戦を提案した以上、俺もやるべきことはやる」
(この人は責任感だけは人一倍なんだよなぁ)
「分かった。じゃあそこに座って。すぐ出来るから」
「あいっ」
食事の準備をしながら私は何か嫌な予感がしていた。
(お願いだから無事に帰ってきて…)
主要人物紹介
由佳:41歳。善訓の妻。結婚して8年だが新婚時以上に善訓に溺愛されている。看護学校卒業後すぐに看護師になり実務経験豊富。パルチザン太宰府支部では医療班として活躍している。