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日ノ本ノ御柱  作者: やろまろ
第二章
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呪いの権化

「ひいっっ!こ…こないでえぇ!!」




 俺はその女を見た途端、腰を抜かして情け無い声をあげた。


 ワタワタと手足を動かして逃げようとするが、身体が思うように動かない。


 まるで夢の中にいるようだ。




「あ…あわわわ」




 薄汚れた白いワンピース。


 腰まである長い黒髪。


 異常なまでに白い手足。


 爪が剥がれボロボロになった手先。


 全身の骨が折れているかのようなギクシャクとした歩き方。




 ソレは片手をこちらに伸ばしながらゆっくりと歩いてくる。


 若い頃に映画で見た、高山竜司の死顔が脳裏に蘇る。




 …そしてサダコが目の前に、俺を見下ろす位置まで来て止まった。


 仲間は圧倒的な死の気配に気圧されているのか動けない。




(し…死ぬ…しぬ)




 サダコは伸ばした手で俺を指差し、前に垂らした髪の間からあの恐ろしい目で俺を見つめる。


 その瞬間、心臓がドクンと跳ね、止まったかのように思えた。




 俺は死を覚悟した。




 だが、予想に反して俺の心臓は動き続けていた。


 よく見るとサダコの首がゆっくりと回転している。


 姿勢はそのままに首だけがゴキゴキとあり得ない角度まで回り、リバティの方を見た。




 リバティはサダコと目を合わせたまま固まっている。




 サダコがまた俺の方にゆっくりと視線を戻す。


 そして俺と目を合わせると突然音も無く掻き消えた。


 後には何故か軽い柑橘系の香りが残された。




 サダコが消えると身体も動くようになった。




「皆戻れ!」


 俺は慌てて仲間を戻すと、一刻も早くその場を離れる為におぼつかない足に必死に命令して走り出した。




(ちくしょう!なんだってあんなのがこの世界に!ちくしょう!ちくしょう!)


 あまりの恐怖で頭が混乱し過ぎて、もう何も考えられなかった。




 山の麓から森を抜け、広い草原に出るまで一気に走り抜けた所で体力の限界がきた。


 腰が砕けたように思わずへたり込む。




 そこで急に一人でいるのが怖くなって再度仲間を呼び出した。




「皆大丈夫だったか?!」


 仲間が無事か確認する。


 聞いている自分が一番大丈夫じゃないのだが。




 クゥーン…


 リバティがペロペロと顔を舐めて励ましてくる。




「大丈夫ですか?どうなされたのです?」


 鳴女は意外と平気そうだ。




「イサ様、あの魔物を前に見たことが?」


 ゴクウが質問する。




「え…いや、うん。すまない。皆には情け無い姿を見せてしまったな」


 一目でサダコと分かってしまったので頭から抜けていたが、落ち着いて考えてみるとあいつを見た時サダコと表示されていた気がする。


(とするとあいつは魔物にカテゴライズされてるのか。でも何故映画の幽霊が魔物に…)




「皆は平気なのか…?」


「ええ。特に殺意などは感じられなかったので」


 ゴクウが軽く答える。


「私も害意を感じませんでしたよ?」


 鳴女も同意する。




 ワフッ!


 …お前もか。




(なんだ、俺が必要以上にビビっていただけなのか…?いやでもサダコは怖いだろ常識的に考えて)


 そうだ。


 俺はサダコが何なのか知っているから怖いのだ。




「なあ、皆にはアレが何に見えた?」


 ゴクウに訊く。


「ただの幽霊、種族名的にはゴーストでしょうか」


「そうですね。私にもそう見えました」


 ワフ!




(ゴースト?いや、確かにゴーストではあるのかもしれんが)


(種族の中にネームドモンスターやユニークモンスターがいるってことなのか)




「そうか…」


「いや、実はな。アレは…」


 俺は元の世界では映画と呼ばれるものがあり、サダコとはその登場キャラクターだということを説明した。


「…というわけで、その映画の中ではサダコは呪いの権化であり無差別に人を呪い殺す恐ろしい存在なんだ」




 皆に説明し終えてある可能性に思い至る。


 サダコがいるということは、サダコと双璧をなす存在であるカヤコもいるかもしれない。


 それどころか口裂け女やヒキコやジェイソン、フレディ…もはや何だってアリだ。


 その可能性を考えるだけで怖気がして鳥肌が立つ。




(俺、そんな魔物を倒せるのかな…)


 とてつもない不安に襲われる。




 映画の幽霊や化け物は基本的に不死身だ。


 ご都合主義的にとはいえ、新しい映画が公開される度に何度でも復活する。


 そんな魔物とどう戦えというのだ。




 …いくら考えてみても現時点ではそんな魔物を倒すことは不可能だという結論にしかならない。


 だからといってここで任務を放棄するわけにはいかない。




(本当は今すぐにでも逃げ出して自宅に引きこもっていたい。でも俺はこの魂の修行とやらを終えて建御名方タケミナカタの力を得て由佳を守るんだ…!)


(神の力とやらがあればもしかしたら何とかなるかもしれない!願わくばそれまではあいつらと遭遇しませんように!)


 俺は自分を奮い立たせるように念じた。




 そして冷静さを取り戻し、皆に指示を出す。


「そういうわけだ。皆、サダコは普通のゴーストと違って危険だから見つけたらすぐに逃げてくれ。間違っても戦いを仕掛けたりするなよ」


「次はさっきのルートは避けて迂回する。少し休んだら出発するぞ」




「それはよろしいのですが…」


 鳴女が何か言いたげにしている。


「なんだ?」




「その前にお召し替えをなされた方が良いかと」







 …前が濡れていた。


 しかも気づけば後ろも何やら気持ち悪い。




(前の世界と合わせてもう60歳近く生きてきて、よもやこのような恥ずかしめを受けるとは)




 俺は少し背の高い草むらに着替えを持って走っていった。

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