鳴女
…嘘をつかれた腹いせに少々痛い目に合わせるつもりが、ちょっとやり過ぎてしまったようだ。
「ほら、これを食べろ。どんな傷も治す霊薬だ」
「どんな傷も治す…?」
「そうだ。手が痛いだろう?痛みもなくなるから早く食べるといい」
そう言うと、鳴女は霊薬を恐る恐る顔の近くに持ってきて匂いを嗅いでいる。
チラリとこちらを見たので俺が黙って頷くとゆっくり口に含んだ。
「あ…これ…おいち…」
鳴女は痛みなど忘れたかのようにうっとりした顔をしている。
「…ジャスト1分だ。いい悪夢見れたかよ」
ジャスト1分でもなんでもない。
ただ言ってみたかっただけだ。
「これは…指が生えた…?」
鳴女がちゃんと指がついている自分の手を見て目を丸くしている。
「違う。いくら霊薬でも失った身体の部位は戻らない。お前は幻覚を見ていたんだよ」
「あれは幻覚だったのですか…?」
「そうだ。思ったより酷い幻覚だったようだな。正直やり過ぎた。すまなかった」
「いえ…指がなくなっていないだけでも幸いです」
実はゴクウが教えてくれたのだが、ゴブリンのいた森には尋問によく使われる強い幻覚作用のある草が生えていた。
それを鳴女にあらかじめ飲ませていたのだが、その効果はバツグンだった。
女の指を切り落とすなんてとんでもない。そんな趣味はない。
「それでな、お前に提案がある」
「…はい、何でしょうか」
鳴女は元のウルウル瞳に戻っている。
(こいつはいつもこうなのか…)
「ゴホン。実はな、俺達は目的が同じようなんだ。俺達は温羅に攫われたムラの人達を助けたい。お前は人質の婚約者を助けたいのだろう?」
「はい…」
「お前は温羅の計画を失敗させた。そのせいで帰ったら人質がどうなるか分からない。そうだな?」
「はい、その通りでございます…」
「そこでだが、俺達は鬼ノ城までの道案内が必要でな。だからお前に道案内をしてもらいたい。その代わり、俺達はお前の婚約者の救出を手伝う。どうだ?」
「…良ろしいのでしょうか。私はイサ様を騙したのですよ…?」
「うむ、それはお前にも事情があったのだから水に流す。それに、ゴクウも俺もこの通りピンピンしてるしな」
「ありがとうございます…本当にありがとうございます…」
「うむ、じゃあそれで良いな。よろしく頼む、鳴女」
「はい。こちらこそよろしくお願い申し上げます、イサ様」
そう言うと鳴女はまた泣いた。
俺達はムラ長にこちらは片付いたことを報告すると、一旦都に戻って再度出直すと伝えた。
温羅のことを父に報告する必要もあるし、他にも戻ってやる事ができた。
雉の化身である鳴女が現れたことで、今まで薄々考えていたことが確信に変わった。
ここは【桃太郎】の世界だ。
…もう犬は見つけている。
「何もかも神の手のひらの上か…」
そう独りごちると、ほっほっほっ…と特徴のある笑い声が聞こえた気がした。
主要人物紹介
鳴女:雉の化身で神の御使いとされる。葬儀で盛大に涙を流す泣き女と同一視される。温羅に攫われた婚約者を助ける為、善訓と契約を交わした。




