魔獣
「イサ、見てきたか?」
「はい。見てきました」
「して、アレはなんだった?」
「アレは…冥界の魔獣ケルベロスです」
扉の先でケルベロスを見た時、ある意味懐かしい表示が突然目の前に現れた。
(あれ、魔物召喚アプリのアナライズ表示だったよな…)
この世界に飛ばされた時に持ち物が全て無くなっていた為、アプリのことなどすっかり忘れていた。
「ふむ。アレはけるべろすという名なのか。どうして名が分かった?」
「申し訳ありません。アレを目にしたら名が見えた、としか言いようがありません」
(それよりも)
「どうしてケルベロスが皇居の地下にいるのですか?」
「うむ。アレはな、先代が現役だった頃にいずこからか突然現れて、この地を荒らしまわっておったのだ。その被害は甚大でな。一晩で滅んだ村もあったようだ」
「そこで先代が兵を率いて討伐に赴いたのだが、あまりの強力さゆえ討つことができなかった。そこでやむを得ず封印することにしたのだ」
「その時に先代は大怪我を負ってしまってな。封印を守護することが難しくなった先代は私に皇位を譲ってこの地を託されたのだ」
「そうして封印が何者かに解かれたりしないように、私がここに遷都し廬戸宮を建てたというわけだ」
「そういうことだったのですか」
(なぜケルベロスがこの時代の日本にいるのかは分からず、か)
ケルベロスはギリシャ神話に登場する三ツ首の魔獣で、地獄の門番ともいわれる冥界の番犬だ。
(この世界とは全く関わりが無いように思えるが)
「これで儀式は終わりでしょうか」
「あ、ああ。終わりだ。大儀であった。これでお前も一人前だ」
「ありがとうございます父上」
俺は無事に儀式を終え、自室に戻った。
(さてと)
(なぜアナライズが目の前に立ち上がったのか)
(携帯は向こうにあるから…アプリそのものが俺にインストールされたとか?…そんなことあるか?)
(とりあえずアレを試してみよう)
俺はキョロキョロと周囲に誰もいないことを確認した。
(よし、誰もいないな)
「魔物召喚アプリ!」
「…」
「アプリ表示!」
「魔物アナライズ!」
「ステータス表示!」
「マップ表示!」
「えっとうーんと、魔物召喚応用!適用!」
…しかし何も起こらない。
(む…むなしい)
ハァ…
ため息をつき頭を抱える。
(あのアプリには使役や召喚の機能があったはず。もしケルベロスを使役できれば元の世界で強力な助っ人になるんだが…)
(そういえば父ちゃんはなぜケルベロスを俺に見せたんだ?)
「…分からん!!」
仕方ない。今は保留しておこう。
(一人前として認められたということは、これから魔物の討伐に参加することもあるだろう。とにかく今は剣の修行を怠らないようにしよう)




