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日ノ本ノ御柱  作者: やろまろ
序章
1/28

魔都誕生

 20xx年11月2日 夜 【札幌の郊外】


 薄曇りの空に一つの影があった。




「ケケケッ」


 ソレは不気味な声を発し、大きなコウモリのような翼でバサバサと羽ばたきながら上空から獲物を探していた。


「ニンゲンオオイ。ホネガオレソウダ」


 闇夜に溶け込む黒い身体のソレは裏路地を一人で歩く男に目星をつけ、その背後に降り立った。




「オイ、ニンゲン」




 男が振り向く。男はソレの姿を見て思わず笑った。


「おいおいなんだよ!スゲーなそのコスプレ!ハロウィンはもう終わったよなあ?よく出来てるなその羽」


 男は物珍しそうな目をして無防備に近づく。


「ちょっと触らせてくれよ」


 そう言いながら男がソレの肩に手を伸ばした。




「ケケケッ」


 ソレは不気味に笑うと、その鋭い爪のついた手を振り上げ、目にも止まらぬ速さで振り下ろし男の腕を切り落とした…




 同時刻 【名古屋】


「あれ、こんなアプリ入れたかな」

 歩きスマホの女は足を止め、画面を凝視する。


「昨日酔って入れたのかなー」

 慣れた手つきでアプリを削除し、再び歩き出す。




 バシャッ。


「げっ、サイアクー!なんで水溜りがあんのー?この靴買ったばっかなのに。今日雨降ったっけー?ハァ。」


 ため息をつき、水溜りから出て足を振る。

 しかし水は一滴も靴から離れない。

 しかも靴の先から徐々に這い上がってくる。


「なにコレ!キモチワルイー!」

 女は恐怖し、靴を急いで脱ぎ捨てた。

 そして顔を上げた瞬間。




 バシャッ。




 目の前の水溜りから広がった、水だと思っていたモノが女の視界全てを覆い尽くした。


 それが女の見た最期の光景だった。




 同時刻 【福岡】


 博多の街中に大きなライオンが現れたとの報せでその警官は現場に急行していた。


「近くの動物園から脱走したんですかね?」

 先輩の警官に尋ねる。


「そんな通報は無かったけどなあ。猟友会にも応援を頼んであるが相手は猛獣だ。襲われたら迷わず発砲しろよ。許可は取ってあるから」


「分かりました。市民に当たらないように充分注意して対処します」




 現場に近づくにつれ、恐怖の面持ちで逃げ惑う人の姿が増える。現場ではパニックが起こっているに違いない。


「道を空けて下さい!皆さん落ち着いて避難して下さい!」

 車両のマイクで呼びかけつつ、車を走らせる。




 …程なく現場に到着した二人は目の前の光景に驚愕した。そこら中にバラバラになった人体の一部が散乱していたのだ。



「こりゃ…酷いな…」


 先輩警官が独りごちる。




「気をつけろ…!こりゃただのライオンの仕業じゃねえぞ!」


「は、はい!」




 恐らく10人以上殺されているだろう。


 その中心にそれはいた。




「先輩…あれ、なんですか…。ライオンなんてモンじゃない程デカいしなんか頭が2つあるように見えるんですが!?」


「…俺にも分からん!応援を呼べ!アレはヤバい。俺たちでどうにか出来る相手じゃない!」


「了解しました!充分気をつけて下さい!」


 後輩は応援を呼ぶため車両に駆けていった。




 目の前で繰り広げられている地獄のような光景の中心にいたのは体長4〜5mはありそうな双頭の大きな獣だった。




 先輩警官はそれに見覚えがあった。アレはゲームで見たことがある。そのゲームは大好きで何度も繰り返しプレイしたから見間違えるハズが無い。




「しかし、そんなことが…現実に?」


 ホルスターから拳銃を抜き、構える。




 グルル…。


 獣が牙を剥き出し獰猛な唸り声をあげ、殺気のこもった目でこちらを睨みつける。




 心の底から恐怖が湧き上がり、脳内では警鐘が鳴る。手足がガクガクと震え、手元もおぼつかない。


 だが、混乱した頭の中でもハッキリと分かることがあった。




 一つの生物としての本能からくる生命の危機である。




 日本の警官は滅多なことでは発砲しない。

 世界でもトップレベルの治安の良さを誇り、警察にとってはぬるま湯であるこの国では、殆どの事案において銃を必要としないからだ。




 しかしこの場は違った。一刻も早くアレを止めなければ尋常じゃない数の死人が出るだろう。




 先輩と呼ばれた警官は優秀な人物だった。


 元マル暴だった彼はこれまで幾度も修羅場を潜り抜けてきた。


 刃物や銃を持ったヤクザと相対したことも何度もある。


 そんな過酷な任務も彼は成功させてきた。




 その経験が程なく彼を落ち着かせた。




 彼はしっかりとソレに照準を定めると、迷わず発砲した。




 同時刻 【東京】


 美しい翼を持つ天使。


 誰もが見惚れるような美貌にスラリと伸びた手足。透き通るような白い肌。鍛え抜かれた肉体。渋谷上空から街を見下ろす彼は美に満ちていた。




 彼は全ての生物を圧倒的に超越していた。


 どんなに強力な生物でさえ、いや、神でさえ彼に相対すれば畏怖し平伏すだろう。


 彼には生命そのものの輝きがあった。




 彼は静かに右手を天に突き出した。


 そして心を凍てつかせるような冷たい視線で街を見下ろした。


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりとその手を振り下ろした瞬間、東京で魔物達による殺戮の宴が始まった。




 空から降り立つモノ。


 影から這い出るモノ。


 次元の狭間から現れたモノ。




 地面から、壁から、水から、火から、ありとあらゆる場所から魔物達が現れ、襲い、喰らった。




 号令により急襲した魔物の軍勢により一晩で東京は壊滅し、そこにいた人間は一人残らず虐殺された。




 彼は満足気な笑みを浮かべると誰もいなくなった街に降りていった。




 この時より東京は魔の支配する都となった。

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