戯れ言 胸の傷と勲章
幼い頃の体験談を何となく文章にしてみました。
似たような境遇の方には辛い面もあるかと思いますが、よろしくお願いします。
私には胸から腹にかけて大きな傷がある。
生まれた時から心臓が悪くて、生後三日で手術をした。
父と妹にも傷がある。
父は学生時代に事故で腹を切った。
妹も私と同じ心臓の病で何度も切った。
そんな中で育ったので、自分の胸の傷を何とも思わなかった。
だが、年齢を重ねるごとに周囲はそれを許してくれない。
「その傷どうしたの?」
私は素直に答える。
大抵の子供は興味本位で流して終わって、たまに傷を触ってくる。
何となく、その意味が分からずにいたが、何故かそれが自慢だった。
そんなある日の事だった。
「どうして胸に傷があるの? 痛くないの?」
いつも通りに答える。
「ふーん。気持ち悪い」
その少女はそれだけ言うと、足早に去って行った。
自分でも本当は解っていた。自分と他の人は別なのだと。
しかし、それに対して不快に思ったことは無い。ただ、疑問が残るだけ。
「お父さん。お母さん。どうして俺達には胸に傷があるの?」
母は口元を隠し、黙って考え込んでいた。
父は真剣な眼差しのまま、少しだけ口元に笑みを浮かべて言った。
「それはね。お前が生きようとして命がけで戦った勲章なんだよ。恥ずかしい物じゃ無い」
「?」と、幼い私は小首を傾げた。
戦った覚えなど無い。戦うと言えば悪人や怪人と戦うヒーローを思い浮かべる。
父は続けた。
「覚えていなくても、お前の体は覚えている」
胸の傷、脇や手足の各関節をメスで切られた点滴の跡。
「やっぱ俺って改造人間(ヒーローと同じ)なんだ! かっけー!!」
沢山の人により命を紡がれた胸の傷の勲章が、子供心に誇らしく感じられた。
そして、自転車に跨がり友人達の元へ向かった。
「俺、やっぱ改造人間だったぜ!」
私は胸を張った。
「俺、何かと戦ったらしいぞ!」
「マジかよ、かっけー!」
「すげーじゃん!」
「あの傷、また見せろよ! ってか、触らせろ」
「おう!」
そんなやり取りをしながら、友人達と笑い合った。
胸の傷は、今でもそんな楽しい思い出と一緒に私の命を紡いだ証である。