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 小鉄の姿が見えなくなるとすぐに白夜と極夜は屋敷の明かりを避けるようにして歩き出す。


 紫苑もそれに続くようにできるだけ足音を立てないようにと足元に注意しながら歩いていると急に自分の前を歩く双子の歩みが止まり、思わず極夜の背中に顔をぶつけてしまう。


「いたッ!極夜さん急に立ち止まってどうし……」


 紫苑が最後まで話終える前に紫苑の口は極夜の手に塞がれる。


 いきなり口を塞がれ驚いて極夜と白夜の顔を見上げると双子の視線はちょうど前方にある生垣の向こう側の様子を伺っているようだった。


 紫苑もその視線の先へと意識を集中すると、そこには妖狐の屋敷の者たちがなにやら慌てて誰かを引き止めているようだった。


「こんな時に面倒なお方が来たもんだ」


 極夜は苦々しい表情を浮かべるとちらりと紫苑の方を見てから白夜に言う。


「ここは僕が気を引くから白夜は紫苑様を連れて先に部屋へ」


 白夜は極夜の言葉に頷いて返すと、紫苑の手を握り自分の側へと抱き寄せる。


 紫苑は思わず極夜に何があったのか聞こうと声を出そうとするが、それは白夜によって止められる。


「ここから先は私が良いと言うまでけして声は出さないでください」


 有無を言わせない真剣な眼差しに見つめられ、紫苑は喉まで出かかった言葉を飲み込み頷いてみせる。


 白夜と紫苑の様子を見て極夜はそのまま生垣の向こうへと一人で歩いて行ってしまった。


 残された白夜と紫苑は先ほどよりも生垣の近くへと身を潜め、陰から向こう側の様子を伺う。


 どうやら生垣の向こう側はお屋敷の正面玄関の近くらしく、そこには妖狐の屋敷使えの者たちが必死の形相で二人組の男を引き止めている。


 二人組の男が制止を気にせずにそのまま進もうとすると、そこに極夜が現れた。


「これはこれは妖猫の御当主様ではありませんか、今日は訪問の予定はなかったかと存じますが……火急の要件でしょうか?」


 何食わぬ顔で現れた極夜に屋敷の者たちは驚きつつも、どこかホッとした様子で頭を下げ極夜の後ろに控える。


「おや、これは月天ところの懐刀の一人じゃないか。いやぁ、天神祭のことでいくつか話しておきたいことがあってね」


 極夜はほんの一瞬探るように瞳を細めるが、すぐに笑みを貼り付け琥珀へと返事をする。


「そうでしたか、誠に申し訳ありませんが本日は月天様は執務で席を外すことができません。また後日席を改めて設けさせていただくという形でもよろしいでしょうか」


「ふーん、そっか。なら仕方がないね、じゃあそこの生垣に隠れている子でも捕まえて暇つぶしに付き合ってもらおうかな」


 そう言って琥珀は紫苑たちが身を潜めている生垣の方へちらりと視線を送ると、極夜に意地の悪い笑みを向ける。


 琥珀の一言で極夜の後ろに控えていた者たちがざわつき出すと、極夜はいつも通りの声色で自分の後ろに控える者達に急いで屋敷に戻り一室用意するように指示を出す。


 極夜の指示に従い他の者たちがいなくなると、琥珀のすぐ後ろに控えていた男が目にも止まらぬ速さで紫苑たち目掛けてクナイを投げつける。


 キンッ!


 甲高い金属音が鳴ったかと思うと、紫苑のすぐ側に控えていた白夜が小刀で投げられたクナイを弾き返したところだった。


「早く出てきた方が良いと思うな〜。このままだと友人の屋敷の玄関先にいる不審な者を力づくでも引きづり出さないとならなくなっちゃうよ?」


 相変わらずの笑みを浮かべながら琥珀は脅しともとれる言葉を飄々と言ってのける。


 琥珀の態度を見てこれ以上は危険だと判断した極夜は、身を隠したままの白夜へ向けて合図を送る。


 すると白夜は紫苑を抱き抱えたままその場から一足飛びで極夜のすぐ隣まで移動する。


 白夜が紫苑の顔を隠すように懐にあった手拭いを紫苑の頭から被せると自分の影になるように紫苑を後ろに隠す。


「やっぱりだ!君ら双子は二人で一人前だからね、そうそう別行動をとるとは思えない。それよりその大事そうに隠しているのは噂の娘じゃない?」


 琥珀が興味津々で紫苑のことを覗き込もうとするが極夜と白夜が盾となりそれを拒む。


「琥珀様には関係のないお方です」


 一切表情を崩さないままそう白夜が答えると、琥珀はより一層笑みを深めて何かを考える素振りを見せる。


「『お方』ねぇ〜。こりゃあ、思ったよりも面白いことになってるみたいだね」


 生真面目な白夜からでた一言で全てを察したのか琥珀は品定めをするかのように紫苑の方をじろじろと見てくる。


「琥珀様、部屋をご用意しましたのでそちらでお待ちください。月天様に確認次第ご連絡いたしますので」


これ以上は詮索不要とばかりに極夜がそう言うと、琥珀はつまらなそうに小さくため息をつく。


「なにもそんなに警戒しなくても他人のモノを取る趣味はないよ〜、それよりも白桜さんの事で面倒なことになってるんじゃないの?」


琥珀の口から思わぬ名前が出てきて思わず極夜も白夜も瞳を一瞬見開く。


「妖猫の一族はよく効く鼻と遠くまで聞く耳を持ってるからね、他所の里の事だってある程度は情報が流れてくるモンだよ?それより良いの?こんな所で油打ってて」


「そこまでお分かりならなぜ本日はここに?」


喧嘩腰ともとれるような棘を含んだ態度で返すと、琥珀の後ろに控えていた男が一歩前へと出ようとする。


しかしそれは琥珀の制止によって止められた。


「なにね、あの女っ気のなかった月天が遊女を召し上げたって言うじゃないか、しかもその遊女をめぐってあの白桜さんまで出てきたと言う。こんなに面白そうな事、首を突っ込まずにはいられないよね。で、その娘はどこの誰なのさ?」


琥珀は先ほどまでの雰囲気を一変させ、鋭い瞳で紫苑の瞳を射抜く。


「わ、私は……」


紫苑が思わず自らの名を名乗ろうとすると、それをかき消すように白夜が答えた。


「幻灯楼に売られてきた何の取り柄もない人間の娘です。月天様が気に入られたのもほんの気まぐれです。では、所要がありますので私たちはこれで」


紫苑の手を引きそのまま屋敷の中へと入ろうとする白夜を琥珀は思いもよらない提案で引き止める。


「いいのかな〜?そんな態度をとっちゃって。今の月天の事を庇えるのは俺しかいないと思うんだけどな〜」


「それはどう言う事ですか?」


誰よりも早く反応したのは極夜だった。


「いやぁ、どうせ今日屋敷がバタバタしてるのは昨日の白桜さんが屋敷に来てひと騒動起こした件の責任をとれ〜とかって上役たちが騒いでるからだろ?差し詰め黒子さん辺りが言いそうな事だ。このままだと月天は諸々の責任を取って尾を落とすか神通力を削られるか……どちらにしろ面倒なことになるだろ?そこで俺が一言言葉添えしてやろうって言うんだよ」


「……見返りは?」


妖猫の御当主ともあろう方が何の見返りもなく力を貸してくれるとは思えない。極夜と白夜は訝しげに琥珀の顔を見つめ返す。


「見返りはその娘の顔と名前でいいよ」


その場にいる全ての者の視線が自分に集まったのを感じ、紫苑はこのまま俯いたままでいいものかと悩むが、思い切って面をあげる。


「私はかまいません」


双子との約束を破り紫苑は自分の声を出して答える。


極夜は諦めたように深いため息をつくと、琥珀に向き直り先程の話を確かめる。


「こちらのお方の名前と顔を引き換えに本当に月天様の有利になるような証言をしていただけるのですか?」


「もちろんだとも、こう見えて冗談は言っても嘘はつかない主義なんだ」


笑みを浮かべて琥珀がそう答えると、観念したように極夜は紫苑の名を告げる。


「こちらのお方は先日、月天様に召し上げられました紫苑様と申します。紫苑様、失礼します」


極夜はそういうと紫苑の頭をすっぽりと隠していた手ぬぐいを取り去り、琥珀に見えるように紫苑の手を引いて一歩前へと引き寄せた。





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