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朱色の鳥居が並ぶこの景色を見ていると夢の中で何度も見た鬼の里にある七鳥居を思い出す。
鳥居は神域と俗界を隔てる意味を持つと言うが、この幽世でも似たような意味を持つのだろうか。
不思議な空気を漂わせて居並ぶ四つの鳥居を見つめていると、極夜と白夜は何やら鳥居の前に立つと二人の手を合わせ祝詞のような言霊を唱える。
双子の声が止むと鳥居の奥の景色が蜃気楼のように揺めきだす。
「これで上ノ国にあるお屋敷まで道は繋がった。五体満足で帰れるかは分かんないけどここまで来て怖気付くような性格じゃないよね?」
極夜は悪戯っ子のような笑みを浮かべてそう言うと紫苑の方へ手を差し出す。
紫苑は自分の心にじわじわと広がる恐怖と不安を振り払い差し伸べられた極夜の手をとる。
「当たり前です!」
握った極夜の手はひんやりと冷たかった。
白夜が二人を先導するように人の頭ほどの大きさがある鬼灯の行燈を手に歩き出す。それに続き極夜は紫苑の手をしっかりと握ると前を向き鳥居をくぐり抜ける。
一つ目の鳥居をくぐり抜けると先ほどまで居た夢幻楼の中庭の景色は消え、辺りには紫苑達の腰くらいまでの高さがある草が生い茂っていた。
曼珠の園とは違いここには明かり一つありはしない。紫苑達の先を歩く白夜の行燈の明かりだけが頼りだ。
第一の鳥居を背に歩いていると肌を撫でる風は不気味なほど生暖かく、じとりとまとわりつく。
風に吹かれそよそよと葉を揺らす音だけが響く中歩き続けていると、前方に青白い光が見えてくる。
光の方へ歩いて行くとその光は朱い鳥居の前に浮かんだ狐火だと気づく。
「あの鳥居を潜れば上ノ国の屋敷だよ。潜り終わっても決して声は出さないこと。今の上ノ国の屋敷は安全とは言えないからね」
白夜の背を見つめたまま極夜がそういうと、紫苑は小さく頷く。
狐火の近くまでくると鳥居を守るかの様に左右に狐の石像が置かれていることに気づく。
白夜も極夜も気にすることなく石像の前を通り過ぎるが、紫苑はどうも石像が気になり振り返る。
振り返るとそこには先ほどまで前を見て石の台座に座っていた狐の石像がこちらを振り返るように見つめていた。
紫苑は思わぬ出来事にどきりと胸を鳴らすと慌てて前を向き白夜の後を追った。
最後の鳥居を潜り抜けるとそこは竹藪のようで、足元には飛び石のように点々と荒削りな庭石が続いている。
紫苑が辺りをきょろきょろと見回しているといつの間にか極夜と繋いだ手は離れており、白夜と極夜が二人で何やら話し合っているのに気づく。
二人が話終えるのを待っていると、竹藪の向こうからふわふわと青白い狐火のようなものがこちらに来るのがわかる。
慌てて二人に知らせようとするが、白夜も極夜もすでに気づいていたらしく驚く様子もなくふわふわとこちらに近寄ってくる狐火を見ている。
狐火は紫苑達の前まで来るとブワァッ!っと勢いよく燃え上がった。
「お久しぶりでございます!」
そこにはふわふわとした尾を揺らしてこちらを見る小鉄の姿があった。
紫苑が驚きのあまり大きな声を出しそうになると、小鉄は慌ててその小さな手を紫苑の口に当てる。
「紫苑様、大きな声はまずいです」
小鉄に言われ我にかえると、紫苑は小鉄の目を見て頷き返す。
「それで屋敷の様子はどうなの?」
小鉄と紫苑のやりとりを横目に極夜が小鉄に問うと小鉄は懐から小さな巻物を取り出して極夜と白夜に話だす。
「こちらが現在の屋敷内の状態です」
広げられた巻物は屋敷の見取り図らしく、細々と部屋の名前などが書かれている。
普通と違う所は、巻物の中に黒い点と白い点がいくつも動いていることだ。
「思ったよりも集まりが早いな」
白夜が巻物を見ながらそういうと小鉄は顔を顰めて話だす。
「黒子様が上役達に話をしたようで現在屋敷には旧派閥の者達が多く出入りしてます。月天様は自室に篭ったままです。あと一刻半後に上役達との顔合わせがありますので事を成すならそこが良いかと」
「分かった。僕らはとりあえず自室に一旦隠れるから小鉄は引き続き月天様のご様子をうかがってて」
小鉄は頷くと再び狐火の姿になり竹藪の向こうへと消えていった。




