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 黒子の後を追って部屋の入り口まで来たがやはりすでに黒子の姿はなく、侍女達の忙しなく働く音だけが部屋に残っている。


何となくだが黒子は紫苑に対してあまり良い感情を持っているように思えない。お披露目の時もそうだったが、今日もあんな事を言い捨てて部屋を出ていくなど紫苑の不安を煽って紫苑がボロを出すのを待っているようにしか思えなかった。


このまま部屋を飛び出してしまえば黒子の思うツボになってしまう。


紫苑は入り口に背を向け部屋の奥で仕事をしている黄金の元へ向かう。


「黄金、少し聞きたいことがあるのだけれど」


紫苑が申し訳なさそうに声をかけるとすぐに黄金は笑みを浮かべて答えてくれる。


「これは紫苑様、いかがいたしました?」


「実は今さっき、黒子さんが来て月天様がここ最近あった事件の責任を取って尾を落とされるらしいと教えてくれて……」


紫苑が不安げな表情を浮かべ黄金を見つめると、黄金は黒子の名を聞きほんの一瞬嫌悪感を表情に滲ませた。


「黒子様がこちらにお見えになっていることに気づかず申し訳ありません。黒子様からお聞きになったことは半分本当で本文は嘘で御座います」


黄金はそう言うと、周りの侍女達の耳が届かないよう声を落として話し出す。


「俄の鬼の騒動に加え昨日の白桜様との揉め事の件が上役たちにも知られ、旧派閥の者達がそれらを理由に月天様に二つの問題に関わっている紫苑様を鬼の一族へ引き渡せと申し上げたようで……。月天様は大変お怒りになり、上役達の半数に大怪我をさせてしまったのです」


「そんな……いくら御当主様とはいえ、上役の方がたに怪我を負わせてしまったら月天様の立場が悪くなってしまうんじゃ」


黄金は困ったような笑みをうかべそのまま話を続ける。


「いくら月天様といえども、正式な場であれだけの大きな騒動を起こしてはお咎めなしとはいきません。そこで出てきたのが黒子様でした。黒子様は月天様に一連の騒動と今回の上役達への怪我の責任を取って尾を一つ落とせば皆も納得がいくだろうと仰ったのです。いつもなら側近の双子が牽制をかけているので黒子様も大胆な行動には出ませんが、今は双子は謹慎中。それに紫苑様との婚儀の件もあり妖狐の里の上層部は月天様に付くべきか旧派閥を支持するべきか二つに割れており今も上ノ国のお屋敷では話し合いがなされています」


「そんな……」


紫苑は自分の知らないところでこんな重大なことが起きていた知りその場にへたり込んでしまう。


黄金が慌てて手を貸してくれるが動くことができなかった。


◇◇◇


 黄金から話を聞いてようやく紫苑が落ち着きを取り戻した頃にはとっくに牛の刻を過ぎていた。


黄金の話が本当ならば、このままでは月天は尾を落とすことになってしまう。妖怪や神獣などの類は尾を持つモノはその尾に力をためると言われている。


だからこそ、神獣と言われる金毛九尾の妖狐や猫又などもその尾の数が多ければ多いほど力が強く祀り上げられることが多い。


 月天は尾の数が七尾でこの幽世では七尾以上の尾を持つ妖狐はいないと小雪花魁が言っていた。その大妖である月天が尾を落とすとなると妖狐の里だけではなく他の里にも影響が出るだろう。


紫苑は意を決し、近くに控えていた黄金の方を向く。


「黄金、私、上ノ国のお屋敷に行って月天様の尾を落とさなくて済む様にお願いしてくる」


自分でも到底無理な事を言っている自覚はあるが、それ以上に何もせずにここでただ待っているだけなんてできなかった。


「紫苑様……申し訳ありませんが、紫苑様を上ノ国のお屋敷へお連れすることはできません」


黄金が深々と頭を下げるが黄金の後ろから現れた人物の声を聞いて黄金は飛び上がるように顔を上げた。


「なら僕が連れて行ってあげるよ」


黄金の後ろから現れたのは謹慎中のはずの極夜と白夜の二人だった。


白夜はひどく不服そうな表情をしているが、極夜はどこか楽しげな表情を浮かべている。


「極夜様!何を仰っているか分かっておいでですか?次はないと月天様にも言われたではありませんか!」


黄金は怒り混じりに声を荒げて極夜を睨みつけるが、極夜はそれすらどうでも良いとばかりに紫苑だけを見つめて話しかける。


「あんたが月天様のために上ノ国の屋敷に行きたいって言うなら連れて行ってあげる。もちろん僕らは月天様の尾を落とすなんて馬鹿げた事を言い出したやつを始末するために行くんだけど」


「極夜様!いくらお二人が術に優れていようとも黒子様を殺すことはできません!あの方を滅する事ができるのは月天様だけです」


いつもの落ち着いた笑みを浮かべている黄金からは想像もできないような焦りや不安などが混ぜ合わさったような表情をして極夜に詰め寄る。


「それは知ってるよ。この世から滅する事ができなくとも二度と月天様の事を煩わせられないように封じてしまえば良いのさ」


「極夜様……」


黄金が口をつぐんだのを見て紫苑は極夜に尋ねる。


「お二人はもう月天様のお話はすべてご存知なんですか?」


紫苑が極夜と白夜を順に見ると二人とも頷き返す。


「元はと言えば私が全ての問題の元凶です。私自身の事を知るためにも、母の事を知るためにも私は鬼の里へ行こうと思います。きっと私さえ鬼の里へ行くと決まれば月天様の咎ももっと軽いものに変わるでしょう」


極夜と白夜は何やら視線を交わすと、渋々と行った様子で紫苑の提案を否定するでも肯定するでもなくただ頷きかえした。


 双子と紫苑のやりとりを見ていた黄金が双子に悟られぬように月天へと繋がる念思の札を使おうと背後で術を編むが、白夜によって手を捻り上げられ床へと薙ぎ倒される。


「黄金には悪いけど、少しの間ここで眠っててもらうよ」


白夜によって床に押さえつけられた黄金はなんとか紫苑にこの部屋に残るようにと大きな声をあげて言うが、白夜の術をかけられ呆気なくその場にばたりと横になる。


意識を失った黄金を部屋の隅に横たえると、白夜と極夜は改めて紫苑の前に立つ。


「上ノ国の屋敷に入ったらもう後戻りはできないけど、それくらいの覚悟はできてるんだよね?」


紫苑が真っ直ぐ双子を見据えて力強く頷くと、極夜は口角を上げにやりと笑い紫苑に自分の後について来るように手招いた。


 双子について行くと何やら部屋の入り口の扉にかけられた術を解き、迷いなく仄暗い廊下を歩き続ける。


こうしてこの薄暗い廊下を歩いたのは俄の時以来ではないだろうか?そんな事を考えていると、双子は廊下の左側に現れた硝子が嵌め込まれたいくつも並ぶ引き戸の一つを開け、中庭へと降りていく。


紫苑も慌てて近くに置いてあった赤い鼻緒の草履を突っ掛けると中庭の奥へとズンズン進んでいく双子の後を追いかける。


中庭には見たこともない美しい草花が咲いており、よくよく見ると夢の中で紫苑が食べていたあの不思議な花に似ているような気がする。


紫苑が花々に気取られていると、前を行く白夜がぼそりと声を出した。


「この中庭は紫苑様のために月天様が作られた庭。花々は全て月天様の神通力を糧に成長し、華鬼である紫苑様の血肉となる」


紫苑は思わぬ言葉に驚きを隠せず、白夜にどこまで自分のことを知っているのか聞こうとするが極夜の声によって遮られる。


「着いたよ。ここから上ノ国のお屋敷に行く」


極夜が指差したのは古い祠が祀られた赤い鳥居が四つ連なる場所だった。


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