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 侍女たちに連れられやってきたのは夢幻楼にある大浴場だ。


大浴場といってもここを使用するのは月天と双子だけらしく一般の者たちは別の場所を使用しているらしい。


「ささ、紫苑様着物を脱いでこちらをどうぞ」


「あの、私一人で入れますので皆さんは別のお仕事をしていただいて大丈夫です」


このままでは侍女たちに体の隅から隅まで洗い上げられると察し紫苑は抵抗するが、今日は一向に引く気配がない。


いつもなら何度かいえば渋々一人にしてくれるのだが今日は何をいっても聞く耳を持ってくれない。


「今日ばかりはしっかり隅から隅まで磨き上げさせていただきます!月天様との大切な初夜ですからね!」


「え!初夜って!」


紫苑が驚いて否定しようとするが、紫苑の着物を器用に脱がせていく侍女たちはテキパキとあっという間に準備を終わらせる。


「紫苑様、諦めてくださいませ」


黄金までも微笑みながらそう言うと、紫苑は侍女たちに手を引かれて湯に浸かる。


ゆっくりと肩まで湯に浸かると侍女たちは紫苑の髪を整え出す。


「あら、紫苑様せっかくのお髪が……湯から上がったら軽く整えましょうか」


静那花魁に髪の一部渡すために切ってしまったので今の紫苑の髪は所々が短くなっており斬バラだ。


「あの、先ほど言っていた初夜って……」


「今晩は月天様と寝所を共になさるのですよね?婚姻の儀はまだですがそうとなればやはり色々と準備しておかねば」


紫苑は月天の隣に布団を敷いて同じ部屋で寝るだけだと思っていたのに、いつの間にかあらぬ方向へと話が進んでいる。


「違うんです!今日は月天様が体調がすぐれないとおっしゃったから近くに布団を敷いて寝るだけで……」


「あらあら、紫苑様は本当に奥ゆかしい方でございますね。心配せずとも私どもでしっかりと磨き上げさせていただきますので安心して身を任せてくださいまし」


侍女たちの手によって紫苑はあっという間に頭の天辺から足の先まで入念に手入れされ、着替えのために連れてこられた部屋で初めて姿見に映る自分を見て驚いてしまう。


(これが私?)


鏡に映り込んだ紫苑の姿はどこからどう見ても裕福な家の娘や武家の姫のようにしか見えない。


幻灯楼で働くようになって髪や肌は手入れするようになったが、それと比べるまでもない程に髪は黒く艶やかに、肌は新雪のように白く透明感が宿っている。


生まれて初めてこんなに綺麗にしてもらい、紫苑の中にあった乙女心が思わず胸を高鳴らせる。


「紫苑様、どうぞこちらに」


黄金に話しかけられてハッとして振り返るとそこには就寝時に着る着物が用意されているのだが、上等な絹で出来ているのは一目でわかるがどうしてもその生地の薄さに気がいってしまう。


「まさか、その薄着を着るとか?」


恐る恐る黄金に頭かけると黄金は美しい笑みを浮かべて頷き返す。


「絶対に無理です!普通のもので大丈夫ですので!」


紫苑が必死に抵抗を見せるが、見た目は美しくとも侍女たちも妖狐。


紫苑の抵抗など微塵も効いていないようであっという間に着替えさせられてしまう。


「やはりお似合いでございますね!月天様のお選びになる物はどれも紫苑様の美しさを引き立たせてくれます」


「え?この着物も月天様が選んでくれたんですか?」


「左様でございます。紫苑様の身に付ける物は全て一つ一つ月天様がお選びになっております。それではあまり月天様をお待たせするのはいけませんので、お部屋の方へ行きましょうか」


黄金に手を引かれるが、薄手の着物を一枚着付けただけのこんな格好じゃ恥ずかしくて月天の前になんか出られたものじゃない。


どうにかしてせめて何か羽織るものでもないかと黄金や侍女たちを引き止める。


「私、さっきから少し肌寒くて。何か羽織る物でもあれば助かるんですが」


紫苑が寒がるふりをすると黄金は心配そうな表情をして手や額の温度を確かめようとする。


「人の身はか弱いと忘れていました。こちらであれば紫苑様の美しさも損なわれないでしょう」


側にいた侍女から白くきらきらとした大きめの肩掛けを手渡される。


(う〜ん、これも薄くて心許ないけど、無いよりはいいよね)


紫苑は何とか笑顔を浮かべて受け取るとすぐに上半身を隠すように肩掛けを巻きつける。


「紫苑様、そのようにぐるぐるに巻きつけては美しくありません。こうして肩からお掛けください」


さすがに上半身を隠すように入念に巻きつけた姿は見苦しかったらしく黄金に正されてしまう。


「では、参りましょう」


◇◇◇


(落ち着け、私の心臓!)


黄金たちに連れられて月天の自室に向かうが、足を進ませるにつれてどきどきと胸の鼓動が速くなる。


(ただ一緒の部屋で寝るだけ、大丈夫。看病のようなものよ。)


紫苑はなんとか自分の心を落ち着かせようとするが一向に胸の高鳴りはおさまらない。


「紫苑様、つきました」


黄金に言われて顔を上げるといつの間にか月天の自室まで来ていたようで大きな両開きの扉が目の前に姿を表している。


「月天様、紫苑様の準備が整いました。お部屋に入ってもよろしいでしょうか?」


黄金がそういうと部屋の中から月天の声が聞こえてくる。


「では、紫苑様。私たちはここまでとなりますのでごゆっくりお休みください」


黄金たちは左右に分かれると大きな扉をゆっくりと開き、紫苑を部屋の中へ入るように促す。


紫苑が恥ずかしさから扉の前で二の足を踏んでいると、月天が入り口まで来てくれる。


「とても綺麗だよ紫苑。お前たちはもういい下がれ」


月天は優しい表情で紫苑の手を取るとそのまま部屋の中へと招き入れる。

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