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 早いもので気づけば俄当日を迎えることとなった。


俄が行われる三日間は幻灯楼の楼主が鬼の一族の接待にあたるようで、登楼日以外の二日目、三日目は小雪もその接待に加わるらしい。


「いやぁー、それにしても今年は賑わってるねぇ〜」


天色の濃淡がついた生地にきらきらと陽にあたり光るのは銀糸で刺繍された曼珠沙華の花だ。


桜色や緋色は妖狐の御当主の前では禁色と言われているため、園の中では曼珠沙華を着物にあしらう際も緋色は避けて違う色を使うのが常識なのだ。


曼珠沙華の刺繍の周りには絢爛豪華な季節の花々が友禅で描かれていて遠目から一眼見るだけでも圧巻の一言に尽きる。


そんな特別上等な打掛を纏った小雪はいつもの化粧とは違い銀と青の線が印象的な化粧を施している。


凛と紅も小雪の衣装と合わせるように振袖を誂えており、水色の振袖を着用している。


化粧も小雪と同じく青い線を目元に引き幼い顔立ちすらどこか大人っぽく見せてくれるのだから不思議だ。


幻灯楼の玄関先で支度を終えた小雪を挟むようにして凛と紅が座っていると、ようやく支度を終えた紫苑がやってくる。


「似合うじゃないか!これなら妖狐の御当主様も少しくらい話を聞く気になるかもしれないね!」


小雪が見世の奥から出てきた紫苑を褒めると続いて凛と紅も絶賛する。


紫苑が纏うのは宗介と一緒に呉服屋に依頼した特注の引き振袖だ。


通常であれば禿である紫苑は凛と紅と同じ振袖を着用する予定だったのだが、宗介の鶴の一声でこの着物を着ることが決まった。


 紺碧の総絞りの地に至るところに優美な花模様が散らされていてそれはまるで花嫁が着る着物のような上品さと優雅さがある。


髪も綺麗に結い上げられており、しゃらしゃらと音を鳴らす銀色のびら簪に水晶を削り出して作られた特殊な曼珠沙華の花を象った簪が飾られている。


「すいません、ちょっと時間がかかってしまって……」


紫苑も準備が済み玄関先で最後の確認をしていると、出発の準備が整ったらしく見世のものが表から呼びにくる。


「じゃあ、行こうかぇ?ここから大門までわっちらは特別な花車で移動するから忘れ物はなきように」


小雪が他所行きの顔に変えると凛達の表情も自然と引き締まる。


紫苑は念のため懐には母から譲り受けた守刀を忍ばせ、胸には小雪が術屋に頼んでくれたお守りも下げている。


最後まで悩んだ御当主への贈り物を入れた漆塗りの箱を持ち顔をあげてぽっくりに足を通す。


「大丈夫、やれるだけのことはやったもの……」


いよいよ妖狐の御当主様と会えるとあって、今までにないほど緊張してしまう。


そんな紫苑の様子に気づいた小雪は俯いて両手を堅く握っている紫苑の肩に優しく手をぽんっと置き微笑みかける。


「大丈夫さ、何があってもお前のことはわっちが守ってみせるよ。緊張はするだろうが御当主様の前ではとびっきりの笑顔を見せてやんなよ」


不思議と小雪に肩を叩かれると今まで張り詰めていた気持ちが楽になり、周りの景色が戻ってくる。


「はい、姉さん……よろしくお願いします」


小雪は紫苑の表情が明るくなったのを確認すると見世の前に寄せられている夢幻楼から手配された花車に乗り込む。


続いて凛と紅も乗り込み、最後に紫苑が花車に乗り込み花車はゆっくりを車輪を回し大門を目指して動き出した。


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