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 部屋に入ると宗介は何やら術を使い部屋の中の話を盗み聞きできないように結界を張る。


術を張り終えると、近くにあった座椅子に腰をかけ紫苑にも座るように促す。紫苑は無意識の内に宗介と少し距離をとった所に座ってしまう。


「ふふッ……大丈夫、今日は何もしないよ。この間は揶揄ったりして悪かったね、観月を見ているとつい色々としたくなってね」


 紫苑は前回のことを口に出されて少し頬を染めて俯くが、すぐに気を取り直して今日来た理由を宗介に尋ねる。


「忙しいところ今日いらしたのはいったい何の用でしょうか?」


「今日は小雪から聞いた観月自身のことをいくつか確認しておきたくてね。小雪から観月の身体にある呪印や鬼のことなど事情は全て聞かせてもらったよ」


「宗介様にまでご迷惑をおかけしてしまってすいません……」


紫苑が思わず俯いてそういうと宗介は紫苑の方へと身を少し寄せて優しく頭を撫でる。


「君はいつもそうやって自分一人で抱え込むんだね……何も迷惑だなんて思っていないよ、ただ今後自分はどうしたいのかだけ聞いておきたくてね」


宗介に幼い子供を慰めるように優しく頭を撫でられどこか懐かしいような切ないような不思議な気持ちが胸を締めつける。


自分の心なのに自分のものではないような不思議な気持ちに戸惑い、宗介に返事をするのが遅れるが宗介は紫苑の気持ちを察してかそのまま話を続けてくれた。


「もし、妖狐の御当主様にその身に宿る呪印を解いてもらえたなら観月はやはりこの幽世から元いた人里に戻りたいと思うのかい?」


初めて見る真剣な眼差しで問いかけられて一瞬言葉を飲み込むが、自分の正直な気持ちを打ち明けようと紫苑は言葉を必死に考える。


「……正直分かりません。以前の私であればすぐに人里に戻りたいと願ったでしょうが、ここで小雪姉さんや凛、紅と過ごすうちに心のどこかでこのままここに居たいと思ってしまう自分がいます……」


すでに肉親は誰もおらず、元いた村に帰ったところでその日暮らすのもやっとの過酷な生活が待っているだけだ。


それに何よりも、こうして自分の事を気にかけてくれるような親しい人間など誰も居ないのだ。


宗介は紫苑の答えを聞いて少し驚いたようだったが、何も言わずに紫苑の気持ちを真摯に受け止めてくれた。


「例えばだが、もし観月の身に封印されている鬼の力が観月自身のものだとしたら君はそれを受け入れるかい?」


「それはどういうことですか?」


「簡単にいうと、観月はもともとは人間ではなくこの幽世にある鬼の一族の者で今の姿は封印された仮の姿だったらって話さ」


宗介が言った突拍子もない話に驚きつつも、頭のどこか片隅でいつもその可能性を考えていたことを思い出す。


「それは……」


紫苑が言い淀むと宗介は紫苑が逃げられないようにかその両手で硬く握った紫苑の手を上から優しく包み込むように握る。


「観月が本当は鬼の娘でこの幽世で慕っていた者がいたとすれば?」


「え……?それって……宗介様は私のことで何かご存知なんですか?それなら……」


宗介の口ぶりがあまりにもいつもと違いすぎて紫苑は宗介に何か知っているなら教えて欲しいというが、先に答えを聞かせてくれと言われてしまう。


「私は……正直そのようなことを言われても想像もつきませんが、もしそうならその方と会ってみたいとは思います。幽世に残るかどうかはその時になってみないと分かりませんが……」


宗介は紫苑の解答を聞きうーん。と何やら考え込む素振りを見せたがすぐに答えを見つけたらしく紫苑と距離をとり元いた場所に座り直す。


「そうか、観月はこの幽世に残ることもやぶさかではない様子。それなら安心して協力ができそうだよ、もちろん観月にもいくつか協力してもらわなければいけないけどね」


「あ、宗介様。実はあなたに言わなければならないことがあって……」


「うん?なんだい?」


「実は……私の本当の名は観月ではなく紫苑と申します。母からの教えで妖には決して本当の名を告げないようにと言われていたので今まで隠していました。小雪姉さん達にも既にお話しています」


意を決して今まで隠していた名のことをいうと宗介の反応は思いもよらないほど軽いものだった。


「あぁ、名前ね。会った時から何か隠し事をしているのは分かっていたから驚いたりしないさ。それよりも観月の口からその名を聞けて嬉しく思うよ」


宗介はそういうと今まで見たこともないような優しい微笑みを紫苑に向ける。


「紫苑、早速で悪いけどお願いがあるんだ」


いきなり本当の名を呼ばれてびくりとするが、それが当たり前かのように振る舞う宗介を見て紫苑は違和感を覚えつつも受け入れる。


「はい、私にできることなら協力させていただきます」


「今更だけど、二人の時はそんなにかしこまった話し方をしなくても大丈夫だよ。そうだな……恋人に話しかけるような気持ちで接してくれて構わないよ」


緊張した面持ちの紫苑を気遣ってか宗介は悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。


「宗介様!揶揄わないでください!」


紫苑がどこか不安げだった表情を一転させて顔を上げて非難すると、宗介は笑いながらそれを受け流す。


「それじゃあ、やっと本調子が出てきたようだから本題に入ろうか。紫苑に協力して欲しいことは簡単なことで、俄が無事に終わるまでは決して桜の香りのする場所へは近寄らないで欲しい。たとえ小雪達と別れることになってもだ」


「え……それはどういうことですか?」


「ここだけの話、俄が行われる三日間はこの曼珠の園に多くの鬼の一族が出入りすることになる。鬼の中には人を好んで食する者もいるから、鬼の一族のものが特に出入りする俄の三日間は注意して欲しいんだ」


「そういうことですか、分かりました。」


「それはそうと、御当主の御機嫌伺いはどうするかもう決めたのかい?」


紫苑は困ったように眉根を下げ軽く頬をかく。


「それが色々小雪姉さんと相談したりはしているのですが、なかなか決まらなくて……。御当主様であれば欲しいものは何でも持っているでしょうし」


「うーん、そうだね。難しく考えなくてもいいんじゃないかな?紫苑が一生懸命考えて差し出した物であればきっと気に入ってもらえるはずだよ」


「そうでしょうか?」


紫苑が不安げに尋ねると宗介は妖艶に笑う。


「あぁ、絶対に気に入るさ」


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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