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間話

(月天回想)


 今日紫苑の背中にある呪印を見て確信した。間違いない、あの娘は私がずっと探し続けていた鬼の一族の唯一の姫、紫苑だ。


今までは自分の元に集まった情報と本人から聞き出した限られた話から紫苑がなんらかの理由で人の子の姿になり昔の記憶を失っているのでは?と考えていたが、背中の呪印を知り全ての話が一本に繋がる。


紫苑は元々この幽世にある七里の一つである鬼の一族の直系の姫として生まれた。


しかし、紫苑の母は人間だったため幼い頃は鬼の力があまり伸びずに冷遇されて育ったのだ。


 月天と紫苑が出会ったのは紫苑が人間の歳でいう五歳前後くらいの時で出会ってすぐに月天は紫苑に心惹かれいつか一緒に二人で穏やかに過ごすことを夢見ていた。


しかし、それは紫苑の腹違いの兄である白桜によって阻まれ、結果として月天は重傷を負い紫苑は自分の母と一緒に異界渡りを行いこの幽世から姿を消してしまったのだ。


 念のため姿見せの鏡で偽りの姿を剥ぎ取るまでは行動を起こさないつもりだったが、あの特殊な呪印を見た今はすぐにでも紫苑を自分の元に召し上げるのを早めてもいいだろう。


◇◇◇



 小雪にしばらくの登楼禁止を言い渡されたが、鬼の現当主である白桜やその側近である蒼紫までもが動いているとなるといつでも幻灯楼に入れるようにしておいた方がいい。


(仕方がない、女将が欲しがっていた上ノ国の情報をやるか……)


自分を座敷から幻灯楼の玄関まで案内してくれた見世の者に女将宛の手紙を渡し月天は幻灯楼を後にする。


 幻灯楼の二階にある紫苑たちの寝泊まりしている部屋の方を一度見上げるが、そこには人影はなくいつもと変わらない風景があるだけだ。


月天はそのまま踵を返すと幻灯楼を後にして夢幻楼へと帰る。


夢幻楼に着くと音もなく白夜と極夜がすぐに月天を出迎える。


「今日は遅くなるかと思ってましたが、お早いお戻りですね」


 極夜が意外とばかりに月天にそういうと、月天は苦笑しながら少しヘマをしてしまってね……と返しそのまま夢幻楼にある自室へと入る。


月天はすぐに変化の術を解くと着ていた着物を脱ぎ捨て部屋に用意されている月天の普段着に袖を通す。


白夜と極夜は月天が着物を脱ぐと、すぐに白夜が着付けの手伝いをし極夜は先ほどまで着ていた着物を部屋の外に控える部屋付きの者に渡す。


着替えを終えると月天は大窓の前に置かれた机の前に座り、今日報告があった鬼の一族に関する報告書や犬神家に関する報告書に目を通していく。



「月天様、俄の一週間前に上ノ国の本家の方で妖猫の御当主であられる琥珀様と鬼の当主である白桜様を招いて協定に関する協議会を開く予定となっておりますが……予定通りでよろしいでしょうか?」


「あぁ、もうそんなに日が経ったか……予定通りで構わない」


 紫苑がこの幽世に来て月天と出会ってから一ヶ月半ほど経とうとしている。

最初はどうにも気になるという程度だったが、蓋を開けてみれば実は自分がずっと探し続けていた紫苑だったというんだからこの世は何があるかわからない。


そんなことを思いつつ、少し手を止めて今日あった出来事を思い出す。


自分に組み敷かれ乞うようにして見上げてきたあの愛らしい表情を思い出すだけで今まで動くことのなかった心に荒波が立つ。


 月天が今日あった紫苑との出来事を思い出して熱に浮かされたような表情をしていると、白夜が言いにくそうに月天に声をかける。


「月天様、無礼を承知で伺いますが……紫苑様は現在鬼の力を封じられて人の子として過ごしているようですが、この夢幻楼へ召し上げた後はどのようにするおつもりですか?」


紫苑との思い出に浸っていたところを邪魔されいつもより冷たい視線を白夜の方へ向けると月天は少しの間をあけてから話だす。


「……、私としては昔の記憶を取り戻してくれさえすれば人の子だろうが、鬼の姿だろうがどちらでも構わないのだけど……正妻として迎えるとなると鬼の力を戻した方がいいかもしれないな」


「承知しました、どちらになってもいいように準備の方を進めさせていただきます」


 白夜はそれ以上何も言わず再び極夜と手分けして作業していた協定に関する資料の割り振りを始める。


「白夜、極夜……変な気は起こさぬように」


淡々と作業をこなす二人に向けて月天は少しの殺気を混ぜてそういうと再び手元にある報告書に目を落とした。



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