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婚約破棄されたので悪役令嬢に転生してチートスキル『ざまぁ』を行使いたしますわ

「ロベルタ! 貴様を婚約破棄とする!」

「そんな……」

 当時は純粋無垢な乙女であったロベルタは、非常にショックを受けた。目の前は真っ暗になり、全身から力が抜けて、立っていられなくなった。

 仰向けに倒れる彼女を支えるものは何もない。

 結い上げた黒髪がほどけて、床に広がる。深紅のドレスは華麗なゆらめきを失い、色あせて見える。

 ロベルタの心臓は止まっていた。

 享年17歳。まだまだ未来のある年頃であった。


 ロベルタの魂は白い壁だけの空間に連れてこられた。

「ここは? 天国でも地獄でもないようですが」

「ここは転生の間。あなたはラッキーな事に新しい世界で生まれ変わるのです」

 解説をしたのは、頭の上に金色の輪っかを浮かべる少女であった。白いワンピースが可愛らしい。

「私は転生の間を司る女神です。懸賞に当たったあなたは、転生する権利を得ました」

「懸賞に応募した覚えはありませんわ。そもそも死んでしまったのに、ラッキーなんてありうるのでしょうか?」

「そ、それは……」

 女神は視線をそらしている。

 ロベルタは疑いの視線を向ける。

「私はまだ17歳でした。本当に死ぬべきだったのでしょうか?」

「そ、そんなの誤差のうちです。神の寿命は何千年とあるのでたまにはミスを……」

「理不尽にもほどがありますわ! ただ生まれ変わるのでは納得いきません!」

 ロベルタが女神に詰め寄ると、女神は汗だらだらになりながらワンピースのポケットを探す。

「ちょっと待っててくださいね。とっておきのスキルをプレゼントしますから」

「ポケットに収まるスキルなんて……!」

「ありました! 文字数が少ないためコンパクトに収納できましたが、チート級スキルです。その名も『ざまぁ』」

「どんな効力がありますの?」

「どんな相手にも『ざまぁ』ができます。気に入らない相手にじゃんじゃん使ってください」

 ロベルタは微笑んだ。

「ありがたく受け取りますわ」

「そ、それでは私はこれで。快適な転生ライフをお楽しみください」

 そう言って消えようとする女神だったが、なぜか消える事ができなかった。

 金色の輪っかが消えている。女神としての能力を失ったのだ。

 ロベルタが口に手を当てて笑う。

「さっそく『ざまぁ』を行使させていただきましたわ。女神にも効果があるなんて素晴らしいスキルですわね」

「そ、そんな。転生の間を司る女神としての能力を奪われるなんて、というより女神相手にスキルを使うなんて聞いた事がありません!」

「ほーほっほっほっ! ただの女として地べたを這いずり回るが良いのです」

「転生の間から出られないと地べたに辿りつく事もできないのですが……」

「細かい事はどうでもいいのですわ」

 ロベルタは白い壁に両手を当てる。

 ギギィと鈍い音を立てて視界が開ける。

 目もくらむような強い光が広がっていた。

「もう純粋無垢な私とはおさらばして、悪役令嬢となって好き放題いたしますわ。転生後は『ざまぁ』し放題ですわ!」

 ロベルタに恐れるものは何もない。

 意気揚々と強い光の中へ足を踏み入れた。



 ロベルタの転生先は、豪華な宮殿であった。

 だだっ広いテーブルを囲んで会食をしてるところであった。

「ぼーっとしていたが大丈夫か?」

 隣の金髪碧眼のイケメンが爽やかボイスで声を掛けてきた。貴公子服が良く似合う。純白の生地に金色の刺繍が映えている。

 ロベルタはにっこり微笑んだ。

「ご心配には及びませんわ」

「あーあーやな女ですね。そうやって男に媚びを売るのですから」

 イケメンの隣のいかにも性格悪そうな黒いドレスの女が嫌な顔をしていた。

 カラスの羽をつなげたような扇で自身をバサバサと仰いでいる。

「可愛いだけで偉い人とつながるなんて、最低ですね」

「気に入りませんわ。『ざまぁ』行使」

「何を言って……!」

 女が理解する前に、事態は進む。

 なんと女の椅子が勝手にすっころんだのだ。ドッターンという派手な音が響き渡る。

「こら! 何を遊んでおる!」

 高貴な赤いサーコートを身に着けたおじさんが、女に向かって激怒していた。おそらく国王だろう。

 女は顔面を青くしてブンブンと首を横に振った。

「い、いいえ。椅子がひとりでに動いたのです!」

「椅子のせいにするのか!? こんな無礼者は初めてだ!」

 女は泣いたが、おじさんは容赦しない。

「追放だ。二度と我が宮殿に入るな」

 女は警備員につまみ出された。

 ロベルタはにやにやが止まらなくなった。

「なんと素晴らしい能力ですわ」

「ロベルタ、なんてひどい事を!」

 いかにも金持ちの七光り系男子が指をさしてきた。宝石だらけの指と服がジャラジャラとうるさい。

「椅子に糸をくっつけて引っ張るとか、何か仕掛けをしたのだろう!? とんでもない女だ」

「そんなくだらない仕掛けなんてしませんわ。気に入らないので『ざまぁ』行使」

「はっ。なにがざまぁだ。この僕がざまぁ対象になるいわれなんて……!」

 七光り系男子の足元に通りすがりのバナナの皮が現れる。

 男子はみんなの期待どおり、盛大にすっころんだ。

「こら! 何を遊んでおる!」

 やっぱり一番偉いおじさんが怒鳴った。

「い、いいえこんなところにバナナがあるなんて知らなかったです」

「バナナのせいにするのか!? こんな無礼者は初めてだ!」

 案の定、男子はつまみ出された。

「もしかして、チートスキルか?」

 一番最初に話しかけてきたイケメンが口を開いた。

「実は僕も転生者でチートスキルをもらっている」

「あら、どんなスキルを?」

「『ざまぁ封じ』だ。僕にはどんなざまぁも無効化される。つまり、ざまぁ対象にならずにすむんだ」

「本当かしら? 悪役令嬢として試すところですわね。『ざまぁ』行使」

「『ざまぁ封じ』行使。ほら、何も起きない」

 ロベルタは全身をワナワナと震わせた。

「こんな悔しい想いをするなんて……!」

 言いたい事はたくさんあった。

 しかし、その口はイケメンの口にふさがれた。いきなりキスをされたのだ。

 イケメンはそっとロベルタを離す。

「僕のような性格のよいイケメンはざまぁ対象にならないんだ。それより僕と結婚しよう。婚約破棄なんて絶対にしないから」

「い、いきなり何を!?」

「あなたの美しさにほれた。『ざまぁ』を行使しているのを見るのは楽しいし」

「本当にあなたは性格がいいの?」

「性格がよくても、人間だ。嫌な相手はいる」

 イケメンは白い歯をきらめかせた。

「僕と結婚すれば何不自由なく暮らせる。『ざまぁ』と『ざまぁ封じ』でこの世界を牛耳ろう」

「素敵な提案ですわ! 前世に婚約破棄してきた男に対する究極のざまぁですわね」

 ロベルタとイケメンは無事に祝杯をあげた。

 二人の未来は眩しい光に満ちている。明るい未来が約束されたのだ。

 

 転生の間の元女神はどうなったって?

 女神職を解雇されて、ふて寝してますよ。

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