新生命体発見
太陽系から離れて三ヶ月が経とうとしていた。エンジンの慣らしも終え、ワープスピード30で通常航行していた。
船長は自室でコーヒーを飲みながら考えていた。この距離ではもう地球とリアルタイムで通信できない。一定距離ごとに無人通信中継装置を設置しながら通信してきたが、メッセージが届くまで時間がかかる。緊急事態が起こってもすぐに駆けつけてくれる援軍がいないのだ。
どこかで好戦的な種族と遭遇するかもわからない。エクスプローラーに搭載されてる武器はレーザー砲2門のみだ。それも地球ではしばらく武器が作られていなかったので、掘削機に使われてるやつを転用したものだ。これで勝てるのだろうか。
エクスプローラーと同じ設計の姉妹船ボイジャーがあと1ヶ月ほどで完成するが、エンジンが同じ設計なので、スピードも同じだ。緊急時にすぐに来れる訳ではない。自力で解決するしかないのだ。
ブリッジから通信が入った。
「副長から船長へ。」
「どうした?ダーマ。」
「ここから1光年離れた星系で奇妙な惑星を見つけました。」
「それは興味ある。今からブリッジに向かう。」
「了解。お待ちしております。」
数分後、船長がブリッジに入室した。
「待たせて申し訳ない。で、どんな惑星だ?」
「長距離スキャンの結果ですが、非常に狭い範囲ですが、表面が一部が金属質でできているようです。それからその金属質の部分がスキャン結果が一定ではなく流動的です。金属質の湖があると思われます。」
「その金属を特定することはできるか?」
「長距離スキャンではそこまで特定できません。」
「では、そこに向かって調査してみるか。操舵士、コースセット、ワープスピード50で向かえ。」
「了解。コースセット完了。現在ワープスピード30から加速中。…40…50。目標スピードに達しました。」
「到着まで一週間あるのか。副長。到着までできる限りの情報を集めてくれ。」
「了解しました。平行してタカラが現在センサーの改良も行っています。」
「よろしく頼む。」
一週間ほどしてエクスプローラーは惑星へ到着した。
センサーの分析結果によるとどうも液体の金属ではないことがわかった。無数の金属の塊が何らかの力で動いているらしい。無人探査機を送って地表の一部のサンプルを採取することにした。
「船長。探査機が採取したサンプルを見てください。」
採取ケースの中には煎餅の様な薄く10cmほどの大きさ丸い物体があった。色は銀色で一見鉄の塊の様に見えるが、柔らかくクネクネ動いていた。
「これは驚いた。まるで生き物のように動いているじゃないか。」
「これは生き物そのものとしか言いようがありません。物質の分析結果があるので見てください。」
分析結果によると、主成分は鉄の様だ。一見塊のように見えるが、地球上の生物の細胞の様な小さい金属の粒から構成されていた。体中に電流の流れがある。金属細胞はスイッチになっていて電流のON/OFFができるらしい。そのON/OFFの組み合わせで体を動かせるようだ。電流の発生メカニズムは不明だ。
「餌は何かわかるか?」
「不明です。そこまでの確認は難しいようです。」
「宇宙船の中だけでの調査には限度があるか。では、このサンプルを連絡ポッドで地球に送るとしよう。」
「エネルギー源がわからないので地球に届くまでにサンプルが死ぬ可能性があると思いますが、研究成果に期待しましょう。」
「副長、私は思ったのだが、地球の常識だけはあくまでも地球だけのものだな。広い宇宙の中では何があるか全く想像することができない。」
「私もそう思います。シストと地球は似てますから私たちの常識はあなた達と同じです。なので金属でできた生物は想像もしませんでした。しかし、もしこの生物にが誰かの手によって作られたものだとしたら、やはり私たちの常識だけで考えられるかもしれません。ただ本当の正解はわかりません。しかし、これからまだこんなことが体験できると思うと楽しみで仕方ありません。」
「その気持ちは良くわかる。私もだ。他のクルーもみんな同じだろう。」
船はコースを戻し、次の目的地へ向かうこととなった。
ワープスピード:
光の速さをワープ0.1としたときの単位。ワープ10は光の速さの100倍。
宇宙船エクスプローラーの最大ワープスピードは100まで出せる設計となっている。