紫鬼
この人やりやがったよ、使えないとか言って嘘つきやがった。まあ確かによくよく考えたらわかるけどね!作った本人が使えないってどんな不良品だよってね!?
「まあ細かいことは無しで、後は——」
あからさまに話をそらしたが、何処もケガしなかったし、使い方を教えてくれているので何も言わなかった。
青白いオーラがまたあふれ出して、それが切っ先に集まる。オーラはその一点に集中し、荒々しく動いている。
クサナギ様は刀を突き出し、刀の切っ先は石の壁に触れた。その瞬間、バキッ!!という音と共に石壁の上の方まで亀裂が走った。
「うわあ……」
あまりの威力に思わず声を出してしまった。クサナギ様はどんな感じなんだろうと思い顔を見ると、滝のように汗を流していた。
心なしか少し震えているような……
「クサナギーー?また、やったわねえ?」
俺の後ろから殺気と女の人の声がした。クサナギ様がこっちを、正確には俺の後ろの方を向いて泣き目になっている。
恐る恐る後ろを向くと、そこには紫色の髪を一つに結んだ女の人が鬼の形相で立っていた。鬼の形相と言うか本当に鬼じゃない!?角生えてるよ角!
女の人の額からは、一対の髪の色と同じ角が生えていた。その内一本には、黒いラインが入っている。
「シオン…!これには深い訳が——」
「訳があってもやった事には変わりないみたいねえ?」
クサナギ様がこっちを向いてくる。
いやあ、そんな目で見られても、明らかにこの人やばそうだし、俺何にもしてないし?このまま黙っていたら何とかなるかなって。
「あんたもよ?」
俺はそのまま顔面を掴まれクサナギ様と一緒に連行された。まさか近くにいただけで同罪とは……、俺の考えが甘かった。
その後はクサナギ様は壁の修理、俺は修理の魔法とかが使えないので墓の掃除をして来いと言われた。
詳細も分からず、放棄と雑巾を持たされ、城の中にあった転移魔法陣と言うのに乗せられた。
「終わったらまた乗れば帰ってこれるから」
シオンと呼ばれた女性にそう言われ、俺は墓に転移した。
普通子供一人で掃除させるか?と思いつつ、掃除しないと後が怖いので取り合えず掃除することにした。
転移した場所は国が一望できる場所だった。この場所をぐるっと囲むように建造物が並んでいる。夕焼けも綺麗で、罰としてここに来たことを忘れそうなほどきれいな景色だ。
肝心の墓は二つあった。掃除するところなんて無いと思う程、綺麗にされていた。墓の前には女の人が立っていて、金色の髪が夕焼けに映えていた。紫色のドレスを着たスタイルの良い女性、その人は俺に気づいたのかこっちを向いた。
「何だ…お前も墓参りか?ご苦労な事だ」
高貴さが漂う立ち振る舞い、どこかの貴族の人かな?
「あの——」
話しかけようとしたが、彼女は俺の言葉は聞かず、黒い翼を広げて飛び去ってしまった。
いや羽!?流石異世界、あんな人もいるんだな。
暫くの間呆けていたが、自分がなぜここに来たのかを思い出し掃除を始める。正直汚れ一つついていないのでやることが無いんだが、雑巾が使われた形跡が無いとおかしいからな。
墓石にはラヴァル・バアルと、ラヴァル・アリスと彫られていた。名前が後なんだなと思ったが、もっと重要な事に気が付いてしまった。
「神様の墓……?」
そう、この名前母上から聞いた魔神王と女神の名前と同じなんだ。ラヴァルと言うのは聞いたことは無いが、こんなところに立ってる墓だ、まず間違いないだろう。
神様って死ぬの?
ふとそんな疑問が浮かんだが、こればっかりは聞きたくても聞けない。
だって絶対聞いちゃダメな事だし、なんか空気悪くなりそう。
という事でこの疑問は心にしまっておくことにした。
墓石も拭き終わって、帰ろうと思った時、墓のすぐそばにある木の下で何かが光った気がした。さっきの疑問の事もあってか、好奇心が抑えきれずその木の下まで行ってしまった。
何が光ったのか分からず、四つん這いになって探していると、何かが手にあたった。それを拾い上げよく見ると、それは指輪だった。
銀の輪に黒い石がはめられていて、その黒い石を挟むように金色の石もはめられていた。
誰かの落とし物か?そうだったら困ってるだろう、だって高そうだし。この金色の石中に入ってる砂みたいなのが星みたいに光ってるんだもん。これは間違いなく高い。
ということで、指輪を持ったまま転移、王城に転移すると目の前にシオンさんが立っていた。
「帰ってきましたね、家まで送りますから場所を教えてください」
親への事情説明もあるからという理由で、家の場所を聞かれたので宰相宅ですぐそこという事を説明、そのまま一緒に家まで向かったが途中クサナギ様の事を聞いた。
「ああ、今頃悶えてますよ」
詳しく聞くと、どうやら壁を直させて適当に雑用も押し付け、疲れさせた後晩御飯は抜きと言ったらしい。反抗してきたが黙らせたそうだ。
惨い……。やってることがひどすぎる。この人を怒らす事だけはやめようと思っていると、家に到着。母上が出てきてそのまま一礼、大体予想していたがこの人も偉いらしい。
シオンさんは母上に事情説明し、そのまま帰っていった。見送った後に気づいたが指輪の事を言うのを忘れていた。
明日じいちゃんにでも聞いてみよう。
俺はそのまま風呂に入れられて、自室に戻り眠りについた。
感想待ってます!