刀の力
あの後俺は家に帰り、家族に事情を説明することになった。
もらった刀を見て、父上と祖父は倒れそうになっていたが、母上と祖母は凄いと俺をほめてくれた。でも剣術だよ?危ないんじゃないの?と聞くと、全員口をそろえてこう言った。
「クサナギ様だから大丈夫」
絶対の信頼を得ているクサナギ様は、十指のうちの一人で、魔神王様の血のつながった妹らしい。という事は二千歳を超えてるわけだが、これは言わない方が良いというのは馬鹿でもわかるだろう。あの見た目で二千越えかあ……。
そんなことを考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。父上が、「どうぞ」と言うと、ドアが開き中に少女が入ってきた。そう二千歳越えの少女である。
「ノア君!早速迎えに来たよ!」
まだ師匠宣言から一日もたっていないのに気が早すぎる。
祖父は口を開けて唖然としているし、他の三人は跪いている。おじいちゃんは良いんだ?と思いつつ、自分が棒立ちだったことを思い出して、慌てて膝をつく。
「硬いのは今後無し!それじゃあノア君借りていくから」
そう両親と祖母に言い、俺をわきに抱えてさっさと王城に向けて歩き出してしまった。
ただ流石にこの服装のままじゃ剣の稽古なんて無理だ。
「クサナギ様せめて着替えさせてください!」
クサナギ様はピタッと止まり、俺を下ろしてくれた。
着替えで長い間待たすわけにはいかないので、自分で着替える。いつもはメイドたちがしてくれるが、そればっかりはいつまでたっても慣れない。
動きやすい服装に着替え、鏡で確認する。そこには黒髪黒目の少年、俺が写っていた。母親に似たらしく、顔立ちも少し大人しそうで、周りからは美少年や可愛いといわれる。正直複雑だが気にはしていない。
さっさと身だしなみを確認し、クサナギ様の元へ戻る。五分位で済ませてきたから、待たせてはいないはず。
「よし、着替えたね。では!」
そう言ってまた俺をわきに抱える。
結局そのまま俺は抱えられたまま王城に連れていかれた。三本ある塔の内、正面から見て左側の塔の下まで担がれたままだったが、丁度そこでおろされた。
クサナギ様はそこら辺にあった椅子に腰かけて、少し伸びをすると言ってきた。
「実はさ、君にあげた刀の能力が良くわかってないんだ。だから今日はその確認。早いとこ確認しとかないと危険でしょ?」
急に連れ出された意味が分かり納得しそうになったが、よく考えれば何故祝福とやらを授けた本人が、その詳細を把握してないのか。
そして今俺が持っているのは、詳細の分からない危険なもの。流石に少し怖くなってきた。
「まあそうそうやばいのは出来ないから安心していいよ。やりすぎたって言っても神力は込めてないから」
「その神力?ていうのを使ったらどんなものが出来たんですか?」
ふと疑問に思ったので聞いてみると、クサナギ様は指をパチンと鳴らした。すると、指先から剣がゆっくりと形成され現れた。その剣はふわふわとクサナギ様の前に浮かんでいる。
「刀じゃないんだけど、時停剣っていって、時間を止める能力を持ってるの、神力を使ったらこういうのが出来るの」
時間停止!?なんだその反則級の剣は。
もしそれと同レベルの物が出来ていたらと思うと……やべえ鳥肌が。
どんな剣が作れるのかは分かったが、問題は俺の刀の能力をどうやって調べるかだ。急に使ってみてと言われても無理な話だ。
「それで、これはどうやったら扱えるんですか?」
クサナギ様は人差し指を顎につけて悩んだ。
正直少し心配になったが、俺だけじゃ何も出来ないのでこのまま返答を待つ。
「振ったり、こう…ぐわあって感じで力込めたり色々してみて」
ええ…。怖すぎる。爆弾に火をつけてみてと言われてる気分だ。
危険じゃないといわれていても正直安心はできない。神様と俺とじゃ価値観が違うからだ。もしクサナギ様が腕が切れても平気な顔で治すような人なら、その人が言う「危険じゃない」は俺の感覚では「とても危険」だ。
「クサナギ様にしていただくとかは——」
「無理無理、私じゃそれ使えないもん。張り切ったからそれノア君専用」
俺の言葉を遮り、食い気味でクサナギ様は答えた。
終わった。腕の一本は覚悟しよう、そう思わないとやってられない。
十分ぐらい振ったり突いたり色々試していたが、何の変化もない。正直拍子抜けだったが、まだ何があるか分からないので慎重に行動している。
確かさっきクサナギ様は力を——とか言っていたが、魔力の事か?もしそうなら俺は使えないが…。そう言えば、この青いひびが入ったときオーラみたいなのが出てたな。まさかそれの事じゃね?でもどうやってまた出すんだ?意識すればいいのかな…。
出ろ~出ろ~……。
「お?」
刀を握ってそんなことを念じていると、刀から青白いオーラが溢れてきた。
綺麗だな……。鬼火の様にも見えるが、炎を出す能力か?それだったら相当便利なんだが、触ってみても熱くはない。熱いというより暖かいに近いような。
「それ、もっと薄くできる?刃全体に薄ーく広げる感じ」
薄く、薄く?
またイメージでいいのか?薄くだったら伸ばす感じか?いや駄目だな、全然反応が無い。さっき出したときは何してたっけ?
そうだ内側からだすイメージだ。
それが分かればどうにか出来るかも。内側から出したものを押さえるイメージで、そのまま塗り広げる。
刀から出たオーラは、イメージ通り薄く、刃全体に広がった。
「振って」
一言、たった一言クサナギ様はそう言った。
俺は指示通りに刀を振った。するとオーラが刀から離れ、霧散してしまった。
「んーやっぱり難しかったね。ちょっと貸してみて」
クサナギ様は椅子から立って、俺の刀を取った。
暫くの間、刀身を眺めていたが「成程ね」と呟くと、俺の方をクルッと向いて言った。
「この刀はエネルギーを使って攻撃するみたいだね。ノア君がさっき出したやつ、あれの事ね。ただエネルギーは集めるの難しいからそこは練習あるのみだね」
エネルギー?よくわからないが、今の俺が扱えたという事は魔力でないことは確か。だが扱いは難しいようだ。
刀を使うためにはそのエネルギーの勉強もしないといけない訳か、難しいな……。
「例えばどんな感じなんですか?」
「ん?ああ、能力の事?ホントは自分で見つけて行って欲しいんだけど今回はサービスという事で」
クサナギ様は刀を右手に持ち振り上げた。すると刀からオーラが溢れ、それが刀身に薄く広がった。青白く光る刀を振り下ろすと、目の前の石の壁に刀で切ったような跡が付いた。
凄いな…当たってないのに傷がついた。つまりこれは飛ぶ斬撃!
少し興奮したが俺はある事に気が付いた。
「その刀って僕にしか使えないんじゃなかったんですか?」
「あ……。」
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