剣神と弟子
「お父さんの名前は?」
俺を抱っこしながら少女が質問してきた。俺の伸長は少女の半分ぐらいはあり、体重もそこそこ重いはず、なのにこの少女は軽々持ち上げている。どこからそんな力が湧いてくるのか疑問だが、俺は冷静に答える。
「アラニルと言います」
「ああ、宰相君の子供か。道理でしっかりしてるわけだ」
父上を君呼び?父上も二百歳とかいう結構な歳でしかも宰相なのに…君?
とてつもなく嫌な予感がして、おろしてもらおうとしたが遅かったらしい。
「お、いたいた。宰相君ー!お子さん連れて来たよー、いやあ君に似てしっかり者だねえ」
少女が父を呼び、父がこっちを向く。抱きかかえられた俺と、少女の顔を二度見し、顔色を変えて跪いた。
ああ……やっぱり偉い人だ。そんな人に抱えられてくるなんて…。
「クサナギ様!?何故ここに?」
父が少女にそう聞いた。
ん?クサナギ…?どっかで聞いたことがあるな……。ああ!!剣神だ!この人神様だ!
もう無理、おろしてほしい、神様に抱えられるのはキツイ。
俺のそんな思いが通じたのか、クサナギ様は俺を下ろしてくれた。
「ご飯食べに来ただけだよ、だから皆気にしないでね」
そう言って席に座って注文しだした。
俺はやるべきこと、父にペンを渡してそのまま去ろうとしたが…。
「ねえ君!ついでに食べていきなよ!」
呼び止められた、最悪だ。父上に助けを求めたが無駄だった。父の目が言っている。
光栄なことだから行ってきなさい!あとペン有難う、と
俺が逃げる度胸何て持ってるわけがなく、そのままクサナギ様の反対側の席に座った。
嬉しそうにニコニコしていたが、こっちは胃に穴が開きそうだよ!神様と食事ってどんな罰ゲーム?不敬を働いたら殺されそう。
俺がそう思った理由は机に置いてある刀が目に入ったからだ。
絶対これで切られない様にしようと心に誓った瞬間でもあった。
「これが気になる?」
俺の視線に気づいたのか、クサナギ様は刀を手にもって聞いた。
少しの恐怖と緊張で声が出ず、頷くことしかできなかった俺に、クサナギ様は優しそうな笑顔を見せて刀を抜いた。
一瞬ホントにちびりそうになったが、そんな気持ちは直ぐに忘れてしまった。
クサナギ様が持っている刀は、刀身が少し光っていた。刃こぼれ何て一切なく、ただ美しいの一言しか出なかった。
クサナギ様は持っていた刀を仕舞って、新たに二本の刀を出し、俺に質問してきた。
「ねえ君、こっちとこっち、どっちがいい?」
そう言って差し出された刀は、刀身がむき出しになっており、少し宙に浮いていた。だがそんなこと気にもならなかった。
だって差し出された刀が凄かったから。さっきクサナギ様がもっていたものとは比べ物にならなかった。
どっちも真っ黒な刀身だったが、二つの差は歴然だった。
左側の刀は普通、いや粗悪品だ。刀を打ったやつの性格が分かるぐらい、刃が死んでいる。これじゃあ刀とは言えない。
一方で右側、こっちは素晴らしい。一目見て名匠が打ったものだと分かる。使われた材料の保存状況、温度、そして何より腕、そのすべてが完璧じゃないとこれほどの物は出来ない。
俺が見入っていると、クサナギ様はクスクスと笑い出した。
「やっぱり分かるみたいだね、君名前は?」
一瞬何故名前を聞かれたのか分からず、キョトンとしてしまったが直ぐに、「早く答えないと!」という考えが俺を動かした。
「ノア・バベルです。クサナギ様」
「そうか、ノア君か、ねえノア君。剣術に興味ない?」
クサナギ様が粗悪品の方だけを仕舞って聞いてきた。
興味が無いわけない、両親に言っても危ないからと断られ続けたものだ。前世からずっと俺が学んできたもの、剣道を活かせるこっちの世界での戦い方。
この時俺の目は輝いていたんだろう。まるでサプライズプレゼントを貰った子供の様に。
「良い目だね、興味は大ありの様だ。よしノア君これをもちたまえ」
そう言ってさっきの刀を差しだしてきた。真っ黒な刀身、あまりのすばらしさに手が震えそうになる。
俺が刀を持った瞬間、空気が変わった。辺りの騒がしい空気が一気に張りつめ、緊張感が漂った。周りの人は動かない、時間が…止まってる?目の前の不思議な出来事に思考が止まるが、刀が青白く光ったと思ったら、周りの人たちが動き出していた。
「いま与えたのは祝福、久しぶりだから張り切って凄いの出来ちゃった」
テヘッと言いだしそうな顔をしたが、それが気にならないほど、俺の気持ちはこの刀に持っていかれた。さっきまで真っ黒だった刀身に、青いひびのような模様が入り、刀身から青白いオーラのようなものが溢れている。
さっきクサナギ様が持っていた刀と同じ、神々しさを感じる。
「あげる、ほしい?」
その一言で俺の首はグリンとクサナギ様の方を向いた。そして俺の首は激しく上下した。
それを見てクサナギ様はまたクスクス笑い、席を立って俺の持つ刀に鞘を付けた。
「よしノア君、今日から君は私の弟子だ!」
ん?
「えええええ~~~~!!!??」
俺の驚愕の叫びが、食堂に響いた。
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