噂と修羅場
昼休み。一時間あるそれは、午前の授業の疲れを取る目的で設けられた時間だ。
この学園では昼食の時間と同じにしてあり、食べ終わった者から自由に過ごしている。そこらへんで寝たり、友達と話したり。
翔平たちとご飯を食べるが、周りの視線が気になって、最近では一人で食べることが多かった。
広い席を使うまでも無いので、適当に二人用のテーブルを使っているが、目の前には当たり前の様にアイシャが座る。
俺も何も言わないし、アイシャも何も言わない。もう敵国同士でもないから、周りから何かを言われることも無いしな。
だが一つ変わった事がある。
「おい見ろよ、やっぱりあの二人……」
「おい嘘だろ……俺アイーシア様気になってたのに」
最近はこんな感じでひそひそと何かを言われることが増えた。
理由は学園に広まった噂にある。
「聖国と魔神領が友好の証として王女と公爵を婚約させた」
全くのデマ何だが、そう言って信じる者は少ない。
そもそも噂が大好きなお年頃の奴らに何か言えば、更に変な噂が広がるのが落ちだ。
まあ周りが何を言っても気にしてない訳なんだが…。
最近、アイシャが近くに居ることが当たり前になってきている。授業も、昼も、流石に夜は違うが、それを当たり前と思ってきている。
俺の調子が悪いのもあって、何かと世話になっているのも関係しているんだろう。
「私の顔に何かついているか?」
「いや、何も?」
さっき食べた肉が詰まったのか、胸が苦しかった。
昼ご飯も食べ終わり、アイシャと話しながら休憩しているとき、豪気が食堂に入って来た。少し顔色が悪い気がするが……。
そうだよ、俺たちの噂なんかより豪気達の事だよ。
最近は俺が声をかけられることも減ったんだが、それでも豪気や渼右に言い寄ってくる奴は居る。
多分情報が出回ったから俺は用済み的な感じだろうが、無理だと分かっているはずなのにアタックしてくる馬鹿が多いらしい。
豪気がげっそりした様子で翔平たちの居る席に座った。
そこに茶髪の知らない女が近づいて何かを話している。
「すまんが何度も断っただろ?」
「良いじゃない。おいしい果物もあるのよ?」
しつこく言い寄ってくる女に疲れたように返事をする豪気。
あんな態度を取っても言い寄ってくる奴が減らないのは不思議だな。
豪気の気も知らず、言い寄る女にしびれを切らした渼右が口を開いた。
「ちょっと、いい加減にしなさいよ。断ってるんだから行く気が無いのよ?」
「何よ貴方。豪気様の何が分かるのかしら?」
不味いな。あそこの空気だけ妙に重い。
何かを察した生徒たちも、離れて遠巻きに見るようになった。
これが修羅場と言う奴だろう。正直問題は起こさないで欲しいんだが……。
「馬鹿な女だ。大方、親に可愛がられてきたんだろうが、自分の欲しいものが全て手に入ると思っている」
アイシャが辛口でそう言った。
まあ確かにそんな感じだが、それにしても思ったことを言い過ぎだろう。
「ちょっと!今私の悪口言ったの誰よ!?」
豪気に言い寄っていた女に聞こえたのか声の主を探すように辺りを見渡した。
見つかれば面倒だが、すぐ横で椅子を引く音が聞こえた。
「私だが?」
ああ……。こういう奴だった。こいつが隠れてこそこそするタイプと思った俺が馬鹿だったようだ。
鬼の形相でこっちに女が向かってくる。一歩進めば鼻と鼻が触れる位の距離で立ち止まり、口を開いた。
「聖国のお姫様じゃない。私を馬鹿にしたのは何故?」
「む?すまないな。馬鹿にしたつもりは無かったんだが」
その言葉にかっとなったのか、女が声を荒げて言う。
「じゃあどういうつもりよ!」
その言葉に返事をするアイシャが、悪い顔でニヤッとするのを、俺は見逃さなかった。
「ただ本当の事を言ったつもりだったのだが、気分を害したのなら謝罪しよう」
顔を真っ赤にする女。
この光景を見て、周りの生徒たちがクスクス笑いだした。
「この……!」
手を上げようとする女。アイシャなら受け止めて反撃まで出来るだろうが、俺は黙って見てるつもりは無かった。
アイシャと女の間に入り、振り下ろされそうになる女の手を掴む。
アイシャは自ら動かず、俺が出てくることが分かったのか、一歩引いて間を開けていた。
俺は手を掴んだ女の顔を睨みつけ口を開く。
「流石にそれはダメだろう。なあ?」
「ひっ……!」
怯えと羞恥心を抱えた女は、逃げるように食堂を去った。
俺は席に座りまたアイシャと話を始めた。午前の授業の遅れを取り戻すのは時間がいるのだ。
「寝なければいい話だがな」
ごもっともでございます。でも眠いものは仕方がない。
文句を言っても教えてくれるから、俺も甘えてしまうのだ。
数分話していると、ひそひそ話す声が耳に入るようになった。
あの女のせいで、更に噂が加速することになったが、そもそも豪気達の所からの飛び火だ。後で何か奢らせよう。
「アイシャが変な事言うから、面倒くさいことになったぞ?」
俺がそう嫌味交じりに言うと、アイシャは肘を机について、ニヤッと笑い言った。
「お前は気にするのか?」
「嫌、別に気にしないが」
「じゃあ良いだろう」
確かに。じゃあいいな。
実は噂何て関係なく、この二人の行動、会話などのせいだと二人が知ることになるのは、もう少し後である。
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