勇者
僕は異世界に召喚された。
彼女から借りていた本を読んでいなければ、何があったのか分からなかったかもしれない。
召喚された場所には、玄樹の姿がなかった。一緒にいたはずなのに居なくなるなんて有り得ない。
「もう1人の勇者様は攫われてしまったのです!」
僕たちを召喚した男がそう言った。本当かどうかは分からないが、今はそれしか情報がない。だから……。
その日から、僕達は特訓をした。魔人達は物凄く強いという。だからそいつらを倒せるようになる為に剣を振った。
剣なんか触ったこともなかった、でも今はちゃんと振れる。
玄樹や豪気には遠く及ばないかもしれないが、僕は魔法というものも使えた。
戦争の始まりの1ヶ月ほど前、聖国の聖域と呼ばれる場所に連れていかれた。
そこには大きな十字架と、1本の剣があった。
「これはかの女神が使っていた剣です。資格がなければ触ることすら出来ないでしょう」
その剣こそ、今使っている剣だ。
銀色の剣に、3つほど石がはめてある。聖剣と呼ばれている。
聖剣だけあって切れ味は普通のものとは格が違う。だが、なんと言うかただ切れ味のいい剣にしか見えない。
「きっと本当の力とかがあるんだよ!」
左雫はそう言っていたが、そういうものだろうか?
遂に戦争の時がやってきた。最初は玄樹さえ救出出来ればいいと思っていたが、今では世界を救おうと考えている。
僕たちにしかできないとそう言われれば、やるしかないと思うようになったのだ。
僕と左雫に任せられたのは、とにかく相手の兵を減らすことだった。
魔人領の兵達は、数はあまり多くないものの、一人一人の力量が高い。
だから左雫の能力で数を減らすという作戦になった。
なのに、目の前にはたった二人しかいない。
赤い軍服と白い軍服、紅白の二人のうち、白い方は歳が十歳頃にしか見えない女の子だ。
「ねえクレナイ」
「……ああ」
明らかに空気が変わる。
二人だけで来たと気う事は、相当な実力者のはずだ。今出せる全力で相手するしかない。
「悲しいな…。前を向けなかった家族のなれの果てを見るのは」
赤い服の、クレナイと呼ばれていた男がそう言った。
言っている意味は分からなかったが、俺たちの方を向いて言っているのは確かだ。
クレナイが拳を握ると、炎が噴き出しこっちまで熱気が伝わってくる。完全に相手が戦闘態勢に入った。
「左雫!」
「分かった!」
左雫に合図を出す。
すると左雫は本を広げた。その本から数百枚の紙が辺りに散らばり、動物の形を取っていった。三秒ほどで、紙ではなく本物の魔物と瓜二つになった。
左雫の能力は、描いたものの再現だ。
こんな風に書きだめておけば一気に開放が出来る。
これで状況はこちらが有利になった。後は慢心せず確実に相手を無力化するだけ。
「二百体やれば丁度半分じゃない?」
そう言いながら少女が刀を抜いた。少女と同じで真っ白な刀で、刀身が少し光ってるように見えた。
魔物たちが一斉に二人に向かっていく、流石にこの数に狙われればどうすることも出来ないはず、僕は狙える時に攻撃すればいい。
魔物の大群、その一角から火柱が上がった。戦いが始まったんだ、だがその内静かになるだろうと思っていた。
だがその考えは間違いだった。そもそも最初から間違っていたんだ。相当な実力者なんてものじゃない、化け物だ…。
「皆消えちゃったね、何匹か美味しいのいたんだけどな…。」
「そもそも紙から出来た時点で期待はしていなかったがな」
全くの無傷、かすり傷すらついていない。しかも魔物を食べようと考えながら戦っていたようだ。
左雫を逃がすことも考えないといけない、どうやったらいいか試行錯誤していると、目の前の二人が急に後ろを振り返った。
「この感じ…まさか!」
そう言って少女が向いていた方向に走り出した。
それを追う様にクレナイも走って行ってしまった。
相手がどこかに行ってくれたのなら、こちらとしては有難い。このまま進むだけだ。
『翔平!ちょっとやばいから助けに来て!』
前進していると、渼右から念話でそう言われた。
場所も言わず、詳細もない。それほど状況が良くないのか?確か二人は森の方へ行ったはず…。
「左雫!今すぐ渼右達の所へ行くぞ!」
左雫に巨大鳥を出してもらい、その背に乗って森に向かう。
この世界で最速と言われる鳥を再現しただけあって、スピードは恐ろしいほど速い。障壁を張っているから乗れているが、普通は背に乗るなんて出来ない。
渼右達が見えてきた所位で、クレナイと少女を追い越した。
渼右達を追い込むぐらいだから、さっきの少女たちと同じレベルの相手が何人かいるか、結構な大群だろうと思っていた。だが敵と思われる相手は一人しかいなかった。
怪しげな仮面をつけている男?体格から男だと思うが、何とも言えない異様な空気を纏っている。
その仮面の男は、自分一人で僕たちの相手をするらしい。
「あまり僕たちをなめるなよ…」
「ガキの遊びに付き合う気はない。殺す気で来いよ?」
男は持っていた真っ白な刀を抜き、上段に構えた。
「じゃないと死ぬぞ?」
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