転生
刀は保留になり、次は転生場所の話になった。
どこでもいいらしいが、俺はこの世界の事を知らない。だからお任せにしたのだが、女神が進めた場所は魔神領と呼ばれるところだった。
何千年も魔神王が国王を務めていたらしいが、少し前に代替わりしたらしい。理由を聞くと話づらそうな空気になったので話題を変えた。
「何でそこがおすすめなんですか?」
勧められた理由はいくつかあった。
一つ、俺のもつ魔法適正について
二つ、要望の件について
三つ、俺の性格について
一つ目の魔法適正の話だが、俺は雷が操れるらしい、しかも魔力量も相当だから凄いと女神は褒めた。ここまではさっきも聞いたが、何故それが魔神領を勧めた理由になるのかと言うと、翔平たちが転生した国では、ある理由があり雷属性の魔法が使えるものが迫害されているらしい。だから一緒の所は論外、俺も迫害の対象だからだ。
そして魔力量が関係してくる。魔神領に住む魔人たちは、魔力をコントロールすることが得意らしく、もしかしたら俺の魔力も魔人との間に生まれた肉体ならなんとかなるのではと言う考えらしい。
もし耐え切れそうになくても、女神がなんとかしてくれるそうだ。その何とかした後の対処も魔神領では出来るからこの時点で候補の中では一番いいらしい。
「赤ん坊の時は魔力がコントロール出来なくて暴走することがあるのよ、貴方の量だったら間違いなく荒れるからもし荒れそうだったら魔力穴を閉じるわ、閉じた後は大きくなるにつれて開いていくか、まあ魔法は使えるようにはなるわ」
そして俺がさっき刀が欲しいと言った事が二つ目の理由。
剣神の名前はクサナギと言うらしく、その神様が魔神領に住んでいるらしい、俺が生まれた後何年かしたら俺を介して刀の事を話すか、気に入られて刀をもらうかしたら要望もかなえられるから一石二鳥と言うのが理由だそうだ。
そして三つ目、俺の性格。
魔神領には、魔神王が残した文化が数多く残しているらしく、そのうちの一つに「戦い」があるそうだ。
魔神王は戦闘狂で、よく奥さんの女神とも戦っていたらしい。だがそんなことが俺に何の関係があるっていうんだ?
「貴方もそうでしょ?」
一瞬、さっきまでの女神の態度が嘘かの様な緊張感が走った。
まさに女神、人とは住む次元が違う高位の存在。あの軽めの態度が素なんだろうが、今の女神は威厳に溢れていた。
「剣道、だったかしら?それをしてる時物足りなかったんじゃない?もし私が言ってることがあってるなら転生場所はもうここしかないと思うけど?」
俺は唾液を飲み込んだ。いや実際は体がないからしていないが、そう感じた。
「お願いします」
俺が返事をすると、女神はニヤッと笑い指をパチンと鳴らした。
すると俺の下に、魔法陣が浮かぶ。
「貴方が何を成すのか、楽しみだわ。結婚したいときは言いなさい?身分さだろうが周りの反対なんかがあろうが、私の言葉で一瞬よ」
段々と、意識が薄れていく。
俺が転生する前に、女神が悲しそうな顔をして言った。
「これは聞かなくてもいいけど、もし私の旦那に会ったら帰ってこいって言ってちょうだい」
旦那って、あんた結婚してんのかよ!あれ?てか名前は?
ニコッと笑い少し目に涙をためた女神が最後に見えた。その姿は、あの夢の中の女性と重なった。
◇
「おお!生まれたか!」
「はい貴方、元気な男の子ですよ」
「おお…!おおお……!」
「これ静かにせんかアラニル」
ぼんやりとした視界が、段々とはっきりしてくる。
視界が捕らえるのは、俺を抱いている女の人と、そのすぐそばにいる男と老人だ。
あと付け加えて女神。
「ヘラって呼んでいいのよ?」
どうやら俺にしか見えてないらしい。何をしに来たのかは大体予想が出来た。
「魔力穴、閉じたから。でも十歳ぐらいになればなんとかなるわ。じゃあ、元気でねえ」
そう言い残し、フッと消えてしまった。
女神…ヘラの事はいったん忘れよう。
黒髪黒目の日本人の様な女性、この人は多分母親、そして銀髪蒼目の男性は父親かな?じゃあこの老人はおじいちゃん?結構個性的なメンバーだな。
「おはよう、そして生まれてきてくれてありがとう」
母親と思われる女性が俺に言ってきた。体力を結構使ったのか少し顔色が悪い。
「お前の名前はノアだ、ノア・バベル。元気に育ってくれ」
ノア、俺の名前はノアか……。もう、玄樹じゃないもんな。
正直今の今まで死んだという実感がなかった。心のどこかで本当に夢じゃないのかと思っていた。でも今、この瞬間確信した。
これは現実だと、俺は転生したんだと。なら精一杯生きよう。新たな命を大切に、親の想いを胸に、元気に。
金曜だけじゃ寂しいので火曜日も投稿します。