籠の中
私はこれからどうなるのだろうか、今外はどうなっているんだろうか、いつもそんな事を考えて過ごしている。
ここは、自分の部屋だ。だが、いつもと違うのは間封じの結界が発動しているということと、鍵が外からかけられているということだ。
こうなった理由は、少し前まで遡る。
「父上!どういう事ですか!?老師が暗殺されたことが、何故戦争に繋がるのですか!?」
私は声を荒らげ、この国の王。私の父を問い詰めていた。
戦争が始まると聞かされ、その理由を聞くと、魔神領の何者かの手によって、老師が暗殺されたためだそうだ。
話をよく聞いていると、証拠もくそもなく、ただ決めつけているだけだ。
そんな事で戦争を始めてしまえば、もう二度と魔神領との友好関係は築けない。
「父上!お考え直し下さい、このままでは母上の努力が水の泡です!」
魔神領との友好関係を築こうと、必死に努力した母上。急死してしまった貴方の妻の努力を、貴方自身が壊してしまうのか?
「決定したことだ。仕方ない」
「ですが……!」
「口答えをするな!!」
父上が、声を荒らげたことの無い父上が私を怒鳴りつけた。その顔はまるで別人だった。
説得も虚しく、戦争が終わるまで私はこの部屋に閉じ込められることになった。
戦争の邪魔をする恐れがあると、教皇に言われたせいだ。邪魔な女を消せて、さぞ嬉しいことだろう。
アイツらも神だ何だと言っておいて、関係の無い異世界の人を無理矢理召喚し、洗脳に近い形で魔人は悪だと刷り込んでいた。
神を崇めるなら神の使いと言った、勇者たちにそんなことをするはずがない。
「そう辛気臭い顔をするな」
私以外誰もいないはずの部屋から声がした。
「誰だ!」
部屋を見渡すと、天井に黒い羽を生やした女が浮いていた。その女は私と目が合うと、ゆっくりと降りてきた。
「なに、取ってくいはしない。顔を見に来ただけだ」
金の髪を後ろでひとつに結んでいる。その女は、羽をしまうと、紫色のドレスについていた埃を落とした。
「誰だ……?お前は」
私がそう聞くと、女はフッと笑い横腰に手を置き言った。
「物忘れが激しい奴に名乗る名は無いな」
……?何を意味の分からないことを言っているんだ?私は何か忘れ物をしたことや、言いつけを忘れたことは無い。
「まあいい、何処から入ってきた?」
名の名乗る気もなさそうなので、質問を変えた。すると、また意味の分からない答えが返ってきた。
「何処からも何も、最近はずっと居たぞ?お前が見えてなかっただけでな」
こんなにも頭を使う会話は初めてだ。
相手は理解していても、聞いてる側が理解していなければ、会話は成り立たない。
それなのに目の前のこの女は、会話が成立しているように話をしている。
「ではお前が理解すればいいんじゃないか?」
ん?口に出ていたか?
まあいい、取り合えず今はこんな女に構ってる暇ではない。一刻も早くこの部屋から出て戦争を止めなければ。
「それは困るな、お前にはここに居てもらわないと計画が狂う」
今のは確実に声には出ていないはずだ。それなのにこいつは私に話しかけてきている。
心を読んでいるのか…?
「そんなことはどうでもいいだろう。取り合えず……今は大人しくしておくことだ」
「そんなことって…おい待て、何処へ行く!」
女は背を向け扉の方へ歩き出した。そして扉の取っ手に手をかけ、そのまま扉を開いた。
開かないはずの扉が開いたことに困惑し、今行けば出れるという事を忘れていた。
「……お前はそのまま、戦争が終わるまで大人しくしておくことだな」
扉が閉まった音で、目的を思い出し急いで扉の方に向かったが、その扉が開くことは無かった。
一体今のは何だったのか、だが不思議と悪いものでは無い気がしていた。
「どうすれば良いんだ……」
お守りの指輪を見ながら、戦争の事を考えることしかできなかった。
戦争で死んでいく兵士たち、その中には死ぬべきではない者もいるだろう。
いや、誰であっても死ぬべきではない。だが戦争ではそんな綺麗ごとは通用しないだろう。
「う……」
最近は頭痛が多い。昔見ていた夢もまた見るようになった。そのせいで最近は寝るのが少し怖い。
————————アイシャの部屋の前の廊下
金髪の女、ルシファーは廊下を歩いていた。
前から兵士が歩いてくるが、兵士はまるで誰もいないかのように通り過ぎた。
「何もせず、何も知らない方が幸せな事もある。私には、助けてやる資格も無いしな」
少し暗い表情でルシファーは呟いた。
外に出た彼女は、黒い翼を生やし空に飛び去った。
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