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異世界転生?~THE PROMISE~  作者: 紅椿
龍の民編
33/77

始り

「あっちぃ……」


 ソファに腰掛けながら、俺はそう呟いた。クーラーも無い異世界では、魔法で冷やすしかない。

 が、俺は水と氷の魔法は使えない。だから暑さに耐えるしか無いのだ。

 夏季休暇に入ってから5日、帰ってきてからは魔法の研究に明け暮れていた。

 魔神王と同じ魔法を使う者が現れたと、国は大騒ぎになった……なんてことは無く、平和な日々を過ごしていた。

 あの時観戦に来ていた邪神様が、俺の家族や魔神領から来た偉い人達以外の、記憶の改ざんをしてくれたお陰で、何事もなく過ごしている。

 休暇が終わり、学園に戻っても角と魔法は使わないようにと言われた。

 だからこその研究である。黒い雷ではなく、魔力をそこまで使わなければ、俺は魔法が使えるわけだ。

 学園での楽しい生活のために、俺は研究に励んでいる。が、何度やっても成功せず、黒い雷しか出ない。

 もう呪いじゃない?と思い挫けそうになったが、その度にアイシャと戦った時のことを思い出し、何とか持ちこたえている。

 記憶の処理は、邪神様が言うには今回もギリギリだそうだ。

 相当心に残るようなことは消せないらしく、今回は事前に手を打ってあったらしい。

 何故事前に手を打てたのかと聞いたが、はぐらかされた。


「んー?僕は神様だからね、当然さ」


 現在俺がいる場所は、城内の一室何だが、ドタバタと慌ただしい音がする。

 忙しいのはいつもの事だが、今回のはいつもと違う気がする。

 部屋を出て確かめると、走り回っていたのは兵士だった。甲冑に兜を持ち、音を立てながら外に集まっている。

 訓練かなにかか?それにしては雰囲気がおかしい。


「隊列を組め!いつ攻めてくるか分からんぞ!」


 外で大きな声がした。訓練ではない、有り得ない。多分……敵だ。

 何があったのか分からないと、どう行動すれば良いかも分からない。

 今こんな状況なら父上は会議中だろう、俺が行っていいところでは無い。

 兵士に直接聞くのは論外、だったら……。


「そこのメイドさん、何があったんですか?」


 丁度近くにいたメイドさんに話を聞くことにした。


「どうやら魔物が出たらしく、兵士の方が討伐に出るようで」


 魔物とは、魔力が宿ってしまった動物の事で、虎やら鳥やら鮫やら色々いる。

 1度魔物になると、理性を失い人を襲うようになる。襲った人の魔力を吸って更に力を増す、だから人を襲う前に討伐する必要がある。

 今回は未だ被害は出ておらず、付近の村の人が発見し報告が入ったようだ。何があるか分からないため、兵士は五十名ほどで討伐に出る。


「出撃!」


 場所は南側の平原、そこに向けて兵士は行軍を開始した。

 今は昼前、早ければ夕方には帰ってくるだろう。ただ気になるのは、今の季節に平原で魔物が出たことが無い事だ。

 俺が生まれてからの事なので、前例はあるかもしれないが、ここ十五年間は無かったことだ。何事も無ければ良いが……。


「ノア様、奥様がお呼びです。恐らく昼食だと思います」


 もう一人、メイドの人が俺を呼びに来た。

 兵士が今から戦うということを考えると、食事をする気が起きないが、食べないと午後から動けないのでしっかり食べておく。


「父上、兵士たちが討伐に向かった魔物はどんな魔物なんですか?」


 食事も終わり、一息ついた頃に父上に聞いてみた。少し話すのを躊躇ったようだが、教えてくれた。


「討伐対象はクマの魔物だったらしい、被害も少なく済んだそうだ」


 これはやっかいな魔物だったな。

 クマの魔物は生息している地域によって体毛が違う。魔神領だと黒色のクマが多い。

 地域によって体毛の色が異なるのは、その地域の魔力によるものという説が1番有力だ。

 魔力を吸って魔物になるためだと考えられている。

 被害が出なかったのなら、何も気にする事はないだろう。

 

 研究を進めていると、気が付けば兵士たちが帰ってきていた。少し装備に傷があったり折れた槍を持っていたりしていたが、死人を運んでいるとか、見るからに重症な者はいなかった。

 兵士たちの後ろの方に、討伐したであろう魔物の亡骸があった。俺はそれを見て、おかしなことに気づいた。

 クマの毛皮が、金色が混じったものだったのだ。金色が混じった魔物は、魔神領には出現しないはず……。

 確か生息域は聖国側だったはずだ。女神の魔力が地脈に流れている大陸には、金色の混じった魔物が出現する。

 嫌な予感がする……。当たっていなければ良いんだが、翔平たちの顔が頭をよぎる。


「ノア様、夕食の準備が出来ております」


「すまない今日はいらないと伝えてくれ」


「ですが……」


 メイドが困った顔をして言った。その顔を見て、申し訳ない気持ちが湧いてくる。

 飯は皆で

 という文化があり、仕事を中断しても食卓は家族全員で囲む、それがルールだ。だが今は食事が喉を通る気がしない。

 考えすぎであったならそれでいいが、もし……。

 結局その日は、夕食は食べずに眠りについた。


————————


「始まったね……始まってしまった」


 少年は悲しそうに言う。誰もいない、月明かりが照らすベランダで、金色の模様が入った黒い仮面を持ちながら……。

 慈愛に満ちた表情は、鬼の様に怒りに染まる。


「他所から関係のない子を攫ってきた馬鹿には、お仕置きが必要だね……」

 

 ベランダには、仮面の置かれた机だけが残り、少年の姿は無かった。

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