贈り物
角のお陰で魔力が安定し、雷魔法を使えるようになったわけだが、手に纏うだけというショボい感じの魔法しか使えてない。魔法が使えても接近しないと攻撃できないんじゃ意味が無いし…。
さっきアイシャはイメージと言っていた。魔法はイメージと何か呪文のようなものが必要な時があるが、今俺はイメージだけで魔法を使った訳だ。なら呪文のようなものが分かれば、強力な魔法も使えるようになるのでは?
確か魔神王様が使っていた魔法も黒い雷だった、もしかしたら魔神王様が言っていた呪文でも唱えれば、威力は劣っても同じようなものが使えるのでは?
まあ無理だろうが物は試しだ、アイシャが立っているところに雷が落ちるイメージで呪文を唱える。
「黒雷」
予想通り何も無いか…。隙を見て殴りに行くしかないな。
そう思っていると、上空に黒い魔法陣が出現した。そこから真っ黒な雷がアイシャ目掛けて落ちてきた。
範囲が狭かったからか、アイシャは難なく回避したようだ。
「まさか本当に使えるとは……でも魔法陣は出てこないはずだから別物か?」
魔神王様と同じ魔法を使えるとも思えないので、ちゃんと発動してないだけだろう。
発動までの時間が長いから、攻撃手段として考えるとダメージが入るかは怪しい。ではどうするか、手段はいくつかある。
雷が落ちる場所に誘導する。いい手段ではあるがアイシャは簡単に避けるだろう。
他の方法で行くと、簡単な話追尾させれば良いんだ。それなら避けられても雷はアイシャに向かっていく。
俺は人差し指位の大きさの雷を無数に作り出し、アイシャに向けて放った。
「当たらないなら数で攻めるか、だが…」
アイシャはそう言って雷を腕で薙ぎ払った。が、俺が放ったものは消えずアイシャの腕に刺さっている。血は出ない、刺さってるといっても実際は張り付いているだけだからな。
張り付いてるだけでも、俺の作戦は成功している。今アイシャについている物は、簡単に言えば避雷針に近い。雷が落ちたらそれに雷が向かっていくようになっている。原理は説明すると長いから今は省こう。
「手で払ったのは失敗だったな」
俺はもう一度、雷を落とす。やっぱり色は黒かったが、後々直せば良いだろう。
落ちてきた雷を、またアイシャは一歩引いて避ける。が、雷は避けたアイシャに向かって落ち直撃した。
「ぐっ…!?」
何が起きたのか理解できない様だ。避けたはずの雷が自分に落ちてきては困惑するのは無理もないだろう。
隙を着いて背後に回り込む。今の身体強化の速度は前のとは比にならない。
俺が後ろにいるのに気づいていない。後ろから雷を纏った拳で背中を叩く。が、俺の拳は空を切り、目の前に居たはずのアイシャは風になって消えた。
「それは私ではないぞ?」
後ろからアイシャの声がした。振り返った時にはもう遅く、アイシャの拳が俺の腹に食い込んだ。咄嗟に後ろに飛んだが、威力を殺しきれずそのまま吹き飛んだ。
あの一瞬でデコイを作って自分は俺の後ろに回り込む、流石は主席だ……普通は出来ないようなことでもやってのける。
「さてどうするかね……」
——観客席——
「良い感じに角も機能しだしたね」
観客席の後ろの方で立ち見をしている少年が言った。
「それで?あいつに何したんだ?」
横で同じように立ち見をしていた男が、少年に尋ねる。
すると少年は口は開かず、右の手の人差し指と中指を立て男の方を見る。
「成程、そういうことかよ」
男は苦笑いし、やれやれと首を振った。そしてまた試合の観戦に戻る。
それを見て、少年は言う。
「まさか権能の8個目を抱えることになるなんて思わなかったよ、でも今日でそれともお別れさ」
立てた指を少し切り血を出す。
「この行動が後々、どういう風に伝わるのかは分からない。そもそも伝わらないかもしれない。でも……僕は恩を仇で返すようなことはしないつもりだよ」
流れた血を空中に放つ、放たれた真っ赤な雫は、宝石の様に光り輝き弾け飛んだ。
「術式共鳴」
————————
「そろそろ決着をつけようか、運動も済んだだろう?」
アイシャがそう言う。
その言葉を聞いて俺は刀を抜きに行った。アイシャも同様に突き刺した刀を抜き構える。
「一発で決めるのは面白くないが、十分楽しんだだろう?そろそろ観客の方も飽きているかもしれんからなあ?」
「まるでお前が勝つような言い方だな?」
アイシャはニヤッと口元を上げて笑い、剣を天に向けた。
その剣に風が集まり、剣と風が当たり金属音のようなものが響いている。
「お前の剣が折れるのはそれが原因じゃないのか?」
「そうかもしれんな」
アイシャは本気で一発で決めるらしい。それなら俺も対抗するしかないだろう。刀を鞘に納め、居合切りの構えを取る。そして収めた刀にエネルギーを集中させる。刀全体に、俺が出せるすべてのエネルギーを…。
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