笛の音
魔法工学、魔法理論、体術、剣術、歴史、数学、言語学、作法、等々、多くの授業を受けて一か月、学園生活にも慣れ無事友達も出来た……なんてことは無く、無事友達ゼロの悲しい学園生活になりそうだ。
昼ごはんの時も、注文して各々好きなところで食べるわけだが、他の生徒が楽しそうに食事してる中、俺は虚しく飯を食っていた。
ご飯も収納魔法の中に入れられるので、何処か一人で食べれるようなところは無いかと探していると、笛の音が聞こえてきた。静かで音も小さいが、確かに聞こえる。少し低めの音で、妙に落ち着く。音の出所を探るため、耳を立てながら探していると、中庭の様なところに出た。そこには一本の木が立っており、木と庭を囲むように水路が流れていた。
どんな奴が笛を吹いているのか気にならないわけがなく、木の裏側に居るであろう音の主の顔を見に行った。
「おわ!…ん?何故貴様がここにいる?」
綺麗な、聞き入るような音色を出していたのは、銀色の笛を握る。あの女だった。こいつが笛を吹けたのにも驚いたが、それよりも重要な事に気づいた。
「もしかして、お前未だ友達いないの?」
ビクッと体が反応した。
一人で笛を吹く、クールな女かと思ったが、ただ一緒に飯を食う仲間がいないだけだったことが分かると、俺はニヤつきが収まらなかった。
「おい!貴様今私の事を馬鹿にしただろう!」
「いや全然?いい笛の音だと思ってきてみれば、まさかお一人で昼食をとっていたとは思わなかったので、プッフ…!」
「笑ったな!?今貴様笑っただろう!?」
やっぱりこいつをからかうのは面白いな。親戚みたいな感じで喋っても、他の貴族とは違って不敬だ何だとも言わないし。数回しかあったことは無いのに素で話せるから楽でいい。
「まあまあ、そんなことは置いといて、その笛は?」
少し不満を残しつつも、アイーシアは俺の質問に答えた。
「これは母上からもらった物でな、入学するとき一緒に持ってきたんだ」
それから飯を食いながら色々話したが、アイーシアは神教聖国の王女だという事が判明した。王女には見えないが嘘を言ってる様でも無いので、信じることにした。俺だけ自己紹介しないのも失礼なので、色々と話した。
「知っているか?魔神領と我が国は敵国だぞ?」
「は?初めて聞いたんだけど、何で?」
「邪神を悪とする我が国と、それをかばった魔神領。敵対するには十分な理由だそうだ」
二百年前の事件。2神消失の戦と言われているらしいその事件は、邪神が抑えきれなくなってしまった、人の負のエネルギーが暴走し、世界を崩壊まで追い込んだ。その崩壊を止めるために、魔神王と戦の女神は存在の消滅という代償を支払い世界を救った。
だが全てが終わった後、邪神に責任を取らせようと聖国が出張ると、それを魔神領が阻止、理由を聞くと二代目国王は「親父との約束だ」と言い聖国を追い払った。
そのことから戦争が何度かあり、その度に聖国は敗れているらしい。しまいには魔神王も邪神の味方と言いふらし始めたそうだ。そのせいで雷魔法が迫害されてるという訳だ。
だが、中立のクロックスでは争いを禁じてるため、両国の生徒がいるが仲はよろしくないらしい。クロックスには、昔神が住んでいたらしく、その神が邪神は悪ではないといったらしいが、聖国だけは信じなかったそうだ。その神は今は行方不明で、何処に居るのかすらわからないそうだ。
「私は国の者が言ってることが真実だとは思っていない。だから私が王の座に就いたときに戦争なんてやめさせるつもりだ」
国の王女は戦争反対派か、こいつが何を根拠にそういってるのかは分からないが、人となりは大体わかった気がする。
「まあ頑張ってくれ、俺には何もできないからな」
そう、俺ごときではどうすることも出来ない。だから無理だとか、やめた方が良いとかは言わない。本人がそうしたいのなら応援してあげるのみ、それでにらみ合いが終わって仲良くなれば良い。戦争になんかなったら俺も行かないといけないだろう。戦争なんて経験しないに越したことは無いと、祖父は言っていた。
昼休みも終わり、俺は寮の自室に戻っていた。
この学園は、午前中に授業で午後からは研究や部活動みたいなのをしたり、闘技場を使って模擬戦をしたりと、自由な時間になっている。
つまり自室で寝ていても文句は言われないわけだ。
ベットに横になりながら、今後の事について考えていた。先ず、夏の長期休暇前にあるクラスごとの大会で優勝することが、今の目標だ。
優勝と言っても、俺の上には何人かいる。つまり簡単ではないのだ。俺の使える魔法は身体強化のみ、しかも全力では使えず、体全体に少し魔力を流すのが三分くらいで効果が切れる。
ちなみに大会まであと二か月である。
「寝てる暇ねえじゃん」
という事で、部屋から飛び出し適当に場所を探した。
少し歩いていると、広くて人もいない、良い感じの場所を見つけた。早速刀を取り出し、刀の手入れから始める。
手入れは刀を貰ってから、一日も欠かしたことは無い。一日しないだけでこの刀を打った方に対して失礼になるからだ。
手入れも終わったし早速素振りでもしよう。
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