入学式
「貴方しばきますよ?」
その声を最後に俺は夢から覚めた。目の前には最低限の物しか置かれていない部屋が広がっている。時刻は8時を回っている。
俺の記憶が正しければ、入学式は集合時刻が7時30分、開始が50分だったはずだが……。
目をこすってもう一度時計を見る。時計は丁度8時1分を指した。
「やべえ!!入学式に遅刻はシャレにならない!」
直ぐに制服に着替え部屋を飛び出す。入学式は確か講堂でするはず、最低でも5分はかかるわけだが今さら5分遅れようが変わらない。
全力ダッシュする事5分、寮からここまでの遠さに絶望しながら走っていたが、何とか到着した。講堂にドアが無かったことが幸いし、あけ放たれた正面口からソローッと入ることにした。
「随分遅い到着ですね?」
急に声をかけられたから、ビックリして声が出る所だった。声の方を見ると、そこには見知った顔が居た。ただ今までにないくらい、額に青筋が浮かんでいる。
青く長い髪を一つに結び、後ろに流している。
「ア、アオボシさん。お疲れ様です……。」
挨拶だけして去ろうとしたが、首根っこを掴まれそのまま10分ぐらい説教をくらった。
アオボシさんは、昔あったクロックス学園で一時期働いていたので、この学園が出来た時教師として働いてほしいと頼まれたと言っていた。この学園が出来た時から居る、最古参の一人だそうだ。
「今は主席の挨拶の時間です、まだ学園長の挨拶に送れなかっただけマシですが、大遅刻なのは事実。今さら席には戻れませんからここで聞いておきなさい」
やっと説教から解放された。言う通りにここから壇上を見る。
そこには主席合格者だと思われる人物が立っていた。金髪蒼眼、肩位まで伸びた髪は照明の光で、輝いて見えた。テカテカとかじゃなくて、キレイとしか言葉が出てこない。声からして女だと思うが、いかにも良いところのお嬢様だ。そんなのが主席っていうから驚きだ。
「——以上で、代表挨拶とさせていただきます。主席、アイーシア・レイーシス」
綺麗に礼をして壇上から降りる彼女と、目が合った気がした。
正直話の内容は入ってこなかったが、あいつが規格外と言われたうちの一人だと思うと、ワクワクするな。今も心臓がバクバクいってるし、これは相当な期待が出来る。
後は学園長の女の人の話で終わった。名前は忘れたが、その内また聞くだろう、学園長だし。
新入生退場の時に、こっそり列に戻り教室まで行った。
Aクラスは五十名で、男子と女子の比率は5:5ぐらいだ。皆顔見知りと喋ってるか、貴族と思われるお坊ちゃん方がゴマをすりあうか、見下して喋ってるか……正直楽しそうなクラスでは無いな。
先生が入ってきて、自己紹介から長期休暇までの日程等、色々な事を話して1時間ぐらい過ぎた。
「——という事で一年間ヨロシク。まあ一年間一緒に入れない奴もいるかもしれんがな…。この後は自由に学園を回っていいぞ、その代わり迷子にはなるなよ」
先生がそう言って、クラスの生徒は解散した。一人で面白くなさそうとか格好つけてた俺は、友達作りで出遅れた訳だが、流石にボッチは良くない。
という事で早速歩き回ろう。出会いは待っててもやってこないからな。
「それにしても……やっぱ広いな」
歩き回っていて改めて思ったが、この学園相当広い。所々に闘技場みたいなのがあるし、校舎だけでも大きめの城ぐらいある。そのくせ敷地もデカいから迷う。
…………もう一度言おう。敷地もデカいから迷うのだ。決して方向音痴ではない。
今日は新入生しか出てきてないため、上級生に道を聞くことも出来ない。取り合えず来た道を戻っているはずが、どんどん良くわからないところに行ってしまう。
一度止まって、道を思い出していると、曲がり角から、人が歩いてきた。やっと元居た場所に戻れると期待したが、俺を見た瞬間にパアッと明るくなった顔を見た瞬間、期待が絶望に変わった。
こいつも迷子だよ……、しかもよく見たら主席の人じゃん。何であんたが迷うんだよ。いや待てよ、主席という事は友達か取り巻きが多いはず。大勢いるうち何人かは道が分かる奴がいるかもしれない。話しかけてみるだけはしておこう。
「ん?貴様は入学式の時遅れて入ってきた奴ではないか?……はあ、唯一の希望が」
「あ?何だよお前、人の顔見るなりバカみたいな顔したかと思ったら、今度はため息つきやがって」
少し頭に来たので、口調が悪くなってしまった。さすがに気を付けて喋ろう。だが、今回は別だ。なんか無性に腹が立つし。
「な…!お前とは何だ!私にはアイーシアという名前がある!」
「俺にもノアっていう名前があるんだよ!最初に貴様って言ったのはお前だろ?」
「またお前と言ったな!?迷子のくせに!」
「迷子はお前もだろうが!」
子供の様な口喧嘩をすること約10分、流石に疲れたしあっちも疲れてるっぽいから俺も言うのを止めた。
話していて思ったが、本当にこいつは主席か?ガキみたいな態度しかとらないから、あの時壇上に立っていた奴とは別人としか思えない。
しかもこいつもボッチ。何で分かるかって?さっき自分で「まさか最初に喋ったのが貴様の様な奴とは……」っていってたし、友達出来なそうな性格してるもん。
「もういい。俺はお前に構ってる暇はないんだよ」
とそう言い残し、俺は屋根までジャンプした。上からなら道も探せるし、最初からこうしておけば良かった。
あの女が追いかけてくることは無く、俺はそのまま寮の自室まで戻ることが出来た。あいつが戻れたかどうかは分からないが、俺には関係ない事だ。
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