非日常
一限目が始まって30分位たったかな?正直な事を言うと俺は飽きていた。
黒板にびっしりと隙間なく書かれた数式を見るたびに、憂鬱な気分になる。
他の皆はどんな感じなのか気になり、辺りを見渡してみると、真面目に受けてるのは半分、他は机に頭をのせて寝ていたり、寝てはいないが授業は聞いていないという感じだった。
その授業を受けてない半分に、翔平も入っている。翔平は授業を受けないくせに成績はいいから、先生はあまり翔平を注意することは無い。
こいつはサッカーをしていて、サッカーもうまい。変な角度からシュートが決まるし、ボールが足に引っ付いてるんじゃないか疑うレベルの動きをすることがある。
文武両道のイケメン、ついたあだ名は主人公。だが実際は結構なビビりだ。自分も怖いのに、左雫を守ろうとして頑張るもんだからいい奴だよ。
なんてことを考えていると、翔平と目が合った。翔平は目線を黒板に移して、俺に何か伝えようとする。
「玄樹。俺の授業は聞く必要は無いか?聞かなくてもいいが、聞いとかないとまた赤点だぞ?」
教室にドッと笑いが起こる。
どうやら翔平は「先生が見てるぞ」と言いたかったらしい……。もう少し分かりやすく伝えてほしかった。
◇
午前中の授業が終わり昼休みに入った。
いつものように五人で弁当を食べていると、左雫が思い出したように話し始めた。
「あ、そうだ玄樹くん。この前渡したの読み終わった?」
あ、と声に出てしまった。そう言えば読んでと言って渡された本があった。一応読み終わったが、今日返すつもりだったのに持ってくるのを忘れてしまった。
「すまん返すの忘れてた。今日放課後持っていくよ」
左雫が半ば強引に俺に渡してきた本は、ライトノベルと言うらしく、最近アニメにもなったらしい。正直よく分からなかったが、読まないと後が怖そうだったので仕方がなく読んだ。
翔平も最近は読まされるらしく、ハマったのかストラップを買っていた。
「話すのは良いけど後5分で5時間目始まるぞ?」
豪気がそう呟いたことで焦りを感じ、残った弁当を急いで口にかきこんだ。
5、6時間目は直ぐに終わり、放課後の部活の時間がやってきた。
渼右は水泳部、翔平はサッカー部、左雫は美術部へ向かい。俺と豪気は剣道部、道場へ向かっていた。
道着に着替え、防具をつけて稽古を始める。
それぞれの掛け声や、竹刀が防具にあたる音が道場に響く。いつも通りの練習風景だ。
「玄樹、一回相手してくれ」
「分かった」
豪気が試合がしたいらしいので了承し、構える。
開始の合図と共に、豪気が飛び込んできたので一歩下がって様子を見る。
今やってるのは普通の試合とは違い、一本取られたら終わりなので慎重に動く。
豪気が竹刀を弾こうとして、一瞬動いたところに、喉目掛けて突きを入れる。その一本が決まり、試合は終了。そのまま稽古も終わりとなった。
「突きは反則だろ…」
豪気が後片付けをしているときに俺に言ってきた。
「練習では禁止されてないからセーフ」
「試合で使えないのに練習で使うとは思わないだろ」
剣道の突き技は、高校生から使用していいという事になっている。だが俺たちは高校生、なぜ使用が禁止されているか。
豪気たちは使える、俺だけが使えない。
理由は、1年前。高校入学して直ぐの新人戦で、俺が突きをして相手を気絶させたから、連盟から公式大会での使用を禁止されたからだ。
直ぐに意識を取り戻したから良かったが、あの時は肝が冷えた。試合中の俺は興奮状態で、遠慮が無くなっていた。そのせいで本気の突きを見事にくらわせてしまったのだ。
「あれを見たときは驚いたよ、対戦相手が綺麗に倒れるもんだからよ」
クスクス笑いながら豪気が俺の肩を叩いてくる。今だからこうして笑って話せるが、気絶させた俺は相当焦ったんだぞ!
「昔の話はいいだろ、早くいかないとあいつら帰るぞ?」
あいつらとは翔平たちの事だ。俺達5人が仲がいいのは家がすぐそこだからという事も関係している。
部活が終わる時間も一緒だから、いつも一緒に帰っている。
待ち合わせ場所の校門前に行くと、左雫がA4位の紙を持っていた。大体何を持っているのかは見当がついたが、一応聞いてみた。
「何持ってるんだ?いや…何賞だったんだ?」
左雫は俺の質問に紙を広げて答えた。
そこに書いてあったのは絵画コンクール県の部最優秀賞の文字だった。
当然と言えばいいか、左雫は絵が上手く、アメリカのコンクールでも賞を取ったことがある。正直俺はよくわからないが、簡単に言えば独創的だ。
「早く帰ろー、おなかすいた」
渼右がグズリ出したので、足早に家に帰ることになった。
しばらく歩いていると、交通量の多い交差点で赤信号に捕まってしまった。
「ここ長いから嫌ーい。はやくしてよーー」
渼右が限界に達しそうになったが、左雫がカバンから飴玉を取り出し渼右の口に押し込んだ。
「ナイス」
「いつもの事だからね」
そう、いつもの事、朝から帰るまで、ほとんど起こる出来事は同じだ。でも、日常は突然崩れることがある。
信号がもう少しで変わるというときに、足元が急に光りだした。真下からライトを当てられてるような眩しさだ。
少し危険を感じ、俺は回避行動をとった。光の範囲からは逃れられたが、4人は反応出来ていない。
俺は避けた。思えばそれがまずかったのかもしれない。
自分が犯した間違いに気が付くころには、俺の体は宙を待っていた。避けた方向には道路、車側の信号は青、急に飛び出してくる人に運転手が反応出来るわけもなく、俺はそのまま車に衝突した。
段々見えなくなっていく視界が捕らえたのは、俺を心配し車から降りてくる運転手の男性と、一瞬眩しさを増したあいつらの足元の光が消えたと思ったら、あいつらが消えていたという信じられない光景だった。
「やべえ…幻覚まで見えやがった……。これ…ダメなやつだ」
感想待ってます(ノ・ω・)ノ