食せ!この角を!
ヒョウさんも落ち着いて、少しの間狼とヒョウさん、クサナギ様が話していた。
暇だった俺は石碑の前に行って、ついでにご利益でももらえないかなと思ってお祈りしといた。こういうのは気分の問題だしね。
石碑は平べったい石の上に、長方形の石が置いてあった。平べったい石の上は少しスペースがあり、そこにはこれもまた真っ白な刀が置いてあった。絶対に触れたらダメな奴だと直感で判断し、指一本触れなかった。
お祈りを済ませ、ふと下を見ると小さな花が咲いていた。しゃがんで見ていると、話が終わったのか全員こっちに来ていた。
「キキョウの花だ、花言葉は変わらぬ愛。俺達が前を向けた理由の一つ。二百年前からずっとそこに咲き続ける花だ」
と、花の名前と花言葉まで説明してくれた。銀髪の男だったが…だれ?
「ああ、そうか。俺はオウガ。さっきの狼だ」
とオウガと名乗った男は言った。流石に人になるのは予想外だったが、深く考えても仕方がない。異世界だからと言って割り切るしかない。
それにしてもキキョウか…印象に残る花だな。
凛と咲く紫色の花は、俺に強い印象を与えた。同時に、胸が締め付けられるような感じがした。心なしか頭も痛い…。
「魔力に当てられたか?クサナギ、早くこいつを連れて帰れ」
「オウガは帰ってこないの?」
クサナギ様が寂しそうに言った。
「俺はここを守ると決めている。あいつもそうだしな」
その言葉を聞いた後、俺の意識は無くなった。
「やっと行ったね。正直もう駄目かと思ったよ」
男だ、俺に話しかけている。ここは夢の中?でもそれにしてはやけにリアルだ。
「まあ時間もないからね…。今度はしっかり覚えとけよ?」
おい、先ず名を名乗れよ
「いっただろ?時間が無い」
「中央大陸クロックスにある学園に通え。いいか?覚えとけよ?起きたらメモしろよ?」
男の顔も何もかも認識できないまま、俺は朝日で目が覚めた。
メモがどうのこうの言っていたので、一応言われたことを書いておく。
石碑のあった場所に行った後、俺は魔力に当てられて倒れたらしく、クサナギ様が運んでくれたようだ。
「一週間お休みね」
母がクサナギ様に、そう俺に伝える様に言われたらしく、起きたら部屋に居た母に言われた。ただ一週間後必ず王城に来るようにとの事だった。
一週間暇になったわけだが、そう言えば学園がどうのこうの言われていたな…。母上に聞いてみよう。
「クロックスの学園?中央学園の事かしら?」
中央学園、二つある地脈の交点に建てられた闘技場に後付けで建てられた学園らしい。
地脈と言うのは、魔神王と女神の魔力が流れる地下にある溝の事らしい。丁度世界の半分に魔神王の地脈、もう半分に女神の地脈が流れているらしく、その地脈が唯一交わるクロックスに、戦神と崇められた二柱の神に敬意を表し、記念に闘技場を建てたそうだ。
中央学園はそこに後から建てられた学園で、各国から優秀な人材がその門を叩くらしい。
「実はそこに入学したいのですが…」
夢の事もあるが、話を聞いてると面白そうだから頼んでみた。
「良いわよお。でも入学は十五歳からだからあと八年我慢してね」
反対されると思っていたが、案外簡単に了承してくれた。実は最初から通わすつもりだったらしく、俺が自分から言う必要はなかったらしい。
「それでもノアが自分から言ってくれて嬉しいわ」
ただ簡単に入学とは行かないらしく、俺は魔法が使えないから、剣術の稽古や勉強を頑張るように言われた。確かに今は魔法使えないもんな……。
ただ一週間は刀を振ることは禁止されてるので、本を読んで過ごしていた。父上の書斎には面白い本がたくさんあったので退屈はしなかった。
◇
一週間後、俺は王城の会議室に来ていた。昔の指輪騒動の時と違う事は、じいちゃんがいないという事だった。
呼ばれた理由は謎で、今から差し出すものを食えだそうだ。何を食わされるのかと思っていたが、差し出されたものは予想の斜め上をいく物だった。
差し出されたものは真っ黒な小石、流石に石を食えと言われても……。
「まあ食べてみろ」
ゴウさんがそう言ったが…。考えても仕方がない。腹を壊しても回復魔法もあるし、食わないと話も進まなそうなので思い切って口に入れそのまま飲み込んだ。
急に腹を壊すこともなかったが、少し体が熱い。なんか額も痛いしピリピリするし毒でも入ってたか?
「ね?言ったでしょ?大丈夫だって」(クサナギ)
「ホントに魔力あったんだな…」(クレナイ)
「少ししか出ていませんが、内包する魔力量は相当なものですね」(アオボシ)
俺は何を食わされたんだ?しかも魔力って……まさか穴が開いた?今食わされた奴のせいか?まじで俺は何を食わされたんだ?
「今食ったのは魔神王の角のかけらだ。お前の魔力穴が閉じてるって話をお前の親父に話したら、どうにかしてほしいといわれたからな」(ゴウ)
「貴方のお父さんが困ったら助けるっていうのが、パパとバロンの約束だからね」(ヒョウ)
どうやら俺はとんでもないものを食わされたらしいが、魔法が使えるようになるなら結果オーライだな!
転生して七年、やっと魔法というものが使えるわけだが、クサナギ様は魔法は苦手らしく、この場に居る皆様も忙しいとの事で適任がいなかった。
「じゃあ、ルシファーたちに頼もっか」
と、ヒョウさんが言い出した。ヒョウさんは森に行った後、あの三人を許したらしく、ルシファーという女性と仲良くしている。ヒョウさんの切り替えの早さを尊敬した。嫌味ではない、純粋な気持ちだ。ルシファーと言う人が、俺に教えることを了承したらしい事を聞いたのは、そのすぐ後の事だった。
という事で、今屋敷の庭に居る。
目の前には紫色のドレスを着たルシファーさんと、少年だ。あの男の人は今は仕事中らしい。代わりにと言うか、赤髪の少年が居る。この少年、ベルゼブブという名前らしい。自己紹介だけしてどこかに行ってしまった。
「やあノア君、元気にしてたかい?」
声をかけてきたのは、黒髪の少年、ルシファーさんの弟かと思っていたが、なんと父親らしい。いつもの異世界だしで納得。
だが流石に邪神と言われたときは驚いた。神様がそんなにほいほい出てきていいものなのか……?
感想待ってます!




