表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/54

8、気配りの男ダンク

息を飲んで床に座り込むツンツン男、ギルティは、その頃腕組んでうなだれていた。

ハニーがそうっと彼の顔をのぞき込む。

ポタポタ流れ落ちるのは、涙かと思った。


「泣いてんの?別れるの、そんなに寂しいんだ。」


顔を上げた彼の顔は、絶望的に焦っている。

冷や汗がだらだら流れて、彼女の腕を掴む手はびっしょり濡れていた。


「ハニー、逃げよう。やっぱマズい。」


「あら、どうして?さっきの子、辞めたって言ってた子じゃないの?

あなた、問題あるガキって言ってたじゃない?あの子でしょ?可愛い子。」


「うううっ、俺怖い。あいつ俺の元上司なんだよお、こえええええ!

きっと今夜殺しに来るうう!!ボスに言うな言われたこと言っちゃったんだよおお!」


「まあ!じゃあ仕方ないわね、決められたことは守らないと。」


「ハニー、怖くないの?」


「まあイヤだ。

だって、私を殺しに来るわけじゃないし、怒ってるのあなたに対してでしょう?

私、遺族年金楽しみだわ。どのくらい来るのかしら。あなた、今度ボスに聞いといて頂戴。」


ひょおおおおおおぉぉぉぉぉ……


俺の存在価値って……金しか無いのか……


「俺、仕事してくる。」


「ええ!今夜美味しい物作って待ってるわ!

あ、いいの、別に無理して帰らなくてもいいのよ。あたし、こちらのお友達と食べるし。

そうね、今夜もうちに来るなら外で食べてきてちょうだい。

お仕事がんばって!お仕事してるあなたが一番ステキ!」


「お、おお、だよな。俺、仕事してくらあ!愛してるぜ、ハニー!」


「知ってるわ!」


ハニーにウインクすると、ハニーが投げキッスで答える。

ギルティは、フッとニヒルに笑い、ガンベルト付けてドアミラーが切られて無くなった車に乗り込んだ。


「行ってらっしゃ〜い!別に帰らなくてもいいから、お仕事がんばってー!」


ハニーがキュートに手を振って見送ってくれる。

彼は心から、稼ごうと決めた。







夕方、サトミの家にダンクがやってきて、具合はどうかと様子を見に来たと言って顔を出した。

サトミはココア飲んでずいぶん落ち着いて、彼を家に入れるか迷いながら一緒にメシ食いに行こうと外へ誘った。

ベンは馬屋でラジオ聞いてる。

とりあえず、行きつけのシロイ亭に向かった。


「セシリーちゃんがさ、腹下してるウンコ王子見に行ってこいって。」


「フフッ、明日殺すわ、あの女。」


「おいおい、やめてくれよ、お前の発言は全然冗談に聞こえねえ。で、何かあった?」


「ちょっとな、嫌なことあってさ。

仕事放棄しちまって悪かった。明日皆にもあやまるわ。」


「気にするな、まあ、色々あるさ。」


ほんとにこいつは優しい奴だ。

だから、できるだけ気を抜く家に二人きりは避けたい。

くだらねえ言葉端捕まえてブラックな俺が出てきたら、大変なことになる。

気持ちが落ちているときは注意しなくてはいけない。


「しかしお前って、いつ来ても家に人を入れないんだな〜。俺信用出来ねえ?」


「いや、そう言うんじゃ無くてな。

調子いいときはいいんだが、調子悪いときは人目があった方がいい。」


さっき黒蜜うっかり抜いちゃったし。


「え、・・・うん、そっか。まあ、俺も死にたくないからどこでもいいや。」


ダンクは、微妙に俺のことわかってくれる。

きっと怖いんだろうなあと思う。

なんだか軍にいたときは、周りが変で俺が普通と思っていたのに、実は俺も変だったってのが辞めたら妙にはっきりしてきた。



「今日な、軍のなんか分隊長とか言う奴が局長訪ねてきたぜ。

明日お前デリー行きの早出だろ?具合悪いなら俺変わるけど。戻ったら局長室来てくれってさ。」


「ああ、早出は大丈夫だ。ちゃんと行くよ。

そっか、あのクソ野郎行ったのか。

・・・・・・なんか、話聞いた?」


ダンクは、うやむやに返事して、うつむいて答えない。

その内シロイ亭について、二人ともなんだか寒気するなと今日のおまかせシチューのビーフシチューとパンと、フライドチキン頼んだ。

飲み物はダンクがビール、サトミは砂糖多めのホットミルク。


しばらく天気の話して、思い切って今日のことを打ち明ける。



「ダンクよ……俺さ、隠すことじゃねえと思うから話すわ。

俺、軍の除隊、却下されたらしいんだわ。」


ため息ついてうなだれる。

言うのも辛い、涙出そうだ。


先に出てきたフライドチキンにかぶりつく。

ダンクはチキン食いながら、泡ヒゲ付けてビール流し込んだ。


「んー、らしいな〜。

お前は強いから、まあ不思議じゃ無いけど、そんなの聞いた事ねえってみんなビックリしてた。

でも、局長が上の人と話するからって……せめて18になるまでは郵便局にとどめて欲しいって、あの人見た目オカマでも簡単に引かないし、強えから大丈夫だよ。

心配すんな、お前はもうロンド郵便局に正式に席置いてんだし。お前の上司はあの局長だ。

俺たちだって、お前が来てからこっち、強盗めっちゃ減って助かってる。」


「うん・・・」


強盗は減った。

確かに、この平穏は望まれた物だ。

だが、俺はずっと心のどこかで落ち着かない。

戦いたい、そう思ってないか?

俺の人斬り中毒が、またひょっこり出てきそうで怖い。


「はーい、お待ちどうさま。ビーフシチューにパンと、オマケでサラダ。

サトミちゃん、ちゃんと野菜も食べるんだよ。」


「うん、おばちゃんありがとう。」


ああ、こう言うほっこりが、今日は妙に身に染みる。

ダンクが、おお!と感嘆の声上げて、さっそくスプーンにデカい肉をすくった。


「メシ、食おうぜ。美味そうじゃん?サトミちゃんよ。

お前さ、まだ15だし、いくら何でも責任追わされる立場は早すぎると思うんだ。

俺はお前、守りたい。みんなもな、そう言ってる。」


ハッとした。

そうだよなあ、ロンド郵便局の居心地の良さって、そうなんだ。

俺はちゃんと15で扱って貰えるって事だ。


「フフ・・・ありがとう・・・ありがとうな、ダンク。

あと、サトミちゃんやめてくれな、あれ年寄り限定だから。」


「わかった!サトミちゃん美味いな、ここのメシ。」


「うん、もう、サトミちゃんでいいや。俺、缶詰に飽きたらここに食いに来るんだ。あっちっ!」


サトミがふうふう、シチューに息を吹きかける。

猫舌か〜見てると妙に可愛い奴、やっぱりガキだよなーとダンクはほっこりする。


「なんだお前、缶詰で晩飯済ませてんのかよ。

ふ〜ん、じゃ野菜は?野菜もちゃんと食ってるか?」


「もちろん!バランス、ちゃんと考えて食ってるぜ。

俺たち身体が資本だからな。」


「へえ、ちょっと気になってたけど、心配いらなかったな。

どんな料理で食うんだ?すげえ凝ってたりして。」


ダンクが笑って興味津々で聞いてくる。

俺はメシだけはバランスに自信あるので答えた。


「良く聞け〜、野菜はな、鍋に牛乳と塩と砂糖入れて、テキトーにバリバリ葉っぱの野菜ちぎって、ぐつぐつして食うんだ。

ま、あれってスープだよな、牛乳スープ?最初マズかったけど、最近慣れた。

これがな、最近、ソーセージ入れると、ちょっと味があることに気がついた。

なんか合うんだぜ?凄く食べやすくなった。やってみろよ。


そうか、味が無いからマズいんだな?今度ケチャップ入れてみよう。牛乳ケチャップスープ、うん。

マヨネーズは合うのかな?・・・


それとな、あと、ケンコーの為に毎日フルーツ!

ちょっと高いのもあるけど、やっぱ甘いのがうめえ。たまに超酸っぱいのがあって死ぬ。

フルーツの名前全然覚えてねえけど。うん、オレンジとリンゴくらいはわかる。

あと食後に甘〜いココア。これは外せねえな。」


カラン……


料理上手で知られる男、ダンクがスプーン落とした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 良かった良かったサトミちゃん浮上した。ダンクのおかげ! [一言] ギルティ強く生きろ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ