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51、タナトス

アルケーの高級車と軍用車の2台が、一刻も早く国境から離れようと走る。

1台目の高級車の後部座席には交換交渉の席にいた高官が、イライラしながらタバコに火をつけた。


「クソックソッ一体何なんだあのガキ!」


「マズくないですか?爆破まですることは……」


隣に座る高官付きの秘書の声が震える。

だが、その足に高官はタバコの火を押しつけた。


「あれはメレテのテロリストがやったんだ。我々は一切関与していない。

それに乗じて軍の奴らが越境して息子殿を取り戻しても、それは英雄を守りたいという、温情あふれた行動だ。

わしの知らんところで何があっても知らん」


「は、はい」


ズボンに穴が空き、太腿の皮膚がジリジリ焼ける。

苦痛に耐えながら、それっきり秘書は黙った。


「な!んだ??」


運転手が思わず声を上げ顔を上げる。

そこは右を高い崖が続き、今の季節、風が通りにくい。

周囲は煙に覆われ、先が見えなくなっていた。

思わずブレーキを踏む運転手に、高官が声を上げる。


「止まるな!突っ切らんか!ここは何も無い場所だろう!」


「はい!」


運転手が思いきってアクセルを踏み込む。

煙の向こうに、突然大きな倒木が現れた。


「ギャアアアア!!!!」


バーーーンッ!ドーーーンッ!ガガッ!ドカーンッ


ブレーキを踏む間もなく車は倒木に突っ込み、更に後ろの車が突っ込んできて木の上に乗り上げ、そのままバウンドすると、横倒しになった。

後ろの車は倒木の下に突っ込み、兵達は激しい衝撃に意識が薄くなる。


横倒しの高級車の中では、大柄の高官に潰されながら秘書が苦しそうに声を上げる。

シートベルトもしていなかった高官は、座席中をバウンドして、舌を噛んだのか口から血を出していた。


「だ……大丈夫ですか?」


「うう、一体何だ?何があった?痛い、痛いぞ、身体中が痛い……」


車がグラグラと揺らされ、やがてドスンと車体が平行にもどされる。


ガッチャン 誰かが外でショットガンのフォアエンドを引いた。


バンッ!!


大きな銃声がして後部ドアの窓が壊され、窓側に座っていたSPが即死した。

煙の中から黒い戦闘服の男がヌッと現れ、運転手と前席のSPがとっさに銃を向ける。

黒い戦闘服は瞬時にショットガンを向け、SPを撃つ。


バンッ!


撃った瞬間、横から動きを感じてサッと車の陰に回る。


パンパンッ!

パンパンパンパンッ!


銃声が響き、追突して倒木に突っ込んだままの軍用車からも兵が飛び出し車を盾に撃ってくる。

もう一人の黒い戦闘服が、アサルトライフルで応戦した。


タタタンッ!タタタンッ!


ドンッ


突然2台目の車の上に黒いマスク、黒い戦闘服の男が崖の上から飛び降りてきた。


タンタンタン タタンタンタン


タタタンッ!タタ……


反撃を落ち着いて避けながら両手の銃で、車の外に居る男たちを次々撃って行く。


男が車のへこんだ天井の上で、スッと、右足を引いた。

車中運転席の男が、天井に向けて小銃を撃つ。


ダダダダダダダダッ!!


引いた右足のあった場所に穴が集中して空き、斜めに天井を舐めるように撃って行く。

天井の男は弾を避けるように左へ、左へと避けてゆき、上から運転席に向けて銃を撃つ。


パンパンパンッ!


「グァッ!ガッ!」


小さく声が上がり、車内が沈黙して車上の男が飛び降りた。

ふと見ると、女が後部座席に座っている。

おびえるふうでも無く、目を閉じて、黙って座っていた。


「助けてくれえ!!な、な、金ならやる!助けて!助けてくれえっ!!」


1台目に視線を向けると、車中から血を浴びた高官が引きずり出されている。

指で合図すると、2人の部下がナイフで高官の上着を切って脱がせ、目隠しをして鎮静剤を注射して眠らせ、そのまま持ってきた長い袋に入れた。


女が車から降りてくる。

彼らを見て、ヒョイと肩を上げた。


「すっごい、手際がいいのね。感心するわ」


ちらと女を見て、リーダーの男がプイと顔を背ける。

女からは殺気も恐れも感じない。


「壮年以降の太った男は心臓がもたない事があるから、眠らせた方が安全だ」


「フフ……あら、教えてくれるの?」


「あんた、イレーヌだろ?スカウトされたグリズリーババア」


「あらやだ、知ってたの?あの子の仲間なんだ」


「聞いてる」


「これ、どうするの?」


トントンと、車を指で叩く。

誰も生きてるものはいない。自分だけだ。


「燃やす」


車の周囲に倒れた兵を、車の中に放り込んで行く。


1台目は追突された影響で、車の下からガソリンが漏れている。

2台目の軍用車はガソリン缶を積んでいたので、それをまいて車体の下に放り込み女の方を向いた。


「お前はどうする?」


部下が、高官を入れた袋を2人で抱えてくる。

女が諦めたように笑って、彼に手を出した。


「あたしがやるわ。銃貸して。

あんたたちに付いていく。顔変えたっていいわ、もうこの国には散々」


銃を、彼女に渡そうとする男に部下が驚く。


「お、おい、マジ?」


ジンが、ポンと、女の手に銃を渡した。

女はうなずき、大きく息を吐いて一言告げる。


「さよならアルケー、さよならイレーヌ」


パンパン、パン!


乾いた音がガソリンに火をつけ、2台の車が燃え上がる。

その場を引き上げながら、女が男に銃を返した。


「あんた、なんて名前?」


「ジン」


「いい、名前ね」


「だろ?」


「あたし、なんて名前にしようかしら」


「サトミがつけるさ」


「サトミ?あの子?ふうん、なんで?」


「犬の名前つけるのが得意なんだとさ」


「ひっどい!あははは!」


残った白い煙が一陣の風にかき消されて行く。

あとには燃える車が2台、これからの2国の運命を暗示するように真っ黒な黒煙を上げて、激しく燃え上がっていた。


これが本業

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