43、ほぼサトミな妹
朝を迎え、サトミがシュラフから飛び起きた。
とうとう昨夜は家に帰れなかった。
酔っ払ったデッドに散々絡まれて、帰ったら死ぬとか言うんで死ねと言って帰ろうとしたのだが、驚くほどに乱れて銃はぶっ放して壁に穴開けるし、他の隊員にすがりつかれて、仕方なく上の一番奥の部屋に泊まったのだ。
「ミサト、怒ってるかな。」
ゴシゴシ顔を擦って、手ぐしで髪を整える。
刀背負って部屋を出ると、廊下の先でデッドがヘソ出し、ズボンずり落ちてイビキかいて寝てる。
くっそ、こいつのせいで帰れなかった、クソ野郎。
髪剃ってやろうか。
とは言え、起こすと面倒なので、そうっとまたいで下に降りた。
ちょうど出くわしたイエローが、朝からシャワー浴びたのか濡れた髪でさっぱりしてる。
「おはようございます、すいません泊まって頂いて。
妹さん一人で大丈夫ですかい?」
「あいつは俺の友人とこにいると思う。メシ食ったら迎えに行くよ。」
「本部へは同行されますか?出発、サトミの都合に多少は合わせますぜ。」
「そうだな。行きはお前らと行って帰りは何とかする。馬置いてこないとな。
妹にもワケ話してこないと怒るだろうし。」
今日は土曜で月曜まで休み貰っているから、3連休だ。
人が増えて休みやすくなったのは助かる。
妹の住環境を整えるのもだが、一旦辞めて返しているので、一度本部に行って各種手続きとパスと身分証を貰ってこなくてはならないらしい。
局長とボスの電話会談で済むと思っていたから、多少ガッカリだ。
「どうせ服も今まで使ってたのだろうし……いや、成長期だしな。制服も合わなくなって、また作り直しかな。」
「えっ?……えーっと、そうですねえ」
イエローが、なんとなく目をそらす。全然成長してないように見える。と言いたいだろう。
俺もその辺不安だ。
だが!俺には確信がある!
「フフフ……俺はなあ、これでもちゃんと育ってんだぜ!
なんとなーーーーく、いろんな物がちょっと高くなったような気がするんだ。」
イエローが、ハイハイと聞いていて、アレ?と思う。
高くなったら、サトミは低くなっちまってるんじゃないか?
ボサボサ頭のサトミをじいっと見てたら、寝ぼけた目でアレ?っと首をひねる。
「高く……低く……あれ?低くなるのが正解じゃね?」
「まあまあまあまあまあ、顔洗って来て下さい。デッドも起こしてきます。
マッスルがメシ作ってますよ。ココア、ちゃんと持ってきてますけど自分で作りますか?」
「うん………あれ?上?下?あれ?」
どうも郵便局のドアの指紋認証でそう感じたのか、人差し指を上にやったり下にやったり、まだ寝ぼけてる。
しょぼしょぼした目で洗面所探してキョロキョロするので、あっちと指さした。
寝起きの隊長は本当にお子様だ。
「うう……うううううう〜〜〜」
うめき声に階段の上を見ると、デッドが這い出てきた。
「なんだよ、二日酔いかよ。お前さあ、まだ撤収もしてねえのに、何考えてんの?」
「ううううううう〜〜〜………たーいーちょーは〜?」
「顔洗ってるよ。お前シャワー浴びて来いよ。
まったく、お前のせいで隊長、妹さん帰ってきたのに会えなかったんだぞ。」
「くっそーー、妹とか殺してやりてえ。」
「あーあ、男の嫉妬は見苦しいねえ」
「うーるーせーー」
デッドはトカゲみたいに階段を這って降りてくる。
と、その時いきなり外で警備に立つセカンドの新入りと女の声が聞こえた。
「だーかーらー、兄ちゃん迎えに来たんだってば!」
「ダメダメ、一般人立ち入り禁止!」
「もう!融通利かない男ー!邪魔だからスパッと殺っちゃっていいかなー?
兄ーーーー!!セシリーちゃんち、出勤で追い出されたーーー!!
家の鍵ちょうだーーーいーーーーーー!!」
ミサトの声が響いて、顔洗っていたサトミがビシャビシャのまま廊下に飛び出した。
「しまった!帰るつもりで渡してねえ!」
「顔!顔ふいてくださいよ!」
思わず外に飛び出すサトミに、タオル取ってイエローがあとを追う。
外の話し声に、デッドがぬるっと立ち上がってよろめき、妹とか言う奴をドアの隙間からのぞき込む。
女の子が、楽しそうに兄の手を取りブンブン振っている。
そうっとドアを開け、談笑するイエローと、トラックから珍しく外に出ているジョークがサトミにじゃれていた。
「あんま変わらないですねー、一つ違いってマジですか〜?」
「マジだようるせえなー」
「なんで並ばないんです?ほら!やっぱりサトミが小せえ!」
ギャハハハハハ!!
「うるせー!何で俺は身長が伸びないんだよう!くそう!」
馬鹿笑いのジョークに、サトミがメチャクチャ怒ってる。
サッと庭木に隠れながら、デッドが近づいて行く。
サトミが、大きくため息付いて振り向いた。
「何コソコソやってんの?こっち来いよ。
これ、俺の妹。可愛いだろ、ラブリーでキュートだろ。」
「やだあ!兄ちゃん、言い過ぎーマジだけどー」
ベタベタいちゃつく兄妹に、ようやくボサボサ頭でデッドが出てきた。
なんとなく直視出来ない。
こいつがこれから彼の一番大事な人になるのだ。そう思うと嫉妬の炎がメラメラと、また沸いてきた。
なのにぐいっと強引に引かれ、ミサトの前に押し出された。
「こいつデッド、現役なんだけど、ちょくちょく遊びに来るんだ。
ミサト覚えとけよ、俺のダチだからよ。も一人親しいダチいるけど、こっちがマシな方な」
「うん!マシな方!いつもお兄ちゃんがお世話になりまーす!」
ミサトがマシな方にテキトーに敬礼する。
「ダチ」と言われて、デッドの顔がパッと明るくなった。
デッドが一変してにこやかにミサトの出す手に握手して、顔を見た。
「やっだー、マシな方さんかわいー!タイプー」
「ダメダメ、こいつは下半身魔王だからやめとけ、ガキがボロッボロ出来るぞ。
隊のみんな俺のダチ、たまに顔見せに来るから覚えろ。
ダチだ、武器持ってても絶対手え出すなよ。」
「うん!わかった!殺っちゃ駄目な奴らね」
何か言われたけど、デッドの耳には何も入らなかった。
彼の時間は凍り付いた。
そこには、サトミの顔した、ほぼサトミのキュートな女の子がにこやかに立っていた。
硬直したデッドに、イエローがヤバいと気がつく 。
「じゃ!俺ら戻りますんで!」
イエローが、硬直しているデッドを前からガッと片手で抱き込んでドアに向かう。
「おい、アレはサトミじゃねえんだ、惚れるなよ。おい!デッド、聞いてんの?
お前殺されるぞ!マジ、やめろよ!」
「ヒヒヒ〜聞いてねえ、聞いてねえ」
ジョークが面白がって後ろから声をかけた。
「ミサトー、メシ食って行けよ。んで、一旦一緒に帰ろうぜ。
兄ちゃん、ちょっと留守にしなきゃ。本部に行かなきゃなんねえんだ。」
「あーうん、わかった。大丈夫だよ、自分のものそろえるから、お金ちょうだい。
いない間は兄ちゃんの布団に寝ていい?」
「オーケー、いいよ、好きにしろ。
ケイシーおっちゃんとこにベッドマット頼んでるけど、そろそろ来たか聞いてみようか。
ブランケットは好きなの買ってくればいい。
あー、とりあえず馬、向こうに一旦つないでこい。」
「うん!」
シロを連れて、ベンのいる馬屋へ行く。
メシ食ったらすぐに出るので、荷物はそのままだ。
それを遠目で見て待つサトミに、ジョークがそっと聞いた。
「やっちゃ駄目ってどういう事」
「そうだなあ、普通の可愛い女の子なんだけどよ、まあ相手が武器持ってるとたまに脳みそが殺っちまう方に切り替わるんだ。まあ、でも俺にとっちゃ可愛い普通の妹だ。
しかしあいつを知ってる町の衆、顔が青くなってるか、安心するかの両極端だな。
いい用心棒にはなると思うんだがな。」
「意味……不明」
ジョークが呆然とつぶやく。
「まあ、よく考えると、ジンは妹そっくりなんだよなあ。そうか、そうなのか。」
「お兄ちゃーん!ごはんー!」
「おう、こっち来い、みんな紹介するから。ちゃんと覚えろよ。」
「うん!みんな兄のダチね!」
「そうそう」
二人でドアに消える後ろ姿に、一人残されたジョークが息を呑む。
「リーサル…ウェポン……」
その言葉に、間違いは何一つ無かった。




