32、仲良くしろよ
ロンドの郵便局に着くと、ミサトにどこで待って貰うか考えた。
作戦行動中なので、家に一人はヤバいと思う。
と言っても、キャンプ地に預かりというのも男ばかりで、また何言い出すかわからない。
エクスプレスの事務所は、いつものメンバーの姿が無い。
自分がいきなり抜けたので、キャミーも戸別に出ているのだろう。
ジャッジとアントが微妙に視線そらして敬礼するが、ふてて無視した。
どうせツルツルだよ、悪かったな。
ミサトは事務所でキョロキョロして、眺め回している。
「へーここで働いてんだー、だからアレお母ちゃんからってわかったんだね〜
でも、良くわかったよ、住所間違いの別人宛じゃん。
あ、兄ちゃんトイレどこー?」
「ここでて真っ直ぐ行ったとこ。余計なとこ入ろうとするな。飯は?食ってきたか?」
「うん、ちょっと運動したからお腹すいたな。」
「わかった、バーガー二つ買ってくる。なに味?」
「テリヤキって言うのある?同じの2つ!なんかさー、テリヤキ味が妙に好きなんだよねー」
ブッと吹き出した。ほんとに俺達、双子じゃないのは、おかしい。
ルンルン、ミサトがトイレに向かい、そしてその間にアントがバーガー買いに出て、ジャッジが目標の動きを報告する。
「よし、あとは……」
「キャッ!!サトミ!!ここ、女子トイレ!えっ?!なんで女装してんの?!」
「え??」
トイレの方から、女性スタッフの叫びを聞いて、思わず顔を見合わせた。
「え?俺、ここにいるじゃん?」
「総隊長〜、思った以上にそっくりですよ。」
「だって、髪型も…スカートだし」
「やっだ!サトミが女装してる!マジィ!!」
「うっそ、ヤバいじゃん?!」
なんだかどんどん騒ぎが大きくなって、なのに何でミサトは否定しやがらねえんだ!
サトミが慌ててトイレに走る。
「ちょっと待った!俺じゃなくて、それ妹!誤解だよー!」
「え??サトミ…じゃないの?え?あら、ほんとだわ。」
「まあ!そっくりじゃない?妹さん帰ってきたんだ!」
行ってみるとミサトはニコニコして、皆が間違えるのを面白がっている。
「ヤッホー!兄ちゃん、この感じひっさしぶりぃ!たっのしー」
ピンクのワンピースをふんわり翻して一回転する。
ショートスパッツの下の銃がシュールだ。
「たっのしーじゃねえ!早くしっこして戻ってこい!」
「えー、兄ちゃん、じゃあそこにいてよ、また間違えられるしー」
「俺がなんで女子トイレの門番なんか…あー!わかったから早くしろ!」
小さい頃、夜のトイレはいつも一緒だったことを思い出す。
トイレの入り口に立って待っていると、みんなそれぞれ声をかけて持ち場に戻って行く。
ちょっと感傷的になって、グスンと鼻をすすった。
トイレから出てきて、ミサトがニイッと笑う。
「兄ちゃん嬉しい?」
「嬉しいさ、お前らに会うために、その為に俺は人を殺して生き残ったんだ。
いいから手を洗え。」
ちょろちょろ出る水で、洗ってパンパンと腰で拭くとピョンと飛びついて、サトミを後ろからギュッと抱きしめた。
「あー、いい気持ち。なんかさ、ずっとなんかが無くなったような気持ちだった。」
「うん、俺も。せめて大人になるまで一緒にいたいよな。」
「兄ちゃん、また軍に行っちゃうの?」
「そのうちな。軍を正規に抜けられなかったんだ。」
「そっか〜…じゃあ、そん時はあたしも一緒に行くよ。家族でって、出来るでしょ?
出来なきゃ入隊する。もう離れたくないもん。」
いや、それは駄目だろ。でも、そんな方法もあるよな。
「うん、考えとく。」
二人、手をつないで事務所に戻る。
アントが買ってきたバーガー、サトミも一個食べて、ミサトが2個食べる。
相変わらず激甘コーヒー飲んでるアニキにミサトがキャッキャと笑って、コーラ飲んで盛大にゲップした。
サトミは局長に呼ばれ、出向についての話を聞いた。
軍籍を戻すことに手続きがあるので、一旦本部に呼び出しがあったらしい。
月曜まで休みを出すので、それまでに済ませてこいと言う事だった。
そうしているうち、アタッカーのみんながボチボチ帰ってきた。
みんなミサトを見て驚き、そして口をそろえて双子?と問い返す。
いちいち説明するのは面倒だが、今日はなんだかとても嬉しかった。
仲間に恐らく今日で軍の撤収になる事と月曜まで休みを伝えると、月曜早出はダンクが変わってくれることにすぐ決まる。
明日土曜の3局周りは、リッターが引き受けてくれた。
「じゃあ、もしかしたら今夜忙しくなんの?彼女どうするの?サトミ、遅くなるんじゃない?家に一人で大丈夫?」
キャミーが真っ当に心配してくれるが、ミサト本人は大丈夫と笑い飛ばす。
すると、横からセシリーが手を上げた。
「うちでアニキ待ちなよ、晩ご飯ごちそうするから。
違う町の話聞きたいし、その服、見せて。
あたしが縫ってあげるわ。」
「え?ほんと?穴いっぱい空いちゃったの。」
「オッケーオッケー、ほら、あたしデブだったから自分が着る服全部縫ってたの。
オシャレな服見たいし、穴空いたの縫ってあげるわ。
泊まってもいいよ、サトミ準備出来てないでしょ?」
「え?セシリー、うちに余分なベッドねえぞ?」
リッターが、首をひねって振り返る。
「あら、兄ちゃんは床で酒抱いて寝ればいいじゃん。酒が彼女なんでしょ?」
「サトミ〜!俺の妹はデビルなんだけど、お前の妹はどうよ。」
泣きついてくるリッターは、華麗にスルーする。
セシリーの申し出は、サトミにも嬉しい。ミサトが目を輝かせて何度も見てくる。
「あたし、彼女のとこで待ってていい?」
「ああ、迷惑かけるなよ、短気起こさず仲良くな。セシリーのバター料理、今は意外と美味いぞ。」
「今はは余計よ。王子の妹だもん、任せてよ。お礼はキスでいいわ。」
ガタッ!ダンクが立ち上がった。
「お、俺も一緒に行くから。サトミの妹だし。」
「あーら、ダンク、女子会に男が来るなんて不粋な奴〜。
まあ、あんたは兄ちゃんの相手でもするのね。」
「ひっでえ〜」
と言う訳で、その日ミサトは一旦セシリーが預かり、サトミの迎えを待つことになった。
いつものように、定時でみんな帰って行く。
サトミがゲートをくぐると、アントたちが駐車場へ急ぎ、車を出してサトミを追う。
キャンプに付くと、サトミはまた自分でベンを馬屋に入れて、ベンの世話をする。
「さっき乗せた可愛い子が俺の妹。よろしくな。」
「つるつる」
「よし、ニンジンいらないな。」
ヒクヒク笑いでニンジン引っ込めて袋に放り込む。
むうううっとベンが怒って、新しく敷いてある草にいきなりおしっこした。
「てっ、てめえ!わざとしやがったな!くっせえ!くっそ、草とオガ入れ替えだ!」
ここにはほんの一時しかいないのに、サトミは排泄するとすぐに草を替えていつも綺麗にしてくれる。
自分を大事にしてくれるサトミを、ベンは大好きだ。
背中にスリスリしていると、しようがねえ奴だなと鼻先を撫でた。
「機嫌がいいのか悪いのかわかんねえ奴だなあ。
妹来ても、何も変わらねえよ。心配すんな。それよりシロと仲良くしろよ。」
「うん、よくする」
ニンジン3本やって、ドアから手を上げるデッドに手を上げて返し、小走りで中に入る。
とりあえず洗面所で手を洗っていると、デッドが笑うかと思ったら低い声でタオルを差し出した。
「妹さんと会えたそうで。おめでとうございます。」
笑っていても、雰囲気でわかる。
こいつはちっとも喜んでねえ。
「お前、俺の妹に……ま、いいや。好きにしろ。」
そう言って、手をふいたタオルをバンと返す。
手を出すなと言われると思ったのに、デッドが怪訝な顔をした。
「あれ〜?殺しに行くかもしれませんよ?」
予想していた言葉に、サトミがちらっとデッドを見て、クククッと楽しそうに笑う。
「デッド、俺はさ、見えない目で夢を見てたんだ。でも夢なんざ、夢でしかねえ。
現実は、目で見てみると世界は全然違ってたんだ。
そうで無くちゃ生きていけなかったのさ。俺も家族も崖っぷちで生きてる。
それがわかっただけでもいいさ。」
なんだか少し、印象が思ったものと違ったのだろうか。
サトミは、ただ喜んでいるように見えなかった。
「……よく、わかりませんが、きっと……もしかしたら、俺が誰より一番わかるような、そんな気がします。」
ニッとサトミが笑って、ドンとデッドの胸を叩く。
「で、お前、笑わねえの?」
「え?ああ…アンダーヘアですか?俺も脱毛してますから、似たようなもんですよ。ツルツルです」
えーーーーーーーー!!!
「マジかよ、なんでそんなとこ抜くんだよ?!」
「まあ、色々とありまして。頭以外の毛は全部許せないんです、俺は〜」
サトミがデッドの顔を見上げて愕然とする。
生えないの心配してんのに、生えたの抜く奴がいるのかよ!
生えないのと、生えたの抜くのとじゃ、ちょっと違う気もするけど
「ま、そう言う奴もいるって事か」
「個性ですよ、そう言うことです」
「ふーん」 どーでもいいやと、さっぱり忘れることにした。




