31、ブラッドリー兄妹の秘密
ミサトが峰打ちされた腕を痛そうにさする。
まあ、普通なら骨折しているところだ。
「いった〜、兄ちゃんが叩いた腕が痛い!それなに?雪雷?黒蜜?」
「これ、雪だよ、え?なんでお前が刀持ってんだよ!
え?あれ?オヤジが持ってた雷電?違うな、鳴神じゃん!
お前!何で手榴弾とか持ってるわけ?!戦後だぞ?犯罪だぞ?
ああああ…こんなに殺しちゃってどうするよ。」
てへっと、ミサトがクネクネする。
「えー、だってえ、可愛い女の子の身を守るたしなみじゃん?こいつら帽子に穴開けたんだよ?!」
ミサトが、超ダッシュで走って帽子を取ってきた。
「ほらっ!ほらほら!マジ、あたしの頭にだって、穴空くとこだったんだよ?ひっどいと思わない?
あたし、死んじゃうとこだったんだから!怖かったぁ!しくしくえーん!」
確かに、ピンクの丸い帽子には、穴が貫通して二つ空いてる。
フワフワじゃ無きゃ、頭を貫通していただろう。
だが、ピンクだ、荒野渡りにかぶる色じゃない。良く見ると服もピンクでメチャクチャ目立つ。
命知らずもほどほどにしろ、超目立つ色は標的に丁度いい。
「あー、そうだなあ、一応死にかけたって事か。うーん……
まあ、お前は普通の女の子なんだから、怖いって事も勉強しろ。
参ったなあ、今スゲえ時期が悪い。
この道、衛星で監視されてんだ、色々誤魔化しが利かない。」
横からそうっとトレバーが近づいてきた。
鳴神を持ってきたものの、どう差し出していいのかわからない。
切られそうで怖い。
と、ポンとミサトが手から取って鞘に直した。
「あ、さんきゅう〜、兄ちゃんやっぱこれ鳴神ってわかるんだー。
見たこと無いのにさ、兄、相変わらずスゲえ、神野郎だー。」
「あー、うっせえ、お前相変わらず口が悪いなー。淑女は遠い!
トレバー、ロンドに帰る。俺は仕事が残っている。」
顔を上げると、バッとトレバーが敬礼する。
仕方ない、軍に丸投げだ。
「時間が無いので、あとはこちらで処理します。処理班呼びましたので。」
「わかった、すまねえ。じゃ、セカンドに任せた。ポリスにも報告頼む。必要があれば俺があとでポリス行く。妹は襲われたショックで言葉も出ないって言っといてくれ。」
「わかりました。……えーと、双子で?」
二人、並んでみると、同じ背格好で顔もそっくりだ。
「違う、一つ違いだ。双子並みにそっくりなのは、何故なのかわからん。
わからねえこと俺に聞くな。」
「ねー、昔は入れ替わりごっこして遊んでたよね。
兄ちゃん、ぜんっぜん背が伸びてなーい!やっだ、夢壊れた〜。」
「うるせー、お前だって乳もケツも育ってねえじゃん。」
「それセクハラ!腕痛いから兄ちゃんの前に乗る!
あーー!!馬までちっこい!可愛い〜ロバ?」
「馬だ」
サトミじゃない、低い声が返って来てミサトがキョロキョロする。
サトミが手を貸し、鞍の前の方に乗せて自分もベンに乗り込んだ時、ギルティが部下連れてやって来た。
「おーい!」
道の方から手を振って、ギルティが声を上げる。
「よし、ギルティ来たな。後は頼む。」
「指示回したら、すぐ追います。」
トレバーが敬礼して、ギルティの元に走る。
ギルティは飲み込みが悪く、自分の代わりに置いた処理班の班長に伝えた。
その間にも、サトミはさっさとロンドへと、ミサトの乗ってきた馬を引いて軽く走り出す。
ギルティが、のんびり眺めてぼやいた。
「なんだあ?!なんであのヤロー女連れてんだ?」
「妹さんだそうで。凄いもの見ちまいました。」
「凄いもの?ヒャハハ!裸踊りでもしたか?妹って、ブス?ブスだろ?」
「隊長とそっくりで。何でもかんでもそっくりで……凄い……可愛かったです。
でも、なんか誰かに雰囲気似てるんすよねえ…あの、普通に見えて普通じゃないとことか……
あっ!ああ〜………そっか〜」
何故か、トレバーが一人で納得してうなずく。
「誰だよ。」
「秘密にして下さい、喋ったら駄目ですよ。……いや、やっぱ止めます」
ギルティは口が軽い、サトミの耳に入ったら、きっと殴られる。
まさか、『ジンに似ている』だなんて。
「なんだよ!ケチ!」
ギルティが怪訝な顔をして、遠ざかる二人を見送った。
小走りの、ひづめの音が2頭分テンポ良く響き、ロンドへと向かう。
ミサトはサトミが家を出てからのことを、キャッキャと話し、さほど深刻な状況でもなかったんだとサトミはホッとした。
サトミは自分のことは深く語らず、浅く広くぼんやりと話す。
ミサトは軍のことはあまりわからず、興味も無いようなので深く聞くことはしなかった。
それより、やっぱり興味は14才女子。
「ねーねー兄ちゃん、彼女できたー?セックスした?」
「彼女はなー、まだいらねえなー。
まあ、俺を王子だのダーリンだの呼ぶ女はいるけど、意味わかんねえや。
セックスかー、俺まだガキだからなー、まともな女に相手にされねえ。」
「じゃあ男には?相手にされた?軍って男ばっかでしょ?ねえねえ!男は??」
がっついてくる妹に、あーと脱力する。
「お前なんで男関係にそんなにがっつくんだよ。俺はノーマル、男といちゃつく趣味はねえ。」
「ちぇっ」
「チェッって何だよ、お前なに変な知識付けてんの?」
「爺ちゃんにさー、ジャパンオタクの本送って貰ったの。
キラキラの男がさ、ケツ友達でイチャイチャしてんのさ。
ケツ友達の事、ヤヨイって言うんだって!
でも、爺ちゃんから買ってきて貰ったオタクブック、みんなお母ちゃんが燃やしちゃった。
もう手に入らないコミケブックなのに、くすん」
サトミが横向いて大きくため息付いた。
自分が命張ってた間に、何してんのやら腹も立たない。
「俺は下品な妹に言葉もねえわ。
リッターの妹より重傷だわ。
それで、お前の爺ちゃんって誰だよ、それ俺の爺ちゃんって事になるワケだろ?」
「ほら、鰐切のおっちゃんだよ〜、お母ちゃんのお父ちゃんなんだってさ。」
「ええええええええええええええ!!!!!」
「お父ちゃんがね、戦時中お尋ね者だったから、言えなかったんだって。
ほら、あたし今学校がリモートで、パッドの貸し出しがあるのさ。
それで時々爺ちゃんとお話し出来るの。
規制があって授業以外は自由に使えないんだけど、規制の中でも使える裏アプリがあってね。
お母ちゃんのお母ちゃんはカナダって国の生まれなんだって。」
「マジ?じゃあもしかして、お母ちゃんって3重国籍?何だよ、くっそ、何も知らねえの俺だけじゃん。」
「まあまあ、これから可愛い妹が一緒なんだし。幸せいっぱいじゃん!
ねーねー、兄ちゃん、チンチンに毛は生えた?」
「ゴッフッ!」
一瞬自分が吐血したかと思った。
「やめろ、もうお前のその〜…オヤイ?には付き合いきれねえ〜」
「ヤヨイだよ〜、もういいや。この国じゃヤヨイ文化どころか、ジャパニーズマンガも皆無だし。
あたしはロンドの田舎でしょぼくれて家事でもやるわ。」
「まあ、お前は普通の女の子なんだから普通に生活しろ。ロンドも悪いとこじゃねえぞ。」
「うん。……で、チンチンに毛は生えた?」
「まだ生えてねえよ、なんか俺、声変わりも来てるのか来てないのかわからねえや。
なんか身長もちっとも伸びねえし、俺の栄養どこにかたよってんだ?」
くるっとミサトが振り向き、ニパッと笑った。
「あたいも生えてない。よかった〜、兄ちゃんも生えてなかった!
つるつるきょうだいだーーーー!!オーーーイ!!ツルツルなんだよおおおーーーー!!」
荒野に向けて、ミサトが思いきりデカい声で叫んだ。
「デカい声で言うな!!」
「いーじゃん、だれも聞いてないし〜」
ザザッとヘッドホンに雑音が入り、ドキッとする。通信機付けてたの思い出した。
『クックックック……そーたいちょ〜〜、マイク入ってますぜ〜。
あ、あーーだめ、我慢出来ねえ〜ギャハハハハハハハ!!!!』
「 な、なにぃ!!! 」
ジョークの馬鹿笑いに、ざああっと、身体中から血の気が引いた。
マイクが入っているという事は、誰と誰が聞いてるんだ?
あいつとあいつとあいつと〜〜〜〜〜
え?あ、あああーーーーーーやっべぇえええ!!ぎゃあああああああ!!!
俺の心はブラックアウトした。




