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30、サトミとミサト

その盗賊たちは、懸賞金を諦めて、地道に普通の盗賊でやっていこうと心に決めていた。

案の定、懸賞金を目当ての奴らはあっという間にやられて、向こうに行かずに良かった良かったと仲間内でホッと話し合う。


そこにいいカモがやって来た。

雄叫びを上げて、やるぜやるぜと意気って向かう。


「ハッハアッ!見ろよ、いいカモだぜ!見ろよ可愛いガキだ!女も生きてりゃ売れる!

生きてれば構わねえ!撃て撃て!!」


ドドドドドドドド!!


ひずめの音が、地響きも激しくミサトに迫る。

ミサトはただお気に入りの帽子に空いた銃痕の穴に指を突っ込み、表情がどんどん暗くなっていく。

そして穴の空いた帽子をポンと捨て、腰のケープを取るとバッと広げた。


「ククッ……ククク…………」


ニッと笑ってブラックの表に返し、首元でボタンを留める。

フードを被り、そしてシロの手綱を引いて盗賊たちに向けて走り出した。


「えっ??」

「ええっ??」


いきなり向かってきた少女に、盗賊が息を呑んだ。


「な!なんだ?!気でも狂いやがったのか?!」


パンパンパンパンッ!


ハンドガンを撃っても、サッと身を返し、馬を操り避ける。


パンパンッ!


キキンッ!


見えない速さで刀を抜き、金属音を立て弾をはじく。


「ひいいっ!!!」


その姿に、盗賊の数人がドッと冷や水を浴びたように馬を止めた。



「こっ!こいつ!!こいつ!!!半殺し野郎の身内だぁっ!!!」



「はっ!半殺し野郎?!!だって??!!」


「やっ!やばい!!」「うわああああああ!!」


一斉に、盗賊たちが馬を急停止させ、入り乱れながら馬を返して逃げ出した。


「たっ!助けてくれえええええ!!!!」


「うわああああああああ!!!」


ミサトが一気に遅い馬の男に迫り、容赦なくドッと切り裂く。

切られた男は落馬して、馬だけが仲間を追いかけた。


「貴様ら、あたしの帽子に穴開けて、タダで帰れると思うのかよ。

クソ野郎ども思い知れ。」


可愛い水玉にお花のボタンが付いたポシェットから、手榴弾を一つ取る。

ピンを抜いてポンと前方に放ると、逃げる奴らに向け、刀の峰で打った。


コーーーーン!!


凄まじいスピードで手榴弾は弧を描いて彼らを追い越し、そして目の前に落ちて行く。


「ギャアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」


慌てて馬をストップさせ、滑り転ける馬上で盗賊たちが落ちてきた手榴弾に凍り付く。



バーーーンッ!!



「バーーーンッ!キシシシシ、死んでわびろ。」


それでも、生き残ったものは懸命に走って逃げ出し、馬を走らせる。


「クククククク!!貴様ら、この鳴神なるかみから逃げられると思うな!」


ピュンと刃で空を切り、ミサトは嬉々としてあとを追い始めた。







ドカッドカッドカッドカッ!!


サトミがベンを走らせ、ミサトの元に急行する。


「ベン!走れ!もっと走れ!」


舌を噛みそうになりながら、叫ぶサトミに応えてベンは走り続けた。

途中、セシリーがやり合った現場を越える時、遺体の回収とケガ人の回収や状況記録を行っている現場で指揮を執るギルティがのんびり手を上げる。


通り過ぎるとき、また奴の「ええええーーー」が聞けたが、今はそれどころじゃなかった。


ヤバい、なんだかとてもヤバい予感がする。


妹があの、ガキの時ゲリラにさらわれそうになった時以来だ。

妹は、あの時までは普通の妹だった。



バーーーンッ!!



爆発音が聞こえ、サトミが身を起こした。


「しまった!盗賊は……いや、ミサトは無事か?!」


「まさか、アタッカーと間違われたので?!」


トレバーが、車を併走させて声を上げる。

道の左から薄く煙が見えて、ベンのスピードを落とし道を外れた。


「わからん!くそっ、道を外れるぞ!トレバー、ここで待て!」


「いえ!行きます!隊長、我らは護衛です!」


「許可する!来い!!」


「了解!!」


走る、走る。

白煙を目指して走る。


走る先に、一頭の馬に乗る黒いケープの女の姿、その視線の先には、盗賊たちが累々と倒れてうめいていた。



あれは……あれは!!



「トレバー!ここで待て!!危険だ、来るな!!!」


「了解!」


トレバーの車が止まり、サトミがベンを遠巻きにぐるりと回り込ませる。


「ベン、これは俺の妹だが、今は敵と思え。」


黒いケープの女はニヤリと笑い、レッグホルダーから銃を取り、サトミに向けて撃つ。

そして突然馬を返すとサトミに向けて走らせた。


パンパンパンパンッ!


キキンッ!


サトミは避けながら抜いた雪雷で弾を弾き、左にすれ違いざまミサトの抜刀した鳴神を火花を散らし受け流した。


ギキイインンッ!!


ヒュンッ!


女が馬を返し、流された鳴神を瞬時に切り返して前からサトミの首を狙う。

サトミは身体を後ろに倒し、目の前を通り過ぎる鳴神の刀身を雪雷を返して下から打ち上げ、刀を放したミサトの腕を峰打ちした。


「ぎゃんっ!」


鳴神が舞い上がって車の外で見ていたトレバーの足下にザンと刺さる。

ミサトは間髪入れず、左手で右の脇から銃を放つ。


パパンッ!

キキンッ!


雪雷で弾を返し、刀を直すと馬を寄せて身体をひねり、ベンの尻に手をついて片手で逆立ちする。


「なんっ!」


クルリと半回転して開いた足を回し、ミサトの首に足を引っかけそのまま彼女の身体を馬から引きずり下ろした。


「ギャアア!!こいつ何?!」


落ちた瞬間、下から蹴りを突き上げる。

それをパンと払い、銃を押さえつけた。


「くそっくそっ!何て動きすんのよ!殺す!!」


「ミサト!俺だ!サトミ、お前の兄ちゃんだ!」


「えーーーうっそお!マジィ?」


ミサトが手首から一本ショートナイフを取り、サトミの首元に向けて突き出す。

サトミはその手を掴み、クルリと返して彼女の首元に突きつけた。


「な?兄ちゃんだろ?」


「ほんとー?」


ミサトが疑り深く右足の靴の横を地面で叩き、かかとからナイフを出して、足を広げサトミの背中を勢いよく刺す。

サトミが瞬時に腰のサバイバルナイフを抜いてそのかかとに突き刺し、そのままヒールをそぎ落とした。

ミサトがパッと明るい顔で笑う。


「あーーーほんとだ!!!兄ちゃんだ!

だから殺せなかったのかー!なーーーんだ!!

ひっさしぶりぃ!!会いたかったあああああ!!顔!目が綺麗!綺麗だよ!お兄ちゃん!

見えてる?!見えてるんだ!あたし可愛い?可愛いでしょう?」


ミサトがやっと武器を放って、フードを取りサトミに飛びつく。

サトミは彼女を抱き留めて、ホッとして抱きしめた。


「可愛い可愛い、お前は昔っから可愛い妹だ。俺の大事な妹だよ。

あーーー、無事で良かった。触った感じ、大きくなったよなあ!

そっか、お前こんな顔だったか!

ミサト!あああーーーー会いたかったああああ!!」


「うわあああああんん!!会いたかったよう!!

何だよバカバカ!!全然手紙一枚くれないんだもん!」


「手紙出してたけど、お母ちゃんが転送手続き取ってなかったんだよ。

お母ちゃんとオヤジは?ああ、お前ほんっと俺そっくりじゃん?ハハッ!」


「知らないよう!どっか行っちゃって、あたしにはショウユ一本渡して兄ちゃんとこ行けって!

マジ、信じらんないよ!か弱い女の子一人旅だよ?心配しないとか、もう!信じらんない!

あ、兄ちゃんに手紙!」


パッと離れて、馬に積んだバッグを探る。

大事なショーユと一緒に入れた袋を引き出した。


「え?」


手紙とは、昔と同じボイスレコーダーだ。

それはお母ちゃんから聞く、久しぶりの日本語の声で、そして極めて簡単だった。


『やっほーサトミちゃーん!元気ー?元気よね、うん、きっと元気ー!

お兄ちゃん、妹をよろしくねー。だって、お兄ちゃんだもの、頑張ってー

サトミちゃんなら大丈夫!うふっ!おかあちゃんよりーあっ、お父ちゃんもー


よし!生きてたか、そうかそうか。よぅし、了解だ。はっはっはー


やだ、あなたカッコイイ(ハート)

今の、カッコイイあなたのお父ちゃんよりー!じゃあねー!』 ピッ


サトミが手から、ポロッとレコーダーを落とした。

すかさず下でミサトがキャッチする。


「ま、ま、ま、ま、マジか!え?たった、これだけ?え?マジ??」


「あと、ショーユ。」


「はあああ????何が大丈夫だクソ親ども!!ガッデーーーーム!!」


荒野にサトミの声が響き渡り、ミサトが笑って耳を塞いだ。

やっと再会

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