21、お父ちゃんとお母ちゃん
アーガイルの3区、
夕方遠乗りから帰ると、ミサトはアパート近くの厩舎で自分の馬の世話をしていた。
ここは月極で使用料を払うと、馬を預かり面倒を見てくれる。
隣の父親の馬はいないので、まだ帰ってないのだろう。
お父ちゃん、今日はボディガードの依頼受けてないはずなのに、どこほっつき歩いてんだろう。
「またろくでもない仕事受けてくるのかしらねー、シロ。」
馬は栗毛だけど、白い馬が欲しかったのでシロ。
かみ癖があって安かったけど、まあ、噛まれたら痛いだけ。
どうも嬉しい時に噛んでくるから、馬的にはスキンシップらしい。
治らないのか一時悩んだけど、お父ちゃんに言わせると、お前の短気が治らないのと一緒だって。
失礼しちゃう、あたしってそんなに短気かなあ。
いやいや、そんなはず無いわ。あのお母ちゃんの娘だよ?
「ほらニンジン美味しいねー、シロ。んー、いてて、そうか嬉しいか〜。よかったよかった」
馬にブラシをかけて、好きなニンジンあげると喜んで頭にかじりついてくる。
ふと、かじられながら思い出した。
「あー!今日、リモートの学校サボっちゃった。
えーと、何回目だっけ?10日無断で休むとパッドの通信止められて返却しなきゃなんないんだよなあ。
あれがないと、この国じゃネットも出来ないじゃん。
通信費がリモートの学生だけタダなの太っ腹だけど、大人になったとたん勝手に使えなくなるのどうにかして欲しいわ〜。」
あれから、お兄ちゃんとは夢で一回遭遇した。
その時、ぼんやりした姿のお兄ちゃんは、何か私に必死で訴えていた。
「なんて言いたいのかわかんないよー」
するとしばらく考え、ポンと手を叩いてジェスチャーで郵便局と伝えた。
そこで、昨日早朝から郵便局に走ると、来ていたのだ。
お兄ちゃんから電報が!
ビックリ!兄ちゃんどこでお母ちゃんの手紙見たわけ?
なんであのめっちゃくちゃの宛名から、自分宛だと判断つくのー??
マジ、ゴッドブラザー!!兄ちゃんは神だった!!
しかし、しかーーし、それには切迫した窮状が訴えてあった。
『ロンドの家 一人 怖い 腹減った もう駄目 死ぬ』
し、死ぬっ???!!!!!
死ぬって?!あの兄ちゃんが?!あのクソ強い兄がっ??!!マジ??!!
軍でどんな目に遭ったのか、きっとちっこいから、いじめられたんだ!
もしかしたら、怖いムッキムキの男たちに囲まれて、……ああ!コミケブックのような想像しか出ない!!
あんな事とか、こんな事とか、………グフフ……されたかもしれない……
兄ちゃん、お兄ちゃん、ケツは大丈夫か?!だから行くなって言ったのに。
なんて………ヤバい……フフッグフフ……
ハッ!!!
チンチンもぎ取られてたらどうしよう。
いいわ、そん時は姉妹でいいじゃん!
あたし、どんな姿になってもオッケーよ、お姉ちゃん!
ああ……なんてこった、やっぱり神なんていない。
だからあんなに必死で訴えかけてたんだ。
なのに、なのに、お母ちゃんは!
「まあ!サトミちゃんやっぱり生きてたのね!
まあ、まあ、ちゃんとお家にいるのね?まあ!良かったわ。
サトミちゃんなら大丈夫よ!まあまあ、あらあら、良かったわ。
うん、大丈夫、サトミちゃんは大丈夫!お母ちゃん、ホッとしたわ。
今日はお祝いの肉じゃがよ!おっショーユ、おっショーユ!ウフフ」
で、終わっちまったよ、お兄ちゃん。
きっとお父ちゃんなら何かもっと気の利いた事言うかもしれないと、夜まで悶々と待って電報見せたけど。肝心のお父ちゃんは、
「おっ、そうか生きてたか。そうか家か。了解了解。
頑張って生きろー」
で、酒飲んで終わっちゃったよ。
ニクジャガは美味かったけどさ。
あの親にして、この発言は予想通りではあるけど、ねえちょっと、様子見に行かなきゃ!とか思わないわけ?そう言うと。
「ハッハッハ、様子見て何するんだー?
家まで帰れたって事は、心配いらないって事だぞー?
うん、そうだな、そんなに心配ならミサト行ってこい。
お前この間マフィア一つ潰しただろう?いやー、あれまずかったよなあ。
うん、だから行ってこい、レイカは俺が守るから大丈夫だ!」
「まあ、やだ、あなたカッコイイ!んんん、愛してるう!」
だってさ!!
オヤジは爽やかな顔してほざきやがるし、お母ちゃんは相変わらず、あなたカッコイイから成長しないし。
あー!!もー!!!
レイカレイカって、お父ちゃんはお母ちゃんしか視界に無い。
か弱い少女ひとり旅に出ろって?はあ?
マジか!あたしまだ14だよ?!同級生は、みんなお父ちゃんお母ちゃんに守られてるよ?
何でうちの親は子供を守ってくれないんだよお!心配しないんだよお!!
「クソ親父!お母ちゃんのおっぱいに埋もれて死ね!」
足下のワラクズ、バンと蹴った。
昨日は一晩中、キーッと腹立って寝付けなくてさ、今日は朝早く家飛び出してちょっとは心配させたいと思ったわけ。
子供のはかない抵抗なわけ、わけよ〜
そんなワケだけど、こう言う結果は望んでないわ。
「なんで?なんでこうなるのよ。
あいつら子供をなんだと思ってんのよーーーーー!!」
ミサトが家のドアを開けるなり叫ぶ。
「ホワイ?!マジデスカー!
オゥーマイゴッド、神なんていない、じゃん!!」
部屋はガランとして、なにも無い。なにも、なーーーーにもきれいさっぱり無い。
いや、荷物は一部ある。
玄関先に、ポツンとミサトの荷物がバッグ3つに押し込んであって、横に傘とショーユが一本。
上に日本語の手紙と、サトミちゃんへとボイスレコーダーが置いてあった。
『ハーイ!わたしのアイするミサトちゃん。
ラブリーサトミちゃんをよろしくね。
サトミちゃんはだいじょうぶ!ミサトちゃんもイイこだからだいじょうぶよ!
お父ちゃんとお母ちゃんは、ちょっとほかにごようがあるので、きえまーす!
そのうちロンドにかえるとおもうから、きなが〜にまっててね。
おしょうゆ1ぽん、あ、げ、る!
こぼしちゃいやん』
プルプル震える手で、床にバシンと投げつけた。
「はああああああ???????
なっにがこぼしちゃいやんだ!大丈夫、じゃ、ねええええ!!!
可愛い盛りの子供放り出しますか!ああそうですか!!
地獄に落ちろ!!!クソ親ども!!」
ハッとして、居間の一角の自分の部屋に走る。
カーテンで仕切られたそこには、小さな棚にずらっと並んでいたうっすい本が!!!
無い!!
「ああああああ!!!あたしのコレクションが!爺ちゃんに買ってきて貰ったコミケコレクション!
キラキラケツ友が!!ダンショーニッポンケツ巡りが!フルコンプしてたのに、全部なくなってるうううう!!
探しに!ダストボックス探しに行かなくちゃ!」
メモがポツンと貼ってある。
恐る恐る居間を振り返ると、妙に暑いと思ったら暖炉にいっぱい灰が積もってる。
バッとメモを見た。
『もやしちゃった。リセットして、あたらしいせいかつにLet’s enjoy!』
「ぎゃああああああああああ!!!」
アパートにミサトの叫びがこだまする。
彼女は、見事に親に逃げられたのだった。




