17、アタッカーを護衛に来ました
その日の午後、郵便局の会議室で話し合いが始まった。
話し合いは、ファースト4人とセカンドの3人、そして郵便局側はサトミとガイドと局長だ。
サトミは彼らの作戦内容をじっと聞いて、特に発言をしない。
説明は、首を痛そうに顔を歪めるギルティが勤めた。
「えー、以上、要約するとこちらに協力を願うことは……
我々の目標としているテロリストが、た……ブ…ブラッドリーさ…さんを狙ってくると考えられるため、特に一人となる配送?荒野渡りなどの町の行き来の時に護衛する。します。
それは他の方も同じような被害を受けないために、同様に護衛する。します。
えー、こちらの都合なので、被害が出ないように、させて貰う。貰わせて貰いえーと、普通に喋っていいすか〜?」
書いているものを読むだけなのに、なんでこうわかりにくいのか。
デッドが横向いて舌打ち、ため息付いた。
「ほんっと役立たずな奴。カス。」
「なにいっ!」
「 うるせえ!! 」
思わず、サトミが一喝して口を塞いだ。
チラリと見ると、ガイドと局長が目を丸くしている。仕方ない、もう諦めた。
「隊長〜俺、慣れないっすよ。」
情けない声でギルティがぼやく。
なんでこいつにやらせるんだと、眉をひそめてデッドにアゴで指した。
「俺は今、お前らの隊長じゃねえ。デッド、交代しろ。
あと、俺らの仕事のサイクルの情報は?」
「先ほど事務の方に聞きました。
護衛は車でやりますが、お仲間さんいっそのこと同乗しますかい?」
デッドの提案に、サトミがガイドを見る。
ガイドは軽く手を振り、大きく息をついて腕を組んだ。
「いや、俺達は俺達で通常業務をさせて貰う。
その、逃げてるテロリストは仲間がいるのかね?」
「これから仲間を増やす公算が高い。我々は二人一組で、車で後ろを追うことにしている。
目障りだろうけど、確保するしばらくの間我慢していただきたい」
「デリー行きと3局周りだろ?少なすぎないか?この人数?」
デッドが、サトミを見てひょいと肩を上げる。
「まあ、実際、隊長に護衛なんて必要ないんで。
俺らがやるのは、目標の確保だけなので、これで十分なんすよ。
あっ、ミス?ミセス?、えーと局長?
補填分回しますから、ガソリン使わせて貰います。
あと、この部屋もしくは別室、一部屋お借りします」
ミスと言われて、局長がポッと赤い顔になる。
「ええ、この部屋自由に使って構わないわ。でも、24時間は困るわね。
ここは唯一この町でも現金を扱うわ、だから夜間はセンサーを起動させてるのよ」
「では、敷地内にテント張っていいですか?」
デッドの提案に、我慢していたサトミがブッと吹き出した。
「敷地にテント??テントだって??ハハッ!ハハハハハ!マジか!クックック……
車で追いかけるとか、馬追うロバかよ!ヒャハッハハハハハ!!あー、おもろい。」
サトミがたまらず笑い出す。デッドがようやく笑った彼を見て、ニイッと微笑んだ。
「ヒヒッ、面白いっすか?」
サトミがため息をついて、人差し指を小さく回す。
「俺にハッパかけるな、やり方はいつものようにやれ。
お前ら俺のうわさ流すのは限定的にしろ。怨み持つような奴がどれだけいるか俺も見当付かねえ。」
「イエス、サトミ。ご心配なく。
とは言え、すでにこの辺じゃ有名ですぜ?ロンドの半殺し野郎w」
ククッとデッドが笑う。
「うるせえ、忘れろ。あと、ガソリンの無駄だ。目立てばいいってもんじゃねえ。
道は動かねえんだ、ポイントポイントに常駐しろ。それでいい。
人を増やせ、生け捕りは殺すより数倍労力が必要だ。俺は一般に来てそれが良くわかった。
あと…あれはどうした、あいつが今トップだろ?」
チラリとデッドがガイドを見たのに気がつき、コンコンと局長がテーブルを叩いた。
どうも、自分たちがいるので喋りにくいのか、話が進まない気がする。
「あたしたち外に出るわ。サトミ、決まったこと伝えて頂戴。
彼らの出入りは許可しますけど、最低人員で、安全策は取って頂戴ね。
こちらへの要望を聞いて、対応はあらためて話し合いましょう。
ガイド、話があるから部屋に来て。」
「わかった、じゃあな、サトミ。平常業務以外の要求があるなら呼んでくれ。」
「わかった。ゴメンな、ガイド。」
「いや」ポンと、サトミの肩を叩いてガイドが部屋を出る。
パタンとドアを閉めた瞬間、中からガタンと一斉に立ち上がる音がした。
「総隊長に、敬礼!」ザンッ!
ドアを振り向き、ガイドが苦笑いで肩をひょいと上げる。
「すげ、マジで隊長かよ。ハハッ」
ちょっと、入隊したことの無い彼にはわからない世界だ。
シャツを直して、思わず背筋が伸びた。
そろって敬礼する彼らに、サトミが立ち上がり敬礼で返した。
ああ、ほんとに俺って戻っちまったんだなあと、気持ちが落ちてるのに、この高揚感はなんだろう。
諦めて、ニッと笑い口を開いた。
「久しぶりだな、どうも俺は抜けられないらしい。
だが、しばらく正式に軍に戻る気は無い。ここに出向という形で収まった。
半端な状況だが、俺はまだガキだ。そこは汲んでくれ。」
デッドがギルティに目線を寄せる。隊の総意は隊長職に任せたい。
ギルティが、苦い顔で口を開いた。
「あーボスの命令だからな、仕方ねえ。てめえの好きにしろ。」
セカンド副隊長のトレバーが、ギルティの姿に大きくため息をついた。
ああ、こいつ駄目だ、やっぱ使えねえ。15万発くらい、いつかぶん殴りたい。
自分たちは、出来れば今は、サトミをそっとしていたいのだ。
この人はこの小さな身体ですべてを背負って、少し疲れたからリタイヤしたいと思ったのだ。
それは、ごく真っ当な事だと思う。
なのに、今回はボスの意向もあるので声をかけるしか無かった。
だからこそ、みんな礼を尽くしたいというのに。なのに、このボケナス野郎はわかってない。
仕方ない。隊長のサポートとして、前に一歩出て再度敬礼した。
「承知しております。我々一同、まったく構いません。
今回は、手をおかけして申し訳ないと思っております。」
サトミがニッと笑う。
ちっとも変わりないその姿に、一同がホッとした。
「よし、座れ。話を聞く。この部屋はカメラ、盗聴器無しだ。
俺も今回はお前らに近いスタンスに戻る。仮だが隊長と思っていい。
ムカつくがボスには後で連絡を入れる。」
サトミが座ると、一同が座る。
横でギルティが舌を打ったが、まあ、面白く無いのはわかる。
「ジンはどうした。」
「ジンは殺しが無ければ面白くねえと、別動隊作って他の作戦に向かいました。
一応本隊はこちらなので、クランクから定時連絡は入ってます。」
「わかった。で、目標はどこにいる。目標の人員の数は?調べは付いているか?
向こうでは誰が捕まったんだ。ドジ踏みやがった奴の名はわかっているか?」
サトミが質問をたたみ込む。やっと情報を伝える機会が来て、皆がホッとする。
デッドが、ガレットに逃げられたときの状況と、彼らが潜伏していると思われる現在地、そして地元の情報屋から彼らが探りを入れている人物の特徴を簡単に伝える。
「アーガイルか、もういないだろうな。
しかし、刀持ちとか、そんな物持ってる奴が他にいる訳ねえじゃん。」
「それがですねえ、アーガイルにいたらしいんすよ。まだ情報はそこまでなんですけど。」
サトミの動きが、はたと止まった。
あれ?いるって事は、それ親父じゃねえの?
まさか??
「そいつ、おっさん?」
「まだ、接触してないので、あとで確認取ります。ご親族ならいいですねえ」
サラッと言うデッドに、サトミが怪訝な目で見る。
それに気がつき、思わず目をそらした。
「てめえのそう言う素直な態度は信用できねえ。
俺が里心ついて帰還を拒むと思ってやがるだろ。」
「い〜え〜!そんなこと…なあ、トレバー。」
「気持ち悪い目で見んな、虫唾が走る。」
突然同意を求められて、ヘッと横を向く。
デッドが腹いせに、ドカッと横からトレバーの足を蹴った。
「いって!」
「デッド、俺はな、除隊が却下された。と言うことは、戻るときが来たら戻るって事だ。
俺は、正規の手段で抜けられる時を待つ。
まあ……さ、俺は、一般に降りて自分のことが良くわかった。
お前ら、異常な奴らに囲まれたかわいそうな普通のガキってスタンスが、もろくも崩れはてた。はぁ…………」
サトミが、ため息交じりで首を振る。
シンとする仲間にふと視線をやると、皆がポカンと見てた。
「隊長……、普通のガキだと思ってたんすね〜」
「いや〜普通のガキは部隊の隊長なんて出来やしませんぜ?」
ああああ、ほんっとにムカつく。
何で俺はこいつらの上なんだ?下だろ?普通下!
くっそー、物陰でプルプル震えてればよかった。
「んー、もうその話はいい。
アタッカーの護衛は奴がこちらに動く前からはじめろ。ここは国境に近い、増援頼めばすぐにやってくる」
「いつも通り、ドローン使います。ポイント4カ所で待機するくらいでいいっすかね。」
「よし。アタッカーは玄人だ、みんな自分たちで乗り越えるスキルを持っている。
だが俺の面は割れてない、つまりアタッカー、馬に乗ってる奴、誰でも襲われる可能性があるという事だ。
奴らの動画、写真を撮れ、情報を残せ。襲ってくる奴すべてだ。いざというとき脅しのネタに出来る。」
「普通の盗賊でも?ですか?」
ニイッとサトミが隊長の顔で笑う。
「それが普通の盗賊か、それとも奴らなのか、それはこちらが決めることだ。
こちらがそうだと言ったらそうなのさ。
奴らが善良なメレテ人をスパイだと言い張るようにな。
捕まえればこっちに切り札のカードが増える。
アルケーのクソどもに、カス引かせて思い知らせてやるのさ。キシシシ……」
ああ…普通のティーンにはこんな邪悪な奴いないよなーと、皆がなんとなく思う。
「お前ら拠点はどうなってる?」
「今日中に設置完了します。
隊長には副官をこちらへ置こうかと思いますがいかがでしょうか?」
「俺は日中ほとんどここにいない。帰るのは昼休みか夕方だ。
必要だと思うなら私服で来い。移動は馬だ。
巣が出来たら帰りに寄る。今日の5時に案内に来い。それまでに準備しろ。」
「イエス、隊長!それでは動きます!」
敬礼をする一同に、敬礼で返す。
椅子にかけてため息をつき、部屋を出る部下を見送りながら、思い出してデッドを呼び止めた。
「ああ…そうだ、デッド。ヘマして捕まった奴の名を聞いてなかったな。」
デッドが、ああと口を開く。
「デビッド・ロス、コードネーム『エアー』だそうですよ。
ボスが絶対死なせるなって言うんですよね、階級はほどほど高いらしいんですが。」
サトミが、ガタンと立ち上がった。
「エアー…だって?」
「ええ、ご存じですか?彼が伝えてきた詳細は後ほど……」
知っているさ、十分なほどに。
彼がいたから成功できたんだ、あのクーデターは。
彼がいたから、今の大統領は生きているんだ。
そうか、そう言う事かよ、ボス。
俺に、奴を救えというのか、言うんだな。
「詳細か……あの人のことだ、掴んだ情報はどうでも良くねえ事は確かだ。
よし、キャンプに立ち寄った時に詳細を聞こう。準備を急げ。」
「イエス、総隊」
デッドが敬礼すると、部屋をあとにする。
サトミは一人、残って腕を組み思いをはせていた。
なんで、あんたほどの奴が捕まった?
なんで、それほどギリギリの場所に足を踏み入れるんだ。
“ 情報で、戦後のパワーバランスを保つのが私たちの仕事だ ”
そう言って別れたあんたの言葉は、俺にはあんたの終わりが見えなかった。
危うさの中で生きながら、そこで無いと生きている気がしない。
いや……それでもいい。
生きろ。
絶対に生きて帰れ。
俺が、俺が助ける!




