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16、タナトスの新人

文句ブツブツつぶやくギルティを乗せて、2台で分乗して町へ向かう。

彼らはセカンド、先に着いた隊長ギルティと副隊長トレバー、それに班長1人、雑用のために新人3人だ。


トレバーはロンドには何回か来ているので、以前利用したシロイ亭で昼を取ることにした。

表通りに車を止めようとすると、軍用車とトラックが先に停まっている。


「あれ?あれ、ファーストじゃないっすかね。先にメシ食ってんのか。」


「マジかよ、ふざけやがって。」


裏の空き地に車を止めて中に入ると、顔なじみのファーストは和気あいあいと店の婆さんと話をしている。

婆さんが、2班の面々を見てあら!とデッドに声をかけた。


「まあ!デッドちゃん、サトミちゃんのお友達がまたいらっしゃったわ。」


「あ、いいえマダム。向こうはサトミちゃんのお友達じゃないので。」


「あら、そうなの?」


「はい、ほぼ知らない奴らです。」


カチンときたギルティーが、牙を見せた。


「だっ……」パッと横から彼の口を押さえ、トレバーが口に指を立てる。


「隊長静かに。まあまあまあ、みんな、すわれ。ここの飯は美味いぞ。だが酒は控えろ。」


「イエス!」


ガタガタ椅子をかき集めて、一つのテーブルにみっちり座る。

隣のファーストは2つのテーブルに陣取っている。

ギルティがチッと舌打ち、周りの客を見回すと、みんなスッと視線を避けた。


ファーストも、今回はサトミに迷惑かけないよう配慮してオリーブの戦闘服で、なんだか普通の部隊のようで気持ちがゆるむ。

他の客から離れて、端っこの席を軍人で占領して、皆一斉に注文する。

婆さんが手慣れてさっさとメモに書いていくと、ごゆっくりとカウンターに戻っていった。


「くそー首痛え…」


ギルティが、怠そうにギプスを外す。中は湿布を一枚貼っているだけだ。

目が覚めるとじわじわ意識がはっきりするごとに腹立って、昔使ったギプスをはめて重傷アピールしたが、サトミは華麗にスルーだった。


「あのガキ、いつか殺す」


「ヒヒッ!彼に蹴られてよく死ななかったよなー、お前マジでゾンビかよ。」


後ろでデッドがヒヒッと笑う。


「アンデッドとか言えよ。俺は丈夫だけが取り柄なんだよ。」


「まあだから、お前隊長になれたんじゃね?」


「はあ?セカンドのトップは俺が有能だからに決まってるだろ?」


デッドが、隣のホークにヒソヒソ話す。

二人でヒヒッと笑って、チラリとギルティを見た。


「てめえ〜〜、文句あるなら……!!」


パンッと隣のトレバーがまた彼の口を塞いだ。


「シッ!隊長、一般の方にご迷惑ですぜ。首痛いならじっとして、喋らなくていいですから。」


「いてて……お、おう、わかった。」


部下に心配されて、ちょっと嬉しい。ギルティが、うんうんとうなずいた。


「よし、エリック、イアソン、午後はお前たちで拠点の場所探せ。

条件は郵便局周辺、1週間の契約だ、大きめの空き屋がいい。

金はこのカードを使え、一応口止めプラスして多めに前金ですませるんだ。出るときは勝手に出ると伝えろ。デッド!」


いいか?とトレバーが手を上げる。隣のテーブルのデッドが手を上げ了解の合図を返した。

エリックがプリペイドカードを受け取る。

いくら入っているのか、きっと大きな金額だろう。

いっそ持ち逃げできたら……なんて甘い考えがふとよぎった。


「了解しました」


彼らはまだタナトスに入って半年ほどなので拠点地探しをするのは初めてだ、少し緊張していると、デッドが仲間の一人に声をかけた。


「ライン、付いててやれ。とんでもねえ廃屋キープされても迷惑だ。

確保したらジョークに連絡しろ。ウィルはマッスルの買い出し手伝え。」


「わかった、よろしくな、お二人さん。」


「「はい!よろしくお願いします。」」


ラインの笑顔にホッと胸をなで下ろす。

デッドはカードをじっと見るエリックに視線をやり、ラインに手で合図した。


“逃げるようなら殺せ”


“了解”



注文した食事が来て、なるほどの美味さに思わずがっつく。

特にエリックは難民上がりなので、何食っても美味い。


「美味いっすね!ははっ、軍の食事と大違いだ。

それにしても、辞める前ちょっと作戦で顔を合わせたことしか無かったのに、名前を覚えて頂いてたんでビックリしました。」


ああ、と、トレバーがフライドチキン食べながらうなずく。


「あいつはなー、だから舐めるとひでえ目に遭うんだ。

あいつが隊に入った頃、色々あったんだ。ほんと色々……」(遠い目)


「やっぱ舐めますよね。俺も実際見るまであれが隊長だったって、ちょっと信じられなかったし。」


デッド達ファーストがジロリと視線を送る。

それに気づかず、エリックは気軽に話を続ける。トレバーが、少し懐かしそうに返事を返した。


「うちの隊は昔はごろつきの集まりだったからなー、可愛い子犬のテリアが来たら何考えるかわかりそうなこった。テリアと思ったら実はジャガーだったけどな。

奴らのおかげであいつには変な寝癖出来るし、……色々……あったわ、うん。」


「やーめろ、食うとき思い出したくねえ。」


隣のテーブルのマッスルがカンカンとスプーンで皿を叩く。

トレバーが、わかったと手を上げた。


「……寝癖って、あの穴だらけのドアのことですか?何だろうって思ってましたけど。」


「色々な。まあ、素行がひどく悪かったのはどんどん消えて、残った俺達、何人かはハゲ作ったな。ヒヒッ」


「ハゲ?」


ガタン!マッスルが椅子を引き、エリックに拳を見せる。


「貴様、少し黙れ。」


エリックが青ざめて緊張する。

立ち上がろうとして、トレバーが必要ないと制した。


「ハハッ、悪い悪い。なあ、エリック、お前もあいつをチビって呼んでみりゃ経験できることだ」


イアソンが、少しうつむいて、思い切って話を切り出した。


「……でも、この隊って、抜けられないってマジだったんですね。」


皆が思わずシンとする。

デッドが、オレンジジュース飲みながら椅子を引いて足を組んだ。


「さあな、その話は戦中の事だ。

入れ替え無いと、この隊、爺さんばかりになっちまうさ。心配するな。」


エリックとイアソンが、顔を見合わせてホッとする。

彼らはサトミがリタイヤアタック中に入ったので、少し運の悪いタイミングだ。


トレバーとデッドが、視線を合わせて首を小さく振る。

彼らの中ではわかっているのだ、こいつらは駄目だと。


タナトスは裏の特殊部隊だ。

スカウトは目立った技術を持つ者に、金をちらつかせてスカウトする。

もちろん技術も問われるが、タナトスに心身共に弱い奴はいらない。

サトミがトップだった頃は部隊編入前に最終の面通しを実施して、判断力の遅い奴や考えの緩い奴ははじいていた。

ジンは、もちろんそんな物しない。必要ないという。

弱い奴は死ぬだけだと。


サトミが辞めたあと作戦中死者が相次ぎ、部隊の人員増強が大きな問題になった。

だが、今は戦後だ。

多くは故郷に帰り、腕のいい奴はフリーになってしまう。


ボスは部隊を再編成し、入隊の基準を下げ、隊の構成をセカンドで育ててファーストで鍛えるとか言い出した。

だが、タナトスは秘匿部隊だ。

ポンと入れて、駄目だったと元の部隊へ返せない。


だが彼らは人を育てるなんてスキルが無い。

しかもファーストの隊長はジンだ。

だから、セカンドからファーストに移動になると厳しい作戦が多いので、移動後の死亡率は格段に跳ね上がる。


人材の質の低下の負担は、古参隊員にはストレスになっている。

黒い戦闘服を着るべきでは無い隊員に、彼らは至極冷たかった。



黙々と食べるもう一人の新人に、トレバーが質問した。


「ウィル、お前なんでこの隊に入ったんだ?」


ウィルが、ペロリとスプーンを舐める。

ニッと笑って「金」と呟く。


やっぱりな答えに、ふうんとため息付いてトレバーがコーラを飲んだ。


「と、思うでしょ?

俺の目的は……この隊で上に上ってボス殺すことッす。」


ずけずけとものをいうさまに、デッドがチラリとウィルの横顔を見る。

トレバーが身を乗り出して、へえと興味を示した。


「一般のお前がなんでボス知ってたんだ?」


ウィルが冷たい視線をぐるりと巡らす。


「そりゃあ……終戦時の混乱の中、議員だったオヤジ殺されたからっすよ。あんたらに。」


その言葉に、一瞬静かになった一同の中から、やがて小さく笑いが漏れた。


ククックックク

クックック…ヒッヒッヒ……


プップックックック……


「面白えなあ、デッドよ。」


「だなあ、トレバー。

もしかして、上に上がって俺達の全滅も考えてんの?敵討ちか〜楽しいなあ…ヒヒッヒッヒ……」


不気味な笑いに包まれて、ウィルが唇を噛んでうつむく。


「わかってるさ、俺はまだここでは新人でしかない。

でも、サトミは言ったんだ。俺がこれから何になるかは俺次第だと。

それはきっと、食う方か、食われる方か、なんだと思う。

でも俺は、何になりたいのか最近わからなくなってしまった。

俺は食う方になりたいと、なるべきだと思っていたのに。」


向かいのトレバーが、指で来いと合図する。

殴られるの覚悟で、立ち上がって彼の元に行った。


バーン!


背中を叩かれ、頭をぐしゃぐしゃに撫でられる。

ウィルが戸惑っていると、皆が笑った。


「ハハッ!まあ頑張れ新人、仇討ち歓迎だ!ハッハッハ!

あと、サトミって呼ぶな、総隊長だ。サトミって呼べるのはここで最低3年生き残ってからだ。


みんな、新人の未来に乾杯!」


「乾杯!」


水のコップやジュースのコップ、コーヒーのカップをガチャンと合わせると、みんな一気に飲み干した。


「「 おかわり! 」」


「はーい!」


その日の昼過ぎ、シロイ亭は随分盛況だった。


どこにも新人はいるもので。

まあ新人と言っても、彼らはそれなりに長けた兵隊なのですが。

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