15、何かが始まる
ため息付いてロンドに向かう。
なんとなくイヤな予感がしながら、郵便局に着いたらやっぱり来てた。
郵便局の向かいの駐車場に、第一師団の軍用車が2台。
「うわ~、マジか、こんなとこに押しかけてやがる。
あいつらの嫌がらせか、ボスの強請かよ。帰りたくねえ~」
郵便局の手前で、ベンを思わず止める。
「はらへった~」
「だよな~」
ぼやくベンが振り向き、サトミがどうしようかゲートをじーっと見てると、後ろから戸別配送終わって帰ってくるリッターが声をかけた。
「サトミ~、どした?あれ?軍が来てるな。」
「あー、家に帰りてえ。」
「まあ、気持ちはわかるけどさ、話聞いてから考えてみれば?」
「いや、話は聞いてんだ、行きに会ったから。殺しとけば良かった。」
「は?」
「何でもねえ……そうだ、昼飯。昼飯のハンバーガー買ってくる。」
「ダーメだろ!先に荷物降ろして行けよ。決まりだろ?
迎えに来てんなら、断ればいいじゃねえか。」
「あーーーー、きっと迎えじゃないんだ。でも会いたくねえ~
リッターたちに、迷惑かけることになったらゴメンな。」
「オーライ、仲間だろ、気にするな。」
リッターがクスッと笑って手を上げ先を行く。
諦めて、リッターのあとを追ってゲートをくぐった。
ザッと、ゲート前で3人の兵がサトミに敬礼する。
「うおっ、スゲー、ビックリした。」
リッターが驚いて苦笑いすると、サトミが渋い顔で手で払う。
さすがに黒い戦闘服では無く、一般兵の着ているオリーブの戦闘服だ。
オリーブでも一色では無く、良く見ると迷彩が入っている。
兵が周りを見回し、馬繋ぎ場の影に入った。
サトミが荷受け場で荷物を降ろして、ノートにサインする。
「サトミ~、なんか大変なことになっちゃってるじゃん?」
「あー、ゴメン、迷惑かける。」
荷受けの彼女たちが、苦笑する。
ベンを馬繋ぎ場へ連れて行くと、先ほどの一人がバケツを持ち、他の二人と敬礼して立っていた。
手伝いたいのだろう。まあいいやとサトミがため息を付く。
「あー、ウィル、井戸はそこだ。エリックはそこの小屋から飼料。イアソン、鞍からバック降ろすの手伝え。」
「イエス!」兵たちがサッと動き出す。
事務所の窓からリッターとキャミーが並んで見ながら、ハアッと息を吐いた。
「テキパキしてるわねえ。」
「人を使い慣れてんだよなー、俺は昼飯買いに行ってくるわ。」
リッターが、カバンを置いてドアに手をかける。
「あっ、あたしエッグサンドお願い。」
「了解、サトミー!お前いつものテリヤキー?俺買ってくるぜー!」
「あー、ポテトとソーセージもよろしく!」
サトミが手を上げ返事する。
気軽に呼ぶのが気に入らないのだろう。
兵の1人がこちらをジロリと睨み、リッターはにっこり微笑み返しながら小さく呟いた。
「こっち睨むなよ、クソったれ」
局長室の方からゾロゾロと兵がエクスプレス事務所の方に歩いて行くのが見える。
いつもとちょっと違う日常が、始まりかけていた。
その頃、ダンクとセシリーが、並んで帰ってきた。
彼女は3局周りからの帰り。
途中でダンクと会って、一緒にお昼のソーセージサンド買ってきて、焼きたてのいい香りによだれをゴクンと飲み込む。
早く帰って、ソーセージが暖かいうちにバターを挟みたい。
軽快にナイトを軽く走らせていると、ふと郵便局の駐車場にある軍の車に目が行った。
「ひ!」
彼女が思わず馬を止め、辺りをキョロキョロ見回す。
「どしたの?セシリーちゃん。」
「奴らよ!正規軍の奴ら!きっとあたいを捕まえに来たんだわ!
だって、アジト守るときいっぱい兵隊殺したもん!」
「違うよ~、きっとサトミに用があるんだよ。大丈夫、俺が!付いてるから!俺が君を守るさ!」
フフッ、俺カッコイイ?
「ダンク!代わるのよ!」
「え?うわぁっ!」
ドンッとダンクが落とされて、横からセシリーが乗り移ってきた。
ナイトには3局分の荷物が載っている、彼女なりに考えたんだろう。
ヒヒーーン!
ダンクの馬、エリザベスが驚いていななくと、セシリーが一気に元来た方向へと走らせる。
ダンクが呆然とそれを見送って、思わず声を上げた。
「えええええええ??!!俺の馬ーーーー!!ど、どろぼーーーーー!!」
ダンクが半泣きで、郵便局に駆け込んだ。
「リッターーー!!お前の妹に馬盗られたよおお!!俺の、俺の大事なエリザベスがぁ!!」
ぐすんぐすん泣いて事務所に入ると、ずいっと兵隊が立っていてビクンと凍り付いた。
大丈夫と思っていても、ダンクは脱走兵上がりだ。兵隊見るとゾッとする。
サトミが首を振って、彼らに手を振った。
「ギルティ、お前ら外に出ろ、迷惑だ。話は午後から聞く、メシ食ってこい。」
「そうは言っても、ここで1班と合流予定なんすよねえ。迷惑結構じゃないすか~?
見てくださいよ、俺の首。痛くて回らねえンすよ。この首のギプスは誰のせいなんすかねえ。」
ギルティーが、首を痛そうにギプスを見せる。
サトミは見ない振りで、いつものテリヤキバーガーにぱくりと食いついた。
「転んだの俺のせいにすんな」
「はあ~~??????俺死ぬかと思ったんすけどおおお!!」
「はぁ、殺しとけば良かった」フンとサトミがそっぽ向く。
ギルティの顔が真っ赤になって、トレバーが彼の肩を叩いてドアへと背中を押した。
「まあ、まあ、隊長、総隊がメシ食って来いって仰るんですから行きやしょうぜ。
エリック、1班に町で合流と連絡しろ。」
「はっ!」
ぞろぞろとギルティたちが、サトミに敬礼して部屋を出る。
バーガー口に押し込んで、リッターが立ち上がった。
「俺、家に行ってくる。ダンクの馬、持ってくるから。
一応大丈夫って話してみるけど、そのままセシリーは休ませるかもしれねえ」
「ごめんな、リッター。
セシリーには、また好きなだけプリンセス抱っこしてやるからって、言っといてくれ。」
「おう、気にするな。抱っこは喜ぶと思うぜ。じゃあな。」
リッターを見送り、サトミがしょんぼり座った。
「はああああ…………」
ため息付いて、モソモソとハンバーガーを食べる。
なんか美味しくない。ちっとも美味くない。
「なあなあ、何はじまんの?」
ダンクがようやく落ち着いて、コーヒー入れながら聞いてくる。
「何をどうしたいんだろうなあ……もうのんびり暮らしてるからさ、作戦行動とかピンと来ねえし。
カンも戻るか自信ねえし、俺もう隠居してえ……」
「隠居ねえ……15で隠居ねえ……無理だろ。バリバリの現役前の年じゃん。
機関銃の銃口に弾撃ち返す奴が自信ねえとか、どの口が言ってんだよ。」
「俺はもう、100年分くらい働いたんだ。ほっといて欲しいんだわ」
「はは、お前も色々大変なんだなあ。」
「って事で、俺は午後の戸別配送抜けるので、よろしく。
あと話し合い、ガイドかキャミーも入った方がいいかな?」
「そうね、あたしよりガイドがいいと思うわ。
あたしは戸別に回るから、……昼の3局周りは誰だっけ?」
「リッターかな?一般から応援1人頼もう、セシリーも抜けてるし。」
と、そこにいきなりドアが開いた。
「あたしは抜けないわよ!正規軍が何よ!
あたしが!このくらいで!へこたれてたまるもんですか!王子!お姫様抱っこ!」
「え~、今かよ」
「今よ!あたいをビックリさせたお詫びでしょ!」
「へいへい」
面倒くさそうに立ち上がって彼女を見ると、目が真っ赤で涙の跡がある。
ああ、怖い思いさせてしまった。ゴメンな。
「ほら、くるくる~」
抱っこして、狭い事務所の中をくるくる回っていると、次第に彼女の顔が明るくなってサトミの首に抱きついてくる。
嬉しそうにキャアキャアと声を上げて、サトミもホッとして多めに回った。
「キャッ!王子!王子ったら!もう!もう!やだ、怖ーい!」
「ゴメンな、セシリー」
「うん、うん、いいの、王子。あたいも愛してる。」
ガタン、呆然と見ていたダンクがショックで椅子からずり落ちた。
はたと、サトミが動きを止める。ダンクの存在忘れてた。
サトミがセシリーを降ろして、ダンクを抱っこする。
「高い高ーい!」
「うわーーーーん!お前なんか嫌いだーー!」
「ほーら、くるくる~」
くるくる回っていると、ドアが開いてリッターとガイドが帰ってきた。
「お前ら、何やってんの?」
呆れて2人の目が据わっている。
サトミがダンクをくるくる回しながら、抱っこしたままドスンと椅子に座った。
「くそうっ!」ダンクがサトミのポテトを3本取って食う。
「スキンシップ、だよなー」
「ふう~ん」
仲良し2人組は、時々意味不明だった。




