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14、エサ役(やく)お願いしまーす

月曜早朝の朝、快晴。


気持ちのいい風が吹き、久々に冴え渡るほどの青空が広がっている。

ビッグベンが軽快に走り、デリーまでの道のりを、休み無しで中程まで走ってきた。

気持ちいいから休みたくないらしい。

ベンは走るのが大好きだ。

サトミがふと、腰を上げ前方に目をこらす。

道路脇に、片方のサイドミラーが無い、デカいオフロードカーが止まっている。

ツンツン頭の男が一人、ドアにカッコつけてもたれ、こちらを見ると手を上げた。


ああ、なんだギルティか。

誰か車の故障で困ってるのかと思った。


ドカッドカッドカッドカッ


ギルティの車がどんどん近づいてくる。


そして手を上げるギルティの横を……、 一気に通り過ぎた。



「   ええええええええええーーーーーー!!!!!  」



ギルティの悲鳴に似た声がドップラー効果で変化して聞こえてどんどん遠ざかる。


「ちょっ!ちょっと!待って!待って!!うっそおおお!!総隊!総隊長ーー!!」


ギルティが、慌てて車に飛び乗ると、窓から叫びながら追いかけてきた。


「たいちょおおおおおーーーーー!!まってえええええーーーー!!」



サトミの脳裏に、いやーな記憶がよみがえる。

入隊直後の慣らしで各部隊回っているとき、何度も脱走しかけてあいつの情けない声に同情して戻ったことが。


「あー、あの声だよなー。ちっとも変わらねえ、泣きそうな声。ほんとクソ。」


何も言わないサトミに、ベンがチラリと見て自分で速度を落とし、歩き始める。

ちょっと振り向いて、何も言わないのでスッと道路脇の井戸のある休憩ポイントに入っていった。


「何で!何で止まらねえんだよお!つか、スピード上げただろ?!子供か!」


道路脇に車を止めて、奴が降りてきた。

無言で無視のサトミが馬を降りて、井戸の蓋の上から備え付けの木の桶を取り出し井戸水をくみ上げる。

最近この井戸、水位が上がって使えるようになったので助かっている。

バシャンと桶に入れると匂いを嗅ぎ、ちょっと舐めてそれからベンにやった。


「相変わらず用心深い奴だなー。なあ隊長、話あんだけど。」


サトミはあさってを向き、鞍のバッグから携帯食と水のボトルを取ってモグモグタイムだ。

まあ、そう言うサトミの態度にも慣れているので、ギルティは勝手に話を始めた。


「あー、勝手に喋りますよ〜。実は〜先日、アルケーと極秘の取引があったんですよ。

まあ、途中で頓挫とんざしてるんすけど。

ほら、覚えてるでしょ?国内で暗殺やらかしてたアルケーの部隊。

隊長が国防大臣の息子って言うんなら使いようがあるって、一発殴って病院送りにした。」


ああ……あの殺さなかった奴か。

ひでえゲス野郎だったが、手加減して殴ったのに死にそうになりやがって、ショボい身体してたなあ。

あん時はヘリ呼んで面倒くさかったけど、生きてやがったか。


「隣国で捕まった情報部の奴と捕虜交換のハズだったんですけどね、逃げられちまって。

結局、取引失敗で情報部の奴は、その息子解放しないと銃殺って言ってきやがって〜。


まあ、運の悪い奴なんですが、ボスが妙に肩入れしてくるんすよねえ。

向こうが銃殺の期限切ってきやがって、今週中に捕まえて来いってボスが言うんですよ。

情報部の奴、どうしても助けたいらしくって〜」


はあ〜とため息付いて、横の木にもたれる。


「だから、何で俺に相談するんだよ、自分で捕まえろ。」


やっとサトミが口を開いた。

パッと明るい顔でギルティが頬を紅潮させる。


「それが転々と場所変えやがるので、なかなか足が付かないんですよ。

ただ、奴らも探してる奴がいるらしいんで。そいつエサに釣れたらなーと思って。」


「じゃあよ、エサぶら下げればいいだろ?」


ギルティが、にっこり笑って頭を下げた。


「ほんじゃ、エサ役お願いしま〜〜す」


「俺?!なんで!」


「恨まれてるらしいっすよ。まあ、聞くと全治半年とかで、わからないでもネエですがね。」


「えええ!!一発殴っただけで、半年い??!!俺、ちゃんと手加減したんだぞ?マジか?!

で?なんで俺を恨むんだよ?!一般人巻き込むな!」


ヒヒヒヒッとギルティが、イヤな笑いを浮かべる。


「一般人〜〜??誰が〜〜??ヒヒッ、出向決定急がせました〜〜

よって、本日付で軍への復帰状態となりますので!おっ帰りなさーい!!

クックック、ヒャーッハッハッハ!!」


このクソ野郎、余計なことしやがって……


「それで〜、相談なんですけど〜」


にっこり満面の微笑みで、パンと手を打ち揉み手した。

サトミがスッと身を落とす。


「貴様は死ね、俺は聞かなかったことにする。」


ヒュッと風を切る音がして、一瞬でサトミが視界から消えた。

空中でクルリと回転し、回し蹴りして彼の後頭部にヒットする。

ゴツッ!首に鈍い音がしてヒットした瞬間、微笑むギルティはぐるんと白目になって、そのまま昏倒した。

サトミが倒れた姿を振り返りもせず、目を丸くするベンに飛び乗る。

そのまま道に戻って……  逃げた。


わかっていたことなのに、なんでこいつから聞くとこうも心がざわめくのか。


「くそおおおおおおお!!!!」


軽く走りながら、ベンが時々ちらっと見る。

まあ、サトミはそう言う奴だから仕方ない。

無言でいつもの道を見ると、デリーに向けて一直線に走り始めた。





デリー郵便局に着くと、荷物を渡して荷物を受け取る郵便の入れ換え作業をする。

今日はデリーからの速達が妙に多い。

仕分けを見ると、国境近くのミルド宛てがロンドより多かった。


「なんだこれ、ミルドめっちゃ多いじゃん。あそこ、開発?開拓?始まってから人増えたんだよなあ。」


「まあ、開発って言ってもインフラ工事だけどね。

アルケーとの交易再開したら、この辺ももっと豊かになると思うわ。

終戦後らしく、平和を満喫してていいんじゃない?」


平和ねえ……


一般は明るい先の道を見てるのに、軍上層部は相変わらず戦争引きずってる。

あんな息子を利用している国防長官が相変わらずその席に居る時点で、アルケーも駄目だろ。

まあ、ボスも息子を殺し屋にして利用するクソ野郎だけどな。

つまり、この国も隣の国も、中身は何一つ変わりねえって事だ。


ベンに乗ってロンドに戻る。


途中のあの休憩所前も通ったが、ギルティの車は無かった。

やっぱりそうか……俺、なんで手加減したんだ。

頭カチ割れば良かった。


「あーあ」


最悪だ、最悪の気分だ。


タタタンッ!!タタタンッ!!


強盗が後ろから二人追ってきた。

まあ、サトミに向かってくる奴は珍しい。

サトミは「半殺し野郎」とあだ名付けられて、この辺の盗賊には恐怖の対象になっている。

恐らく盗賊の新人だろう。そう言うのか知らないけど。


「あー、なんて間の悪い連中だよ。」


避けながら、ため息付いて腰のサバイバルナイフで時々弾いて下を向く。


今日は色々やる気が起きねえ。

置きねえって事は、生かすか殺すか……普通、殺すだろ。

いやいやいや……そりゃガイドに怒られるわ。俺、まだ一般人のつもりだし。


サバイバルナイフを戻し、腰のスローイングナイフを一本前方に高く放る。

ベンを左に流し、背にある日本刀、雪雷せつらいを抜いて刃を返し、左から大きく振って落ちてきたナイフの柄の頭を峰で叩き、背後に撃ち込んだ。


タタ……ガーーーンッ!!


「うわぁ!」


一人の自動小銃の銃口にナイフが撃ち込まれ、弾みで落馬した。


「兄ちゃん!!」


もう一人が、馬を止めて戻って行き、兄に駆け寄る。

落馬した兄はナイフが刺さった銃口を見ると、息を呑んで悲鳴を上げている。


「兄ちゃん、もうやめよう」


つぶやくように声を漏らす弟が、兄を庇って間に立つ。

サトミが珍しく、止まって戻るとベンをぐるりと回した。


「てめえら、強盗やってねえで働け!」


「し……仕事…仕事首になったんだよぉ!」


「ミルド行け!インフラ工事始まってる!道でも作って自慢しろ!!」


弟が、はっと銃を落とす。

兄と顔を見合わせ、胸のシャツをギュッと握った。


「わかった!行ってみる!!」


力強い返答にフッと笑って、サトミが先を行く。

平和ってのはいい物だ。

戦時中なら、食いっぱぐれたら入隊しろだった。

人殺しより、道作る方が建設的だし自慢できるさ。


平和ってのは守る方が大変なんだよなあ。

銃は引き金引くだけで人が殺せる。その引き金を引かせないのは意外と難しい。

なあ、ミサト。お前は今、何やってんだ?花でも育てて、平和を満喫してるか?


妹の明るい声に、どこか胸苦しさを覚える。

人殺しになっちまった兄ちゃんを、どう思うんだろう。


それでも会いたい。


今は、ただ会いたい。






遠く離れて行くサトミを見送って、兄弟がナイフの刺さった銃を見て震え上がる。

弟が抜こうとするけど、ビクともしない。

ナイフは真っ直ぐ銃口に撃ち込まれてバレルが割れていた。


「こんな事できる奴が、世の中にはいるんだなあ……」


「偶然じゃないの?」


呆然とみていると、後ろから静かに車が来て横に止まった。

見ると軍用車で、中から見慣れたオリーブの戦闘服の軍人が降りてくる。


「やあ!珍しい物持ってるね。是非譲ってくれないかな?」


ニコニコ奇妙なほど笑いを浮かべた男が、ずいと顔を寄せてくる。

なんだか雰囲気が怖くて、兄弟は小さくなった。


「か、買ってくれるの?これ……使えないよ?」


「いいんだ、俺のコレクションにするから。どう?5000ドル(50万円)で。」


「5000?!5000で買ってくれるの?」


にっこり微笑むその顔は、タナトスのデッド、デッドエンドだった。


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