第6章
見てるこっちが恥ずかしくなってきた。おまえは何を言っているんだ。なぜ一人称がぼく、なのか。
しかし、学校では喋ってるのを見た記憶すらなかったが、今の話し声はよく通った綺麗な声だった。
「じゃあ、聴いてください。ただ泣きたくなるの」和木坂が拙いギターを鳴らし始める。
衝撃だった。
結局ギターは前奏だけで、歌に入るとアカペラだったが、声が、美しいなんてもんじゃなかった。音は微妙に外してた部分もあったが、異常な透明感と官能的な強弱のつけ方、そして何より、歌詞が生きている。どんなに上手くても心に響かない歌い手なんて腐るほどいるが、和木坂はその逆だった。
人の心に響かせるためだけに存在するような、何かを超えてしまったような声だった。
「ありがとう。みんな、どうだった?え、ほんとに?んふふ、嬉しいな」
この喋りだけ聞いてたら悪い意味で鳥肌ものだが、まあ歌の時点から鳥肌は収まらないままだし、いいだろう。許せた。
「ではでは、えーと……次は、カブトムシだよ」今回はギターは前奏すらなかった。
涙が出そうだった。天才という言葉では足りないと思った。人間として大事なものが欠落してしまった代わりに、それを哀れんだ創造主から声帯だけ授けられたような、そんな気さえする異端の歌声だった。
俺は悔しくもあった。俺がどうしても行けない世界の、頂点の、さらに上みたいな場所を、今まで最弱扱いしていた和木坂が飛び回っていたんだから。