第13章
今日は登校中だけで二回も殴り合いになった。朝からよく絡んでくるもんだ。とりあえず全員、謝るまで殴った。目覚めの悪い日だ。
教室の前、廊下に和木坂が立っていた。相変わらず妙な姿勢で。猫背だし、首が多少曲がっている。ただ、いつも席に張り付いてる印象しかなかったから気になった。
「おい和木坂」
「あ、あ、あ、お、おはよごじゅる」
「どうかしたのか」
「あ、あ、あの……」
俯いたかと思うと、和木坂は握りしめていたちらし紙を俺に差し出した。
「くれるのか」
「あ、あ、すいません」
走って逃げて行った。途中で盛大に転けていた。大丈夫なのか。骨折してても驚かない。
何やらわからんが俺は教室に入り、着席してくしゃくしゃのちらしを広げた。裏に鉛筆で何か書いてある。
周囲の「あいつ、滝本君にラブレターなんか……」「殺されるぞ」「ドラム缶に詰められるな」などという声が鬱陶しい。聞こえないように喋れ。
「昨日も一昨日も、お弁当ほんとにありがとう。せっかく滝本くんが優しくしてくれて、部活にまで誘ってくれたのに……ごめんなさい。
私は人前に出るのがすごく怖くて、考えただけでも体調が悪くなるんです。だから、誰もいないあの場所でいつも歌っていました。滝本くんが才能あるって言ってくれて、私ほんとにうれしかったです。
他人に優しくしてもらったのも高校に入って初めてでした。私は駄目人間でクズです。期待させてしまってごめんなさい。」