第12章
何故あいつが知ってたのか知らんが、俺は中学生まで勅使河原の姓を名乗っていた。祖父は勅使河原グループの会長で、父も取締役。まあ、俺は金持ちのボンボンという奴だった。
それで中二の時、重役にその家族も含めて乗っていた慰安旅行のバスが崖から落ちた。俺だけが学校行事のため、旅行には行かなかった。つまり、勅使河原一家で生き残ったのは俺一人だった。
遺産がどうとか面倒な話になったので、俺は親戚の中で一番ましな人間性の滝本家に相談した。結局会社は手放し、税金や何やで残ったのは二十億と少し。傾いていたらしい滝本の事業も助けた。
一年と少し滝本家のお世話になり、高校に入ってから俺は独立した。金もあるし、何より一人が気楽だ。まあ二十億というのは簡単に使い切ってしまえる額だから、できるだけ質素に暮らしている。俺が稼いだ金でもないし。
このマンションも一人には広い。使ってない部屋が二つもある。俺は弁当をレンジにぶち込んだ。洗濯機から洗えた物を出して室内に干した。この部屋も、物干しと荷物置きにしか使ってない。
もう少し狭くて安い部屋でもいいんだろうが、ここからの眺めはなかなか気に入っている。