第11章
「みんな、ありがとね。今日のサプライズゲストは、まうたんと同じクラスの男の子、勅使河原竜くんでしたっ」
「おまえ、普通に話せたのか?」
「えへへ、もちろんだよー。あ、でも、ぼくまうたんじゃないからね」
「なんで俺の昔の名字を知ってる?」
「え?それはね、まう……あ、だめ。まうたんが言うの嫌がってるもん」
「じゃあおまえは誰なんだよ」
「ぼくは、まうたんがなりたい和木坂真宇なの。だから名前は……あれ、やっぱり真宇でいいのかな?わかんない。えへへ」
俺も意味がわからない上、俺は笑えない。本格的に頭がおかしい気がしてきた。聞いた限りでは、こいつの中に二人いるってことらしいが。
「いつも歌ってるのは、おまえのほうか?」
「んーとね、歌だけは一緒に歌ってるんだ。たまに、まうたん一人でも歌ってるよ」
「俺は、おまえと音楽がやりたい」
「ほんとー?嬉しいな。ぼく、楽器はあんまり上手じゃないから歌がいいなっ」
「それでいい。だから軽音部に入れ」
「あ……それはだめなんだ。ぼくはここにしか出て来れないから、外に出たらまうたん一人で歌わなきゃいけなくなっちゃう。まうたんかわいそう」
どうしたものか。無理にでも誘うか。
芸術の天才は狂人揃いと言うが、こんな面倒な奴と交渉することになるとは。
「じゃあ弁当、毎日やるから来いよ」
「え?お、お弁当?あ、ちょっと待って。まうたん呼んでみるね」
「まうたんって、ひょっとして昨日のやばい奴か?」
言ってみたが、聞こえていないようだ。俯いてぼそぼそ何か喋っている。と思ったら、頭を掻きむしり始めた。
「あ、あ、あ、あ」
「大丈夫か、おまえ」
「あ、あ、すいません」
「ちょっとは慣れたりしないのか、俺に」
「い、あ、あ、私、あの、軽音……やりたいけど、だめです、すいません」
「何故だ」
「ひ、人前とか無理です。見られるの、怖いです」
「ついさっき、俺がいても歌えただろ」
「むむ無理です。無理です。無理です」
「いや、だからさっき……まあいいや。昨日の弁当、食ったか」
「あ、あ、あ、ありがと」
「今日もやるよ。ほら」
「は、あ、あ、あ」
「俺もたまに来るから、またその時は歌、聴かせてくれ」ぐわんぐわん。
もう暗いし、とりあえず俺は帰った。何か釈然としない気分。
神社の外に出ると、やはりまだ明るかった。