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第4話 龍虎ならぬ、龍龍です。

「いやあ、でも驚いた……まさか父さん母さんが。」

ユユウ、いや千晶はカウンターでストローから少し口を離して話す。


「まったく、世間は狭いもんだよな!」

マンジーク、いや須藤一見(すどうかずみ)は厨房で食器を磨きながら目を丸くしている。


「まあ、一見のリアルを知った時、同じ大学だったから。ユユウもどっか近くの所かなとは思ってたけどね。」

エヴリ、いや掛川沙蘭(かけがわさらん)は今し方出た客の座っていた席を掃除しながら言う。


彼らのリアルを知ったのは、偶然だった。

リアルの名前を明かさないことをはじめ、リアルには不干渉であることがあのゲームにおける基本的なマナーだったため、当然お互いに明かすこともない。


しかし、まさか。

「まあ街中で『よっ、ユユウ!』なんて声かけるんだから、そりゃあビビっちゃうよ。」

千晶は飲み物を少し飲み、言う。


「じゃあ、どう声かけりゃよかった? 『きゃ〜♡ユユウちゃ〜ん!』て黄色い声援の方がよかったか?」

「うん、気持ち悪い!」

ふざけ出した一見に、沙蘭は突っ込みを入れる。


「痛っい! ……すいませんサラさ〜ん? そこ腫れてるから、もっと腫れ物に触るように扱ってもらわないと」

「湿布貼っときゃ、治るでしょっと!」

「痛いって! ……痛い! 潰れたあ!」

「大丈夫、死にはしない!」

沙蘭は一見に、相変わらず容赦ない。


「あはは……あのう、ずっと気になってたんですけど、お二人はどういう関係で?」

「そりゃあ、夫婦に決まってるでしょ?」

「いや、あっちの世界でじゃなくて」

「うん、あっちの世界でじゃなくて。」

「え、じゃなくて!?」

「うん、じゃなくて。」

「マジッすか!?」

「マジッすよ。」

「really?」

「really。」

思わず、千晶は何度も聞き返してしまった。


いや待て。

二人とも大学生だよな?

「まあ、今時学生結婚で」

「しかも喫茶店夫婦経営なんて珍しいかな? ……痛い……」

「もう、いつまで痛がってんの?」

「いや、そこまでは言ってないです。」

千晶は弁明するが、その実図星だった。


と、そこへ。

「いらっしゃいました〜。」

「いらっしゃ〜い! 綺選ちゃん!」

「え!?」

「……げっ。」

上機嫌で、綺選が来店するが。

千晶を見つけるや、顔を曇らす。


「げっとは何だ、げっとは! ここはリン」

「ああん!?」

「……凪原、さん。なんへもないれす。」

危うくアバター名が出かかった千晶に、綺選は容赦なく詰め寄る。


千晶はおののき、尻尾を巻く。

「何だ、ユユウ? だらしないぞ! ここは男だったら、ガツンと……痛い!」

「はい、あんたはガツンと痛がってて……ゆっくりしててね、綺選ちゃん!」

「はーい!」


またちょっかいを出してきた一見に、沙蘭は一撃を見舞い。


それにより、綺選はまた上機嫌になる。

つくづく、女とは恐ろしいと思う千晶であった。


いや、千晶だけではないか。

さておき。

「えっと……ごめん! 俺はそろそろ」

「ああん!?」

「ええ!?」


千晶は、そこまで嫌われているのならもうお暇してしまえと帰ろうとするが。


何故か、綺選はそこでも突っかかる。

「え〜っとね、まあちょっとユユウに嫌味を言いたいだけで、べっ別に嫌ってるわけじゃないんだからね! ……っていうことだよね、綺選ちゃん?」

「……いや、デレは全然ないですけどね。」

「あ、そうですか……」


帰ろうとして帰すまいとしている時点で、既にツンデレ喫茶のテンプレだろ。


という言葉を千晶は飲み込み。

「おほん。……沙蘭さん、キャラメルラテ下さい♡……さあて、あんたはひとまずそこに座れ。」

「は、はい!」


もはや、口調は完全に鬼嫁のそれである。

ひとまず、千晶は言われるがままに綺選の目の前の席に座る。


「まず……あんた、職業(ロール)は何にするつもり?」

「……へ?」

「へじゃねえだろ、はいだろ!」

「は、はい!」

「……まさか、職業も知らないとかじゃないよね?」

「い、いや……」

知らない訳ではない。


既に、あの世界の両親である、当店の店主夫婦に聞いたからである。

「え、ええと……そう! 戦士、技師、魔術師(ヒーラー)、職人……とかから一つ選び出すやつだよな!」

「うん、まあ知ってるみたいだね。……で、何にするの?」

「……それは。」

千晶は、言葉に詰まる。


「何? まさか、2レベル生に昇格ってのにまだ決めてないの!?」

「い、いや……俺は」

千晶はまた、言葉に詰まる。


しかし、意を決して。

「俺は……戦士になる!」

「戦士……あんたが?」

「ほうら、やっぱ言われた!」


千晶は凹む。

だから言いたくなかったのだ。

「いや、でも……俺は絶対技師(わざし)目指すから! 誰が何と言おうと!」

「ふうん……技師? 技師(ぎし)じゃなくて?」

「あっ……」


千晶は口を手で覆う。

戦士というつもりが、思わず言ってしまった。

「まあ、知ってるよ。セケレさん? あんたが専属()()をやってる人、最近やけに活躍してるもんね?」

「そ、そっか……知ってたら話は早い! 俺は」

技師(ぎし)舐めてんの!?」

「ひいっ! ごめんなさい!」

「謝ったってことは、舐めてんだああん?」

「あっ……」


千晶は、今度は冷や汗を盛大にかく。

いや、ここはビシッと言わねば。


千晶は自分を振るい立たせ、いっそ綺選を真正面から見据える。

「舐めてない! ただ、このゲームのシステムを変えたいと思っているだけだ! この、装備やポテンシャルとかの要素だけで、戦う前から結果の見えたあのゲームを!」

「でも、戦士を目指すのは本当なんだよね? それを隠れ蓑に本当はその技師(わざし)を目指すつもりで。それって、戦士も舐めてるって言わないの?」

「……分かった。なら、俺と勝負しろ!」

「……上等じゃん。」


千晶と綺選は、よっこらせと言わんばかりにゆらゆら立ち上がる。


「はい、待って! ユユウ、綺選ちゃんはあんたより今レベル上なんだよ? それに、綺選ちゃんの職業は戦士じゃない」

「いいの、沙蘭さん! あたしが技師(ぎし)だからこそ、そのプライドにかけてこいつを打ち負かす。……それに、あたしも追い越せないようでこんな舐めた口聞いてるとか、それはダサいでしょ?」

「言ってくれたな……よし、いざ勝負!」

「オッケー!」

「ちょっと、あんたたち」

ライド(ライド)!」

がたがたと音がした。


沙蘭は綺選を、一見は千晶を、それぞれ支える。

「まったく……若いねえ。」

「そんな歳違わないでしょ? ……でも。何で綺選ちゃんて、千晶にあんなきついのかねえ?」

「そういえば……」


二人は、それぞれに抱える綺選、千晶の寝顔を見つつ首をかしげる。





「えい!」

「ぐがあ!」

同じ頃、平和盟約加盟国領域外にて。


ゼルオッソ王女・ヒーグリーの乗機・ヒグルゼルが星遊民の騎士たちを退けていく。


「王女様!」

「ここは私に任せよ! お前たちは」

「!? 王女様、危ない!」

「何!?」

ヒーグリーは従者に、思い切り突き飛ばされる。


彼女がその意味を理解したのは、モニター越しに従者が斬られ、葬り去られる場面を見た時だった。


「あっ……何!? 一体何が」

「アブソリュート・パニッシュメント!」

「王女様!」

「くっ!」


ヒーグリーは、またも庇われる。

その目の先に見えるものは。


ジェットラグーン一一のはずではあるが。

何か妙である。


「は、半獣……だと!?」

ヒーグリーは恐れおののく。


上半身こそこれまでのジェットラグーンであるが、下半身は四つ足のモンスターが融合し、こちらもまた堅牢な鎧に覆われている。


いや、鎧のみではない。

その四つ足全てに、スラスタが装備されている。


それは、腰部のスラスタと合わせて六基。

平凡な機体の、実に三倍。


それらが、圧倒的な推進力を生み出していた。

さらに、一機のみでも充分な脅威となるそれは、一機のみではなく。


二機、三機……もはや一目では数え切れないほど数だった。

「さあて……撃ちまくりなさい! アブソリュート・パニッシュメント!」


遠くから、星遊民の半獣型ジェットラグーンに指示が出される。


指示を受けた半獣型ジェットラグーンは、六基のスラスタを同じ方向に向ける。


たちまち一点に収束された推進力は、まさに脅威となって平和盟約連合軍に多数迫る。

「王女様、お下がりを……ぐああ!」

「皆!」


後方を守るべく、連合軍機は次々と星遊民機に立ち塞がるが。


見たこともない急加速により、立ち塞がった瞬間から獲物と成り下がっていく。

「ほほう、これは……予想以上の戦果だ。……さあ、連合軍のひよっこ共を蹴散らしなされ、ソルドグ殿!」

「言われるまでもない!」


この技の指示を出すのは。

言うまでもなくあの男・ブラウドルドである。


再び整列した星遊民機は、急加速を経て敵軍へと突撃を仕掛ける。

「アブソリュート・パニッシュメント!」

「ぐあああ!」


なすすべなく、連合軍はもはや壊滅状態である。

「王女様! このままでは壊滅どころではありません、本国へお戻り下さい!」

「何を……言っている! 私は最後まで」

「アブソリュート・パニッシュメント!」

「ここは私が! 早く!」

「皆!」


従者の乗機が、迫り来る敵機群に僚機共々破れかぶれの突撃を仕掛け。


瞬く間に辺り一面が爆発により光り輝くのを、ヒーグリーはただ、見ているしかなかった。

「……撤退せよ! 生存機は周辺に負傷機ないし、負傷者がいれば連れていけ! 急ぐぞ!」

「は、ははあ!」


後ろ髪を引かれる思いは抑え、どうにか彼女は撤退の命令を出した。




「派手にやれましたね! 族長!」

「まさか我らがこんな隠し玉を持っているなんて、奴ら思いもしなかったでしょうな!」

「このまま、やつらの本国まで追いますか?」

「うむ、鎮まれ! まだ戦いは終わっておらぬぞ!」


すっかり上機嫌な部下たちに、族長ソルドグは釘を刺す。

「ええ〜しっかし! このまま俺たち奴らとやり合えるでしょ?」

「浮かれるな! 必殺技の連射はHPを大きく消耗する。それに、奴らがこちらの油断を誘い戻ってくることもあり得る。周りを警戒せよ!」

「ええ……へ〜い!」


部下たちは不承不承といった調子で、警戒にあたる。

そうして、しばらく経った頃。

「よし、引き返して来る気配はない……デスペナルティを負った敵兵の回収に当たれ! 一人残らず捕らえろ!」

「はっ!」

「全く……全滅には失敗したか。ブラウドルドよ。」


ソルドグは指示を出しつつ、通信でブラウドルドに嫌味を送る。

「それはすみませぬ。……しかし、今見える範囲だけでも多くの敵兵を捕虜にし、戦力を削ぐことには成功しました。後は奴らがどう次の手を練って来るか、楽しみですねふふふ……」


ブラウドルドは不敵に笑う。

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