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第3話 反撃ならぬ、返撃です。

「ううん……どうしたものか……」

机上の自分で書いた図を見て、ユユウは首をひねる。


「おいおい……頼むぜ、先生!」

その横ではセケレが、心配そうに見ている。


「先生って言わないでください先輩……あーあもう! ダメだ、突破口が見つからない!」

ユユウは尚更、頭を抱える。


オッテングル機とセケレ機の装備などの差、および本人の実力差、全て図にしてみたが。

「分かったのは、本当にセケレ先輩の機体の武装がショボいってことぐらいか〜、ああ本当使えないな!」

「いや、どさくさに紛れてディスるな!」


ユユウはただ嘆くばかりだが、そんなことでは無論解決しない。


気を取直して。

「結局、またしがみつくしかないかな?」

「いや、ダメだと思います。基本、一度やった手は通じないのが定石ですし。ちゃんと対策されちゃうと思いますよ。」

「……ダメか〜!」


セケレもユユウも、頭を抱える。

しかし。

「とはいえ、装備のすごさとかにこだわっていてはどうにもならないですね……前向きに検討しましょう!」

「うん、そうだな……って! それを最初からやって欲しかった!」


ユユウはようやく、頭を上げる。





「これより、Aブロック再戦を始めます! 両選手、準備はよろしいか?」

「ふん、問題ない!」

「行けます!」


他の全ブロック一回戦が完了したのち。

セケレとオッテングルの、再戦が行われた。

「では……始め!」


「行くぞ、オッテングル!」

「粋がるな!」

セケレとオッテングルは、各々の乗機のスラスタを吹かし。


戦いは再開される。

「先手必勝だ!」


オッテングル機は、セケレ機へと素早く迫る。

「くっ……えい!」


それを見たセケレは乗機を一旦静止させ、ギリギリまでオッテングル機を引き寄せた上で回避に成功する。

「危なかったー!」

「油断するな!」


しかし、避けられたオッテングル機はすぐさま自分のスピードを必死に制御しつつ、Uターンする。

「うわ! 危ないな本当」

「逃げてばかりか!」


オッテングル機はまたもUターンし、セケレ機はそれを避ける。

「何だあれ? まるでドッジボールだな!」


客席ではユーバをはじめ、観客たちが呆れ返る。

「セケレ先輩……!」


ユユウは控え室の窓から、戦いを見ていた。



「うーん……やっぱり、しがみつくしかないんじゃないか? 奴がしがみつかれる対策をしてくるとしたら、何がある?」

時は少し戻り、先ほどの作戦会議の時。


「そうですね……僕だったら」




「オッテングル! お前がどういう対策しているかは分かっているんだ! さあ来い!」

「ほう……では見せてやろう! お前の先ほどの手はもう通じないということを!」

オッテングルは、言いつつ自らの乗機に施された()()()を作動させる。


それは一一

「うおお!」

「くっ、また避けるか!」

オッテングル機の突撃を、セケレ機がかろうじて躱す。


「危ないな……あのトゲトゲ!」

セケレが乗機のモニター越しに睨む敵機は、多数のトゲを展開した。


なるほど、これならば確かに敵にしがみつかれることはない。もしそんなことをすれば、間違いなく自殺行為である。


いや、それだけではない。

「あのトゲトゲしい状態で体当たりされたら……ひとたまりもないぞ!」


セケレは懸念する。

といっても、実はそこまで驚いたわけではない。

というのも。

「さあてユユウ先生よ、まるっきり言い当てちまったな……こりゃあ、あれをやらないとだめか。」


すでにユユウはオッテングルの作戦を見切っていたからである。セケレが懸念するのは、むしろユユウが打ち立てた対オッテングル作戦一一かなり無茶なものらしい一一である。




「トゲトゲで突撃か……でも再戦までそんなに時間ないぞ? いくらオッテングルでも、そんな短時間で武装を改造するなんて一一」

「油断はできません、先輩! 話によるとあのオッテングルさんはかなりの女たらし……腕のいい女技師の一人や二人、抱き込んでてもおかしくありませんよ!」


再び、先ほどの作戦会議にて。

さらりとユユウは、オッテングルをディスる。

「ははは……中々言うねえ。」


これにはセケレも、少々苦笑いである。

さておき。

「まあいいか。……じゃあユユウさんよ、俺はそのオッテングルによる俺対策に対する対策一一()()()()()()()をどうやればいい?」

「……できるとしたら、同じ手を使うしかありませんね。」

「……へ? ……いやいや! 無理だって、オッテングルはともかく、俺にはそんな女技師」

「いや、先輩がモテないことは知ってます! 」

「ああ、よか……じゃない! なんかユユウ君よ、さっきから3レベル生に大してディスりすぎてないかい?」


さすがにセケレも、苦言を呈し始めるが。

「先輩、剣は何本ありますか?」

「いや聞けよ!」

「いいですから、何本です?」

「……はあ、お前って奴は。」


ユユウはもはや、作戦の話以外には興味がないらしい。

セケレも、確かにそれは一理あると思い直し。

「まあ、4本ぐらいは。予備のも含めてだがな。」

「……うん、できます! 先輩、勝てるか引き分けるか負けるかもしれません!」

「おお! ……ん? ておい! そりゃ勝負はその三択しかないやないかーい!」


セケレは、思わずズッコケる。

さておき。

「いやいや、他にもボロ負けか圧勝というのがあります! 圧勝はまあないにしても……ボロ負けは回避できるんですからいいでしょ!」

「はあ……そこは勝てるって言わないのか?」

「先輩! そんな保証できません! これは下克上なんですよ?」


ユユウはまた、遠慮なく現実を突きつける。

セケレは、頭を掻きながらため息を漏らす。

「……分かったよ。じゃあ先生? 剣4本ぐらいで何ができる?」

「……はい。装備では同じことができなくとも、技では同じことができます!」

「技?」

「はい。剣4本で、オッテングル機のトゲトゲを再現します!」

「な……おいおい! 剣4本同時に持てってか?」


セケレは、今回もびっくりする。

しかし、ユユウは当たり前じゃないかとばかり平然と続ける。

「はい! 但し、それだけだとトゲの本数が足りないので……」

「足りないので?」


セケレの問いかけに、ユユウはにっこりと笑う。



「いつまで逃げ回れるかな? セケレよ!」

オッテングルは、遊びはもう無用とばかり。

セケレ機を何度も、しつこく攻める。


しかし、今度も躱されてしまう。

いや、今度は躱しただけではない。

「!? なんだ、何を血迷った?」


オッテングルが驚いたことに。

セケレ機は4本の剣を取り出し、両手にそれぞれ人差し指と中指の間、中指と薬指の間に各1本ずつ保持する。


と、そのまま。

セケレ機は避けた時の反動を利用し、スラスタを吹かして急加速する。


「おや? 今度は全力で逃げるか!」

速さを保ったままでオッテングル機も、一時はセケレ機の方向とは逆方向だったが、急旋回で追う。


「ふん、逃げ切れると……ん?」

オッテングルがまた驚いたことに。


逃げようとしていると思っていたセケレ機は、なんとオッテングル機と同じようにそのまま急旋回し、あろうことかオッテングル機に突っ込んでくる。


「ほほう……もはや抵抗は諦めたか。いいだろう、望み通り!」

「うおお!」

オッテングル機はトドメの一撃とばかり、これまでで最速でセケレ機に迫る。


しかし、セケレ機は。

なんとスピンをかけながら突っ込んでくる。


「ユユウ先生! こうなったらヤケクソだよな!」

セケレはユユウとの作戦会議を思い出す。


「スピンをかけて……それで本当に勝てるのか?」

「……無理かもしれません。」

「おい!」

「保証できないって言いましたよね? とにかくこの技を繰り出さないと、前には進めませんよ?」

「……奴が、トゲを出して来るとは限らないぞ?」

セケレは、この場で言わない方がいいと思いつつも、そもそもの前提を言う。


「大丈夫! 例え他の手を出して来ても、これで対処するしかないですって!」

「いや、対処できる、じゃなくて!? ……もう、分かった! 時間もないしな。」

セケレは、ついに降参する。


ユユウはそれを見てニヤリと笑い。

そして。

「ありがとうございます! ……では、やりませう! 技名は」




「スピニング、ファンキースパイク!!」

「ふん、技名のつもりか!」

セケレ機とオッテングル機は、間合を詰めていく。

そして。


「うおお!!」

「ぐああ!」

セケレ機の剣が、オッテングル機のトゲを削り。

同時にオッテングル機のトゲも、セケレ機の剣を削る。


そして二人はすれ違い、落ちていく。

そう、相打ちに一一


「……ふん、まさかここまでやるとはなセケレ!」

ならなかった。


オッテングル機は落ちつつあるセケレ機に、さして急ぐこともなく迫る。


そして。

「さあ、トドメだ!」

そうして、トドメは刺された。





「ぐああ!」

「ふん、アホか! 貴重な剣を俺が、全部鈍らにするわけないだろ?」

オッテングル機が、セケレ機によって。


オッテングル機がゆっくりとセケレ機に剣を振るおうとした瞬間、その隙にセケレ機が取ってあった最後の剣を持ってスラスタを吹かし、スピンをかけながらオッテングル機を斬り払った。


けたたましく、ブザーが会場に鳴り響く。

「そこまで! 勝者、セケレ!」

突然のことに会場中が一瞬静まり返るが、

すぐに勝者を称える歓声が響き渡る。




「まったく……まさか本当に勝てるとは思わなかったぜ! いやーありがとうよユユウ先生!」

試合後。


とある場所に向かう道すがら、セケレはモンスドラグーン越しに、前を飛ぶユユウ機に向けて礼を言う。

「いいですよ、結局はスピニングファンキースパイクじゃ勝てなくて、緊急用の技で勝てたってだけなんですから。」


ユユウは少し拗ねたように言う。

「おいおい! 何にせよユユウの技で勝てたってのは事実だろ? 見たろ、あのオッテングルの吠え面よ!」

「あの技はセケレ先輩の実力と、運あってこそのものですよ! でも……悔しいので、また技作らせてもらってもいいですか?」

「えっ……? まじか! それは助かる。いやーありがたいなあ!」


思いがけないユユウからの提案に、セケレは喜ぶ。

「こんなんで終わるなんて、悔しいからってだけですよ! 次こそ、先輩を技だけで勝たせますから!」


そんなセケレをよそに、ユユウはまだ拗ねを声に滲ませる。

「そう拗ねなさんな! ほら、見ろよ。……今日は俺の学院トーナメント一回戦突破と、()()のお祝いだろう?」


セケレとユユウは、ようやく目的の場所についた。

それは。

「きゃー、王女様ー!」

「ヒーグリー王女ー! またも非加盟国の加盟、おめでとうございます!」


先日国外へ、文字通りの遠征に来ていたヒーグリーの凱旋パレードであった。


「まあそうですね……改めまして、先輩ご勝利おめでとうございます!」

「ありがとう! いやー、何だか照れるなー!」

「……よっと、あれが王女様ですか!」

「おいこら、切り替え早すぎるぞ! ……ま、あのラーハ主席の姉君だからな。綺麗で強いお方よ!」

「ふーん……」

ユユウは、人混みの先を見る。


ヒーグリーは、戦車に乗せられた乗機から出て手を振っている。すると。

「平和盟約国民の皆よ! ご祝賀感謝する。この後もひたすら邁進したい、よろしく頼む!」

「おおお!!」


ヒーグリーが力強く演説し、会場はより一層沸き立つ。

「ヒーグリー王女、か……」


沸く会場をよそに、ユユウは自分でも何故かわからないが、ヒーグリーを見つめていた。


確かに綺麗だなとは思うが、別に好きというわけではない。なのに何故、こんなに見てしまうのか。


この時から既にユユウは、自分が彼女と共に過ごすことになる未来を見通していたのかもしれない。







「族長、客人です!」

平和盟約加盟国外領域では。

エンリ星遊民最高氏族・テンナウ族領星にて。


「ああ……待っていた。」

族長ソルドグは野原に佇み、待っていた。


その、客人を。

「お目通りいただきまして、このブラウドルド誠に有り難く存じます。ソルドグ殿。」

「ふん。……さて。また平和盟約に、非加盟国だった国が下ったと聞いた。分かるな? 今E世界は、平和盟約などという生温い湯で満たされようとしている!」


ソルドグは客人一一ブラウドルドに、強く訴える。

「そうなっては……あなた方星遊民やその他の非加盟国、及び我ら世界の終焉(センゲ)にとって、この上なくつまらぬ停滞の時代が訪れますな。」

「さよう……ならば、取り戻さねばなるまい! 我らがあの戦いの日々を。」

「勿論でございます。そのための力をお持ちするため、ここに来たのですから。」


ブラウドルドはソルドグに、不気味な笑みを返す。

「……して、本当なのだろうな? 我らが、あの平和盟約国すら凌駕できるとは。」

「ええ。……これをご覧ください。」


ブラウドルドは手にしたケースを開き、ソルドグに見せる。

「ふん……これは……!? おい、正気なのか!」

「私はいつも、正気いえ、本気ですが?」

「し、しかし……」

「ご心配なされるな。」


ブラウドルドのケースに入っていた設計図を見せられたソルドグは、後ずさりする程に驚く。


しかし、ブラウドルドは事も無げに、高らかに言う。

「私は技師(ぎし)にして、技師(わざし)ですから。」

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