第2話 3学年制ならぬ、3レベル制です。
「はあーあ-! こっちでも学校行かないといけないとは、なんか面倒くさいなあ……」
「ユユウ! 早くしないと遅刻だよ!」
「はいはい。」
ユユウは母親に促され、家を出る。
学院での生活には、まだ慣れない。
学院といっても、現実世界の学校とは同じ点より、違う点が多い。
「3学年ならぬ、3レベルね……」
まずは、上記の通り。
学年ではなく、レベルが上がっていく。
最初は1レベル目から始まり、2、3レベルへと上がっていく。しかし、これは学年ではないので、一定期間経過したら自動で上がることができる訳ではない。
そう、実力により上がることができる。
そして、入学も年に一度ではなく。
年中何回も募集しており、都度入学となっている。
「つまり、後輩に抜かれちゃう可能性もあるってことか……しかし逆に、先輩を抜くこともできるってことだよな……よおし!」
ユユウは活気づき、学院のある衛星へと乗機を急がせる。
「間に合った!」
ユユウは息も絶え絶えに、のそのそと学院に入る。
勿論乗機は、仕舞っている。
「遅いぞ! 遅刻ギリギリの重役出勤とは中々だな?」
「悪い悪い! これでも頑張って飛ばしてきたんだから大目に見てくれないかな?」
「……まあ、そこまで本気で怒ってたわけじゃねえよ。」
学院内でユユウを待っていたのは彼の友人・ユーバである。あの先輩の一件以来できた、E世界初めての友達だ。
「ほら、早く! ユユウが遅れてきたせいでこりゃ立見だな……」
「まじか! あっ、でも見えた!」
ユユウとユーバは、そのまま闘技上へとやってきた。
今日は、3レベル生トーナメント観戦の日だ。
「セケレ先輩は……スピード系かな? 結構いい所まで行けると思うぜ!」
「いやいや……オッテングル先輩も行けるだろ!」
ユーバはユユウの言葉に、熱弁で返す。
「ええ? そうかな……」
「そうだよ! ……お?」
「ん?」
言い合いを突如止めたユーバの目線の先を、ユユウも追うと。
「でもまあ……大本命には敵わねえよなあ?」
「そうだな……何せ。」
目線の先には、新たに会場入りしたあるプレーヤーが。
「学院主席・ラーハ第二王女様だもんな!」
たちまち会場中が沸く。
ゼルオッソ王国第二王女・ラーハの入場である。
ラーハもまた、沸く声援に手振りと笑顔で答える。
主席である彼女は、入ってきた時点でかなりの人目を引いていた。
「大人気だな……こりゃ、見に来た甲斐があるな!」
ユユウも、会場の雰囲気につられていた。
と、その時。
「きゃ〜♡ ラーハ姫〜!」
ラーハへの黄色い声援は絶えないのだが、その中に聞き覚えのある声が。
「な、なぎ一一」
言いかけて、千晶一一ではない、ユユウは口をつぐむ。
E世界ではリアル名を出すことはタブーである。
気を取り直し。
「リ、リンネ! どっ、どうし一一」
「きゃ〜♡」
「ユユウ?」
「……いや、何でもない。ほら、あっち行こう。」
「ええ!? ちょ、せっかくいい席なのに!?」
戸惑うユーバを置き去りに、ユユウは場所を移すべくどんどん歩いて行ってしまう。
ユーバもしょうがねえなあとばかり、ユユウを追いかける。
さして親しくないとはいえ、リンネに気づかれなかったことは地味に傷つく。なので、なら気づかれないうちに場所を移そうとばかり、ユユウは移動したのである。
さておき。
「あ、こことかいいんじゃない?」
「ああ、悪くないな……まったく、にしてもお前が今さら席移動するなんて言うから立見席になっちゃったじゃないか!」
「ああ、悪い悪い。」
「む、適当な言い方!」
ユーバはさして声を荒げるでもないが、ユユウに文句を言う。と、その時。
「はい、ではこれより3レベル生トーナメントを行います! Aブロック一回戦出場者以外は、バトルフィールドをご退出ください!」
会場アナウンスが流れ、出場者以外はバトルフィールドを退出する。ラーハも該当しないので、退出するが。
その時は、その別れを惜しむ声援が多く流れた。
「姫一一!」
リンネもその一人だったことは、言うまでもない。
さておき。
「では、これより……Aブロック一回戦、セケレ対オッテングルの戦いを始めます!」
「おお……こりゃあ見物じゃねえか、ユユウ!」
「そうだな……セケレ先輩!」
「何言ってんだよ、オッテングル先輩だろ!」
ユユウとユーバは、推しの選手で争う。
「では……始め!」
号令がかかり、両選手は互いに乗機のスラスタを点火する。
たちまち二人とも爆発的な推進力を得て、斬り合いを開始する。
「ぐっ!」
「遅いぞ、セケレ!」
すれ違った両機のうち、オッテングル機は華麗に振り切るが、セケレ機はバランスを失い、地面を転がる。
「ほら見ろ! オッテングル先輩最強!」
「くっ……セケレ先輩!」
喜ぶユーバをよそに、ユユウはセケレに声援を送る。
しかし、会場の声援もオッテングルを応援するものが多く、ユユウの声はかき消されてしまう。
「くっ、ぐああ!」
「ははは、セケレ! 勝負にもなりそうにないな!」
セケレ機はオッテングル機の速さに翻弄され、飛ばされてはその先で待ち伏せされてはまた飛ばされの繰り返しである。
「よく見たら……装備がオッテングルさんの方がいいじゃねえか!」
ユユウは叫ぶ。
E世界大戦はまだ初心者の彼といえども、さすがに両機の動きや装備の華美さを比べれば一目瞭然の差がそこにはあった。
「あったり前よ! だから皆、いい技師を託ったり、金稼ぎに精を出していい装備を手に入れようとするんじゃないか!」
ユーバはユユウの言葉に、鼻息も荒く答える。
「なるほど……でもそれじゃ、やる前から勝負は決まっていたようなものじゃないか!?」
「まあそうだな……だから、番狂わせはあんまり起きないかな。」
「……それで面白いのかな?」
ユユウは頭を抱える。
しかし、ユーバは。
「そりゃあ確かに、レベル差や戦力差のせいだけで勝ったり負けたりするのは、全面的にいいとは言えないだろうよ。でも、そういうゲームなんだから仕方ないんじゃね?」
ユユウとは違い、そこまで疑問は持っていないようである。
「そっか、なあ……」
しかし、無論ユユウはそれでは納得しない。
改めて食い入るように戦いを見る。
状況は何も変わらず。
セケレはひたすら、オッテングルに翻弄され続けていた。
「先輩……」
ユユウは歯がゆい思いを噛み締める。
かつてセケレと戦った時。
あの時は、確かにユユウはセケレに負けたが、セケレは負けたはずのユユウを称えてくれた。
そう、ジェットラグーンに対しモンスドラグーンで抗い、必死に食らいついた姿を。
そうだ、ならセケレもそうしなければならない。
ユユウは意を決し、観客席からの声援の中叫ぶ。
「先輩! 何をひよっているんですか! あの時、セケレ先輩言ってくれましたよね? 俺結構いい筋してるって。なら、先輩も俺にそう言わせてくださいよ! 今の先輩、今にもやられそうで全然いい筋してないですよー! 格好悪い、いーや、ブース!」
「ちょ、ユユウ!?」
「いいんだよ、どうせ聞こえねえんだから!」
ユユウの叫び声に、ユーバは慌てる。
しかし、ユユウもやめない。
「悔しいでしょ! 俺にここまで言われて。なら、その悔しさ見せて見ろって話ですよーだー! 腰抜け、阿呆ー!」
周りの声援は大きく、とてもこの言葉が伝わったようには思えない。
しかし。
「うおおお!」
セケレは叫び、今にも自分に突っ込んでくる所であるオッテングル機に。
一かバチか、乗機でしがみつく。
「なっ……何!? くっ、離せ!」
「離して、たまるかああ!」
突然のことに驚き、オッテングルはセケレ機を振り落そうとするが。
セケレ機も負けじとばかり、オッテングル機により一層しがみつく。
「くう……ならばここで!」
オッテングルは、埒が明かないと見るや乗機の握る剣に光を纏わせる。
しかし。
「焦るなよ……今まで散々長いこと振り回してくれただろ!? だったら、何を今さら短期決戦を狙ってんだよ!」
「ぐっ!」
セケレ機はしがみつく体勢からスラスタを、オッテングル機のスラスタとは逆方向に吹かす。
「ぐおおお!」
「何を……小癪な!」
たちまち二機は、瞬く間に力比べの様相を呈する。
「さあ……必殺技を発動するんだろ!? して見ろよ、できるんならなあ!」
「ぐぐぐ、言われなくても!」
オッテングル機は剣を振るおうとするが。
完全に力比べとなっている今の状況では、とてもそんな余力はない。
「く……この私が、お前などに!」
と、その刹那。
「そこまで! Aブロック一回戦終了、引き分けとする! 再戦は全ブロック一回戦を完了してからとする!」
けたたましくブザーが鳴り、会場アナウンスがタイムアップを告げる。
「よ……よし! 伝わったか分からないけど、先輩ただではやられなかったぞ!」
「お、おいユユウ!」
ユユウはそのまま席を立ち、観客席の下へと続く階段へ急ぐ。
ユーバも追おうとするが。
「続いて……Bブロック一回戦! ラーハ対セレアを開始します!」
この会場アナウンスにより、思い留まった。
「さーて、セケレ先輩にはどう声をかけようかな……」
ユユウは、階段を降りて下層階に向かいつつ考えていた。
「しっかし先輩……俺のあの言葉が通じたのかな? ……ん? 待てよ。それってヤバいだろ!」
今さらながら、ユユウはセケレに放った言葉の数々を思い出して恥じていた。
奮起させるためとは言え、あんなことを。
そのことも踏まえると、どう言葉をかければいいのだろう。
そんな風に考えながら歩いていると。
「おおユユウ! 久しぶりだな!」
「セ……セケレ先輩!」
ユユウは少し縮み上がる。
目の前には乗機を降りたセケレが。
いつの間にか、控え室前に来ていた。
「セ、セケレ先輩……えっと」
「ああ心配すんなって! ……あの言葉なら聞こえてねえからよ!」
「あ、ああですよね……え!?」
ユユウはびっくり仰天である。
聞こえていたのか。
「いや、いいんだよ? そのおかげで、奮起できたんだからさ?」
「は、はあ……」
セケレは笑いながら肩を組んでくる。
その目が笑っていないことは、ユユウにも分かった。
「と、とにかく先輩! ぼ、僕が来ましたのはですね……その、先輩が勝てるようにしたいと思いまして……」
「……何!? それは本当か!」
「は、はい。」
驚くセケレをよそに、ユユウは落ち着きを取り戻す。
「いや……でもできんのかいユユウ君よ? 奴は、装備がまず上だし、主席ほどじゃないとはいえ力も」
「勝てます! 具体的な方法は分からないけど、必ず!」
ユユウは、自信満々な割に中身のないことを言う。
「いや、分からんのかい!」
セケレは突っ込む。
これが、技師ならぬ技師であるユユウの第一歩だった。