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第1話 入学式ならぬ、NEW GAMEの始まりです。

「はあ……入学式ってどこの世界でもまじ怠いな。」

ユユウは学院のある衛星から、モンスドラグーンで飛び立つ。


いよいよリンネの言っていた学院入学の日であり、ユユウはその用事によりこの衛星を訪れていたのだが。


思ったより長く続いたことに辟易し、終わるやさっさとこうして帰路についたというわけだ。

「確かレベルは、学院とか国とか……あとギルドから授かるって言ってたっけな? だけど……どうやってもらうのかわからないや。」

「分からないなら、聞けばいいんじゃないか?」

「う、うわあ!」


後ろから不意打ちのようにしてかけられた声に、ユユウは驚き、モンスドラグーンごと宙返りするようにして振り返る。


しかし、驚いてパニックになっていることも手伝い、コントロールが効かなくなってしまう。

「うわあああ! こ、コントロールがあ!」

「落ち着け! ……よし、しょうがねえな!」


声をかけてきたモンスドラグーン一一何やら鎧を着たような外装だが一一は、急スピードでユユウ機の背後に回り込むと、その腰にある飛膜翼のスラスターを噴射する。


しばらくそうやっているうち、どうにかユユウは落ち着きを取り戻す。

「はあ、はあ……大丈夫です、ありがとうございます。」

「そうかい? ……しっかし兄ちゃん、モンスドラグーンの扱いへったくそだなあ! いくら驚いたからって、今時初心者でもあんなことならないぜ?」

「あはは、すいません……って! 元はといえばあなたが!」


ユユウは思い出す。

元はといえば、このプレーヤーが驚かせたのではなかったか。

「あはは悪い悪い……まあ、俺たちは先輩後輩の関係なんだから、そのよしみで、な?」

「そういう問題じゃ……え? じゃああなた後輩!?」

「何でやねん!」


ユユウのセリフに、このプレーヤーはモンスドラグーンの腕で突っ込みを入れる。

「痛ー!」

「あのなあ、今日学院に入学したのはどこの誰だったかな? ついさっきのことも忘れたのか?」

「じょっ、冗談ですって、先輩!」


突っ込みだけでは飽き足らぬとばかり、今度はモンスドラグーンの腕で裸締めをかけてきたこのプレーヤー、もとい先輩に、ユユウは必死で弁明する。


「まあ、いいよ。改めまして、俺はセケレってんだ! よろしく!」

「あっ……はい、よろしくです。」

今度はまたモンスドラグーンで握手を求めてきたセケレに対し、ユユウは今度も戸惑いつつ握手する。


「あっ、先輩……その、モンスドラグーンかっこいいですね。なんか僕のよりゴツくて。」

ユユウは、セケレのモンスドラグーンを褒める。


さっき見た時から気になっていたが、こうして様子を伺っていればいるほど、やはり普通の機体とは違うようだ。


姿は、やはりモンスドラグーンの上から鎧を着たようなものになっている。


その他の違いは、普通の機体ではただの飛膜翼になっているだけの腰元の翼が、スラスターになっていることか。

「これはな……ジェットラグーンていうんだ。」

「ジェットラグーン……?」

「プレーヤーが鎧の中に乗り込んで、そこでモンスドラグーンを展開して操縦するロボットさ! ……そうだな、手合わせ願えるかい?」

「え!?」


ユユウは思いがけぬ提案に驚く。

「あ、ダメかな?」

「い、いえ……でも、いいんですか?」

「何だい、俺がやりたいって言ってるんだよ? 俺にいいんですかなんて聞かなくていい。それよりも、君はどうなんだい?」

「は、はい……是非お願いします。」

「……成立だな。」


すかさずユユウの手元のパネルに、トレーニングバトルの承諾画面が表示される。


ユユウがタップするのは、もちろん『YES』である。

「サンキュ……では、戦闘開始と洒落込もうぜい!」


承諾を見届けるや否や、セケレ機はユユウ機に迫る。

「うわおう!」


間抜けた声を出しながらも、ユユウはどうにか回避する。

腰のスラスタによる動きは非常に素早く、最初に手合わせしたリンネなど比にならない。


まあもっとも、そのリンネにすら苦戦し敗北したユユウには、やる前から勝ち目のある戦いとは思えなかったが。

「くっ、くそ!」

「へえ、躱せるとはね……大した反射神経だ! でも、逃げ回るだけじゃ」

「ぐう!」

「勝負にならないぜ!」


それでも尚避け続けるユユウに、セケレはスラスタによる加速を強める。


そのスピードたるや、さっき以上の脅威であることは言うまでもない。

「ぐあ!」

「やっぱりこれは躱しきれない……か。よし、これで終いだ!」


セケレは、乗機の剣に光を纏わせ、そのままユユウに猛スピードで迫る。

「次あれを喰らえば終わりか、でもとても避けられは……ん? そうか、なら!」

「終わりだ!」


セケレは、何やらぶつぶつと言うユユウをよそに、彼に止めを刺そうとする。


しかし、さっきまであれほど避けようとしていたユユウは、微動だにしない。

「何だ? 戦意喪失かい!」


セケレ機の剣がユユウに迫る。

この期に及んでユユウ機は、やはり微動だにしない。


何だ、せめて最後の悪あがきくらいしてくれれば一一

と、思ったその時。


突如、ユユウ機の姿が消える。

「何!? くっ、どこへ一一」

「先輩、ここですよ!」

「何? あっ!」


セケレは驚く。

ユユウ機は、セケレ機の背中に取り付いていた。


「中々やるじゃん。……だけど、いつまで保つかな!」

「そっちが倒れるまでですよ!」

「後輩のくせに生意気だぞ!」


セケレは言葉とは裏腹に、少し笑いを交えて叫ぶ。

「何ですか先輩? 随分楽しそうですね!」

「ああそういうお前も、ピンチには変わりないってのに随分楽しそうだな!」


互いに二人は軽口を叩き合う。

しかし、セケレの言葉の通り、スラスターによる加速のせいでユユウの身体にはこれまで彼が体感していなかったGがかかっている。


慣れているセケレにはともかくも、ユユウはしがみつくことで精一杯だ。


仕留めることは難しくない。

しかし。

「おお……すげえなあ!」

「は、はあ?」


まさにピンチの時にもかかわらず、ユユウ機はしがみつくセケレ機から上半身を起こし、周りを首を回して眺める。

「ずっと疑問に思ってました……どうしてプレイヤーたちは、無理矢理この世界に呼ばれたのにゲームをやめようとしないのかって。……こういうことだったんですね!」

「はあ……そうかい。だが少年、今は戦いと忘れてはないだろうね!?」


セケレの言葉に、ユユウはモンスドラグーンの右拳で自機の頭をコツンと叩く。やっちまったぜ、と言わんばかりだ。

「いやー! 素で忘れてました!」

「まったく……呆れて隙を突くのも忘れてたぞ! もういいや、さあいざ」

「ええ……一騎打ち!」


セケレ機はスピードを緩めず、ユユウ機をしがみつかせたまま持っている剣を光らせる。


これは、必殺技発動の証である。

ユユウ機も、同様に自分の剣を光らせる。

「行くぞ!」

「うりゃあ!」


勝負の、行方は一一



「いやあすまんすまん! 君が必死にしがみついてきたりしたから、こっちもつい本気になってしまって」

「まったく、出会った時といい、先輩はひどいですよ! おかげでみっともなく頭から地に刺さって、某犬◯家っぽくなっちゃったじゃないですか!」

「いやいや、だから謝ってるじゃないか、なあ? いやあ、本当にすまん!」

「はあ、もういいですよ!」


戦いは、ほぼ言うまでもなくと言うべきか。

セケレの勝ちとなった。


戦いの余波で吹き飛ばされたユユウは。

乗機ごと、さっきのセリフにあった通り近くの衛星に突き刺さってしまった。

「まあでも、このジェットラグーン相手にモンスドラグーンで善戦したと思うぜ! 君結構筋いいよ!」

「は、はあ……それはどうも。」


ユユウは、少し照れる。

「あの、一つ聞いていいですか?」

「ダメ。」

「えー!」

「嘘だよ。何だい?」

「……どうして僕と、戦ってくれたんですか?」


セケレは、ユユウの言葉に身体ごと、いや乗機ごと驚く。

「いやいや、それどちらかと言えば俺が聞く言葉じゃない?」

「いやいや、そんな先輩が、後輩にトレーニングバトル挑んでくれるなんてないと思いますから……何でです?」

「うーん、そうだな。」


セケレは考えている。

ユユウは、静かに答えを待つ。

やがて、セケレが口を開いた。


「まず、お前が一人だったから。同期入学生とぐらい戯れてろって話だろ! だから、俺は先輩だけどいないよりはましだと思って絡んでやった。」

「はあ、どうも……え? まだあるんですか?」

「もう一つは……モンスドラグーンで飛んでる姿に、何か可能性を感じたから!」

「え、ええ?」

ユユウは今一つ釈然とせず、声を漏らす。


「いやいや、そりゃあ負けはしてたけど。さっきも言ったろ? こいつはモンスドラグーンに鎧を着せたものなんだ、丸腰のあんたじゃ、瞬殺されて普通だった!」

「ええ? ……って! 瞬殺するつもりだったんですか!」

「わー待て! ……だーかーら! お前は瞬殺されないかもって思ったからだよ! どうだい、さっきの話と繋がるだろ?」

「……あっ。」

セケレ機に迫る勢いだったユユウ機は、ふと動きを止める。


と、その隙に。

「じゃあな! お付き合いいただきありがとう!」

「え!? ちょっと」

「実は戦闘訓練の途中でな! じゃあお先に!」

「だから、ちょっと!」


モンスドラグーンで追おうかとも考えかけたが、さすがに腰のスラスターを吹かし逃げるようにして去るセケレ機にはその気も失せ、ユユウは機体ごとその場に座り込む。


「はあ、セケレ先輩、か。滅茶苦茶な人だったな……」

「そう言えばー!」

「うわあ!」

ユユウは機体ごとびっくり仰天する。


さっき逃げたセケレ機が、Uターンして来たのだ。

「なな何ですか!?」

「名前!」

「……え?」

「名前だよ! お前の! 教えてくれてないだろ?」

「……あっ!」


ユユウははっとした。

そう言えば、さっきセケレの名前を聞くだけ聞いて、自分は名乗らなかったではないか。

「す、すいません! ユユウです!」

「ユユウか、よろしくな!」


そう言うや、セケレはまたスラスタを吹かし空の彼方に消える。

「はあ……」


ユユウは今度は、機体ごと草むらに寝転ぶ。

「なんか、疲れた……」


かくして、学院でのレベルアップという名のNEW GAMEは始まった。

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