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〜プロローグ②〜

「だーかーら! すごいんだよ、本当にゲーム世界へダイブできちゃうんだからさ!」

「もう分かった分かった ! ほら、早くそのアプリ見せてくれよ。」


千晶が捲し立てるので、その友人の仁貝(にかい)は少し辟易している。


あのE世界での一件から翌日。

千晶はあのゲームアプリについて、もはや誰かに言わなければ気がすまない程に興奮していた。


「よおし……ではお見せしよう!」

千晶は得意げに、スマートフォンの画面を見せるが。


仁貝は、訝しげな顔をする。

「……ん? えっと、すまない、横にスクロールしてもいいか?」

「え? ああ、どうぞ。」


仁貝は、翳されている千晶の画面を横にスクロールするが。

「……『E世界大戦』だっけか? 見当たらないぞ。」

「……え!?」


我が耳を疑う千晶だったが、スマートフォンの画面を確かめると。


確かに、それらしいアイコンがなくなっている。

「……大丈夫か、保健室行った方が」

「おいおい、人を病人扱いするなよ! おかしいな、確かに」


と、そこへ昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り。

先生が入ってくる。


「ええ〜……そんなあ」

千晶のこのモヤモヤは、結局放課後まで治らず。


授業にも全く身が入らないままだった。

「おーい、和切? 帰らないのか?」

「ああ、すまん……」


放課後になっても、仁貝の問いに上の空で答える。

仁貝も仕方ないとばかり、先に帰る。

「ああ、何でだ? あれは夢……おわあ!?」


独り言を言いつつスマートフォンの画面を見た千晶は、素っ頓狂な声を上げてしまう。


これには思わず、帰りかけていた仁貝も残っていたクラスメイトも驚く。

「どうした、和切?」

「に、に、ににに」

「落ち着け、どうした!?」

「ににに、仁貝! あっ、あったぞ!」

「あった? ……まさか、あのアプリか?」


しかし、千晶が再び仁貝に画面を見せると。

「和切。……お前、ゲームのやりすぎなんだよ。今日は帰った方が」

「え!? 何を言って」


千晶も画面を見て、呆気にとられた。

また、あのアイコンがなくなっていた。






「何でだよ? こんな……」

千晶は廊下の窓際で、一人項垂れる。

うーん、あれは本当に夢なんだろうか?


考え込むが、答えは出ない。

「はあ、疲れた-! ねえ綺選(きえり)、パフェでも食べに行こうよ!」

「ああ、ごめん……ちょっと先約が」


綺選一一その名を聞いて千晶は、考えるより先に足が動いていた。

「な、凪原綺選(なぎはらきえり)!」


ついでに口も動いていた。

「え……? あ、ああ……和切千晶(わぎりちあき)……」

綺選もまた、困惑しながらもフルネームで呼び返す。




「うん、えっとね? 聞いてます?」

「……はい、えっとそれは申し開きの次第もございません……はい。」

「せ・い・い・がっ! こもってない!」


ファミレスということもあってか、やや声を抑え目にしつつも綺選は千晶を責め立てる。


あの後、場所を二人は移していた。

というのは、千晶がいきなり話しかけたことで綺選のみならずその友達まで戸惑っていたからである。


「もう、なんであたしがこんなことしなきゃなの? 何、あんた馬鹿なの?」

綺選の怒りは、治らない模様である。


「あ、あのさきえ……」

「あん!?」

「……凪原さ、ま。とりあえず幼馴染なんだし、どうかこのよしみで……」

「あ、あん!?」


宥めようとする千晶だが、まあ逆効果だった。

綺選も叫んでしまったことでファミレス中の客の視線を集めてしまい、気まずい表情で周りに謝ると座り直す。


「まったく、何が幼馴染? 幼馴染まずじゃないの? あんたと幼稚園・小学校・中学・高校と、たまたま一緒ってだけで何の絡みもないんだから!」

「あ、ああ……」

千晶は冷や汗を拭う。


「……それで? 何の用なの?」

綺選は気を取り直し、千晶に向き合う。


千晶も居住まいを正し、綺選を見る。

「うん、えっと……E世界大戦って、知ってるかい?」

「知ってる。……これでしょ?」


綺選の即答に、千晶は戸惑いつつ。

彼女から見せられたスマートフォンの画面を見つめる。


確かに、そこには『E世界大戦』のアイコンがあった。

まさか、と思い自分のスマートフォンも見ると。


やはり、『E世界大戦』のアイコンが。

「まあ、昼休みあんたたちがビービー騒いでいるの見て、同級生にこのゲームのプレーヤーがいたと知って驚いたけどね。」

「そっか、それでこんなにあっさり明かしてくれたのか……ありがとう。」

「お礼を言うな!」


綺選はまた、千晶に厳しく当たる。

「分かってたよ? あんたがじきにあたしに話しかけてくるだろうって。でもまさか、あんな気持ち悪く迫るとは思わなかった! あー、今思い出しても腹立つ!」

「ご、ごめん! 謝ります……」


千晶が頭を下げると、綺選は未だに不機嫌なことのアピールか、タバコを吹かす真似をしてみせる。

「……うーん、そうね。お詫びに、このイチゴパフェ奢ってくれる?」

「は、はいもち……ええ?」


快く承諾しようとした千晶だったが、見せられたメニューに書かれた値段を見て動揺する。

「何?」

「あ、いや……どうぞ。」

「すいませーん! ……あ、ボタン押せばいいの?」


注文する綺選を見つつ、千晶は今月の金欠を憂いていた。

さておき。


「えっと……それで、凪原さん? まだ聞きたいことが……」

「……ええっと、次は何奢ってくれる?」

「……やっぱいいです。」

「……嘘。あたしもそこまで鬼じゃないって。で、何?」

イチゴパフェをがっつきつつ、綺選は相変わらずつっけんどんに尋ねる。


「……凪原さんは、あっちで、その……リンネって」

次の瞬間、千晶の左頬をスプーンを持ったままの綺選の右拳がかすめた。


アニメなどであれば、殴る方の拳か殴られかけた方の頬から蒸気が上がってもおかしくない威力だろう。

「な、なんで……?」

「……知らぬは当人ばかりなり、か。……なら、こう言えば分かる、ユユウちゃん?」

「だー! わー!」


プレーヤー名を出された千晶は、大慌てする。

しかし、今度は千晶の右頬を綺選の左拳がかすめる。

「うおお!」

「これで分かった? プレーヤー名を公衆の面前で明かされる人の気持ちが?」


綺選の目つきは、さっきより鋭くなっていた。

「はい……」

「……まあ分かったんならよろしってことにしといてあげる。で、一応その質問への私の答えは……そうだね、その通り。」

「……ありがとう。」


まとめると、綺選はE世界大戦のプレーヤーでプレーヤー名はリンネ。

たったこれだけの情報を引き出すのに、どれだけ時間をかけたことやら。


「……でも、安心した! 本当に昨日のことは夢なのかもって思ってたから……ごめん、ありがとう。」

千晶は少し縮み上がりつつ、綺選に礼を言う。


「礼はいらないって言ったでしょ? まあ、あんたみたいな初心者が、アイコンが見つからなくて大騒ぎする例はよくあるらしいんだけど……そのアイコン、あたしたち関係者同士で見せ合おうとしないと出てこないんだって。」

「そっか……それも教えてくれて、ありがとう。」

「あー、もう!」

綺選は、じれったそうに声を漏らす。


「だから、お礼なんていらないっての! 礼を言うなら金をくれって言いたいところ。」

「それは……ご堪忍くださいまし!」

「……だから、あたしもそこまで鬼じゃないってことも言ったでしょ? 全く、いちいち真に受けるとか本当面倒くさい……まあいっか、他には?」

「あっ、うん……凪原さんも、いきなりあの世界で誰かの子供として生まれたの?」

「うん、それは皆同じ。」

綺選の答えに、千晶はまたほっとする。

そうか、自分だけではなかったか。


「ふうん、あの両親はNPCなのかな?」

「いや、違うみたい。私たちと同じプレーヤー。それがシステム上で結婚して、システム的に子供を産むことで新しいプレーヤーがE世界に召喚されて……その繰り返しで、あのゲームのプレーヤーは増え続けたみたいよ。」

「うーん……やっぱり分からないな。」

「何が?」

綺選は千晶の言葉に、首をかしげる。


「いや、別に凪原さんの説明が分かりづらいとかそういうんじゃないけど……まず、無関係だった人をプレーヤーとして引き込んだり、何よりあのゲームのアプリが、消えたり現れたりする。これってどういうからくりなんだろ?」

「それは」

「……ごくり。」

綺選は先ほどよりも千晶に顔を近づけ、話そうとする。

千晶も緊張した面持ちで耳を傾ける。


しかし。

「……あたしも知りたいところだね。」

「……そっか。凪原さんもそれについては知らないんだね……」


千晶は拍子抜けする。

それについて、一番知りたかったのだが。

「まあ、後は習うより慣れろってことで……さ、行こ。」

「え……? どこへ?」


伝票を掴んでレジへと向かう綺選を、千晶は慌てて追いかける。

「あたしと友達の会話聞いてたでしょ? 今日先約があるって。まあ、実際には誰かとの約束じゃなくて、E世界大戦をプレイしたかっただけなんだけどね。」

「へえ……それで場所を変えようってことか。」

「そ。あのゲームって意識を失っちゃうから、場所を選ばないとなの。」


言いつつ、綺選はレジの店員に伝票を渡し。

財布を広げる。

「あ、あれ? それは俺が」

「いいの。ついでにあんたの分も払ってあげる。考えてみれば、奢ってもらって借りを作るよりも、奢って貸しを作る方が長いスパンで見れば得だし。」

「は、はあ……ありがとう。」

「まったく……そうやって素直すぎる所、ちょっとは直した方がいいんじゃないかな?」


意図があって奢られたにもかかわらず、ただ奢られたことに感謝する千晶に綺選は呆れつつ、お金を払い店を出る。


「どこ行くの?」

「無難な所で……カラオケかな。」

綺選は千晶を尻目に、どんどん前に進む。


「ちょっと待ってよ、凪原さん!」

「あんたがもっと早くしなさい、遅い!」

そうする内、カラオケ店までやってきた。


機種は何でもいいと告げ、空いている適当な部屋に案内してもらう。

「じゃ、スマホ出して。」

「はい。」


綺選と千晶は、お互いにスマートフォンを出し合う。

画面をスクロールし、あのアイコンを探す。


やっぱりある。

『E世界大戦』のアプリだ。

「これを、タップすればいいの?」

「そう。……せーので、あたしに合わせて。」

「……分かった。」


綺選と、千晶は、目を合わせる。

「行くよ?」

「……うん。」

ライド(ライド)!」


二人ともタイミングを合わせ、アプリをタップすると。

アプリがポップアップを表示し、それがスマートフォン画面全体に広がり。


たちまち画面から、眩い光が発せられ千晶は気が遠くなる。





「……ここは?」

「E世界。昨日と同じ。」

千晶はモニター越しに、世界を見る。

確かにこの光景、そして自分の獣腕。

更に目の前の綺選は、ロボット一一モンスドラグーンの姿だ。


間違いない、ここは昨日と同じ世界だ。

「……ん?」


手元のパネルの画面表示が、変わっていることに気づく。

「『トレー二ングバトル、挑戦を受諾しますか?』って……これは」

「あたしが送った。レベルは学院なり、ギルドなり、国なりから認められないと上がらないんだけど、スキルをある程度向上させることはできるの。トレー二ングバトルってのはそういうこと。」

「……分かった。」


千晶は、パネルに浮かんだ『YES』をタップする。

たちまち、二人のロボットの腕には剣が装備され、パネルは三の数字からカウントダウンを始める。


戦闘開始。

「ぐっ!」

「何呆けてんの! ぼけっとしてる暇はないよ!」


綺選のモンスドラグーンは、千晶機に先制攻撃を仕掛ける。

「ちょ、初心者に容赦なさすぎだよ……凪原さ」

「ここでは私はリンネ! あんたはユユウ! 初心者もへったくれもない、プレーヤーは戦うしかないんだよ!」

「くっ、ぐっ!」


綺選、いやリンネは、千晶もといユユウに尚も攻勢を仕掛ける。


しかし。

「分かったよ……上等だ、やってやろうじゃん!」


やられっぱなしのユユウではなく。

リンネに対し防戦一方となりながらも、彼女の攻撃の特性を見抜いていた。

「なるほど、割と真下に振り下ろしてばっかりか。……なら!」

「うわ!」


ユユウはリンネの剣に対し、横から自分の剣を叩きつける。やはり、横からの攻撃には弱いようだ。

「よし……いける!」

「隙あり!」

「え……?」


リンネが叫ぶと、たちまち彼女の剣は光り出し。

ユユウの剣を振り払い、彼の土手っ腹にその刃を打ち込む。

「ぐっ……あああ!」


ユユウは大きく、乗機ごと飛ばされてしまう。

勝負はあっという間に決まった。


「痛た……え!? 『you lose』!?」

ようやく気がついたユユウは、自分のパネルに浮かぶ文字に驚く。


「そう、『I win』!」

「いや、わざわざ言わなくていいから!」

「まあ別に、初心者相手に勝っても嬉しくないよ。……ていうか、やっぱり経験値の差だけで勝負が決まっちゃうんじゃ出来レースっぽいな……学院なら、もっと面白いかもしれないけど。」

「え? 学院?」


ユユウは驚く。

そう言えば、バトルの前にもリンネはそんなようなことを言っていた。


レベルを上げられるのは、ギルドや学院だけとか。

「そ。ま、あたしは明日から学院生だけど、あんたはもう少し時間を置くかな……じゃ、今日はこのぐらいにしよ。お疲れ!」


そう言うや、リンネのモンスドラグーンが消える。

「あっ! ちょっと! ……ログアウトしたのかな? ようし……えっと、ログアウトのアイコンはこれかな……ぐはあ!」


間違えて降りるアイコンを押してしまった。

その後、ようやくアイコンを見つけてログアウトできた。


しかし、綺選は既にカラオケにいなかった。

「うわ、置いていかれた……ん?」


伝票と、置き手紙が。

「えっと……『遅いから、先帰るね。学校では今後も、碌に面識ない者同士になって。次会うときは、あっちの世界の学院で。あと、さっきのファミレスでの借りは、ここで返して。』……はあー、まあイチゴパフェに比べれば、な。」


千晶は言いつつ、部屋を跡にする。

「学校では他人でいて、か……あーあ、つれないなあ……」


何はともあれ、一緒にゲームをする仲間?はできたわけだが。


仲良くはなれそうにない現実を交えつつ、千晶の新しいゲーム生活は幕を開けたのだった。

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