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俺は魔法学都へ

 アンロックの魔法学都編です。


 前話より、長くなっています。

 イニスが納屋を出たあと、俺は近くの台に横になった。


 ヘルメットを取ろうとしたけど、持ち上げようとしたとき、首の辺りが、プチプチと音を立てていたので止めといた。


 不思議と眠気はなかったものの、俺は朝まで眠ることにした。……兎に角、やってみるしかないか。


 ――朝になって、村の人に見つからないように、納屋の外に出てみる。


 幸いにも、誰にも見つからずに、騎士の二人組の近くまで来れた。


 近くの民家の影に隠れながら、二人の様子を見てみる。……何やら、村の人達と二頭の馬に荷車を付けているようだった。


『いやー、すいませんね。あっしらまで運んでもらえるなんて……』


『困った時は、お互い様ですよ』


 騎士の二人と村人の会話が聞こえてくる。……どうやら、村の馬の調子が悪く、荷車が運べない。

 

 それに騎士の二人が、連れていた馬の二頭で運ぶと提案したようだった。


 大きな樽や、木箱が運ばれてくる。あれも中身は、商業品なのだろうか? 


 (……よし、今ならいいかな?)


 意を決して、俺は二人の前に出る。俺に気づいた二人が直ぐに警戒して、腰に差した剣に手をかけた。


「ドウモハジメマシテ、ワタシコマッテマス」


 そんな二人に俺は、片言の言葉使いで二人に挨拶をする。二人は、呆気に取られた顔をしている。


 ふっふっふっ、どうだ!この困っている異国人の真似!


「……貴様、何者だ」


「怪しい奴め!」


 ……あれぇ?おかしいな。すごく警戒してる。もう少し、フランクに話しかけるべきだったか?


 ちらりと横目で辺りを見ると、イニスが呆れた様子で此方を見ていた。


「なんだあれー?」


「変なのがいるー!」


 黄色い声を上げて、数人の子供が近寄って来た。子供達は、俺の体や、【そよかぜのころも】を引っ張り始めた。


「止めなさい!」


 子供達の親の声だろうか。子供を止める声が聞こえてくる。それでも、子供達の動きは止まらない。


「ちょ、ちょっと止めて……」


 制止しようとする俺のヘルメットに、子供の手が伸びてくる。そして、ヘルメットを引っ張る。


 ――再び、首の辺りが、プチプチと音を立てている。思わず俺は、子供を引き剥がした。


「危ない!!」


 その叫びと共に、頭の横から衝撃が走った。――また、俺の体が見えた。


 子供を助けようと、思ったのだろう。老人の男性が角材を持って、俺の体の上を振りきっていた。


 ――視界が、暗転。あの真っ暗な世界に戻ってくる。その世界に漂いながら、俺は首を傾げる。


「うーん、駄目だったかぁ……」


 何が、良くなかったのだろう?今度は、口調を変えずに話しかけてみるか?


 兎に角、納屋の中で【セーブ】した、【セーブデータ】をロードする。


 真っ暗な世界が輝きだして、目を開けると納屋のドアに、ノックの音が聞こえてくる。


「あの……入っても、大丈夫ですか?」


 イニスの声が聞こえてくる。そういえば、このタイミングだったっけ。


 ということは、この後に彼女は、パン粥を持って入ってきて、その後で自己紹介だっけ。


 ――その後は勿論、その通りになった。危うく、自己紹介の前に名前を呼びそうに鳴ったけど。


「……魔法学都」


「魔法学都?」


 ――とりあえず、ここまでの会話は、前と同じはず……。その後の、イニスの提案も同じだった。


 ――やはり、彼女の提案の通りに後を追いかけるか……。その時、ふと納屋の隅に樽が有るのが見えた。


 ――そういえば明日の朝に、あの二人は馬に荷車を付けていたっけ……そうだ!


「あの樽は、使っているかい?」


「ここにあるということは……、使ってないですね」


 俺は樽の側まで、近寄ってみる。大きさは大体、人一人が入れるくらい。中を見ると空だった。


「俺がこの中に隠れて、薬草で隠して、彼らに運んでもらおう」


「でも、運んでくれるでしょうか……?」


 俺の提案にイニスが、不可思議そうに質問してくる。


 しまった……そうか、彼らが荷車を運ぶというのは、彼女の知らないことだったのか。


 なんとか誤魔化さないと……。


「うーん、彼らに頼んでくれないかな?た、多分だけど、彼らなら運んでくれると思うんだ」


「……何だか、よくわからないですけど、わかりました」


 何とか、伝わったようだった。そして、俺は樽の中に入り、彼女が上に薬草を被せて蓋を閉めた。


 (では、ちょっと聞いてきます)


 それだけ聞こえると、彼女が納屋から出ていく音が聞こえる。


 しばらくすると、彼女が戻ってきた。もう一人、いたようだった。


 (これです、薬草が入っています)


 (あぁ、まだあったのか?危ない危ない、運び忘れる所だった)


 どうやら、あの荷車を付けていた村人らしい。


 (まぁ今日は、もう遅い。明日の朝に、運ぼう)


 (そうですね)


 二人の会話が終わると、イニスだけ残ったようだ。


 (戻った時に、丁度良く、荷車の話をしていましたよ)


「そっ、そっか。兎に角、ありがとう」


 彼女の声は、少し驚いている様子だった。お礼を聞くと、怪しまれると思ったのだろう。


 直ぐに、納屋から出ていってしまった。


 ――しかし朝まで、ずっとこの体制か。ちょっと辛いかも……。少しだけ後悔して、眠ることにした。


 

 ――急に揺れが始まり、思わず声が出そうになるのを堪えた。


 (何だ、これ?)


 (全く、重てぇなぁ。何が、入ってんだぁ?)


 (いや、薬草でしょう)


 どうやら朝になって、村人の二人が運びに来たのだった。会話の内容に、ギクリとしてしまった。


 (……は、お互い様ですよ)


 しばらくして、外から声が聞こえてくる。何とか、あの時まで来たようだ。


 (中は、大丈夫かな?)


 今の言葉に、俺は焦った。――しかし、直ぐに村人が止めてくれる。


 (あぁ、開けないでください。そのまま、熟成させながら運びますので)


 (そうなんですか)


 ――ふう、危ない所だった。何とかなりそうだ。


 その後は何事もなく、荷車は動き始めた。その途中で、騎士の二人と村人の会話が聞こえてきた。


「急ぎの所、すみません」


「大丈夫ですよ。これなら三日程で魔法学都に着きますよ」


 ――えっ?今、三日って言った?三日もこの中で……。


 これは、マズイことになった。三日間も食事や、トイレを我満出来るのか?


 (どうしよう……今、出るべきか……?)


 悩んで、とりあえず今は限界が来たら、そうしよう。それしかない。


 ――しかし、三日間の間、俺は空腹にもならず、しかもトイレも必要なかった。


 俺の体は、どうなってしまったんだろう。――それを調べる為にも【魔法学都】に行くのだけれど。


『……よいしょっと』


『あー、重かった』


『よーし、じゃあ飯でも食いに行くかぁ?……それ、開けるなよ。中身酸化するから』


 行商人達の声だろうか?俺の入っている樽を含めて、全ての樽を運ぶと、直ぐに行ってしまった。


 ――危うく、蓋を開けられそうになったけど、その行商人は止められて、渋々返事をして行ってしまった。


 (もう、いいかな?)


 俺は、慎重に樽の中から出てくると、辺りを見渡す。何処かの倉庫だろうか。


 薄暗く、俺の入っていた樽と同じものが、横になって棚に並べられている。


 樽の蓋には穴が空いているものがあって、そこに栓がしてあった。


「これ、消毒液の匂いか?」


 樽からは、微かに消毒液のような匂いがしていた。なるほど、薬草を発酵させて、消毒液とかの薬品を作っているのか。


 まぁ、俺は消毒液や薬品の作り方を、知らないけど。


 それから、階段の上の微かに明かりが漏れているドアに向かった。近くに誰もいないのを確認しながら、外に出た。


 幸いにも、路地裏らしい場所に繋がっていた。人の声が聞こえる、明るい方へと進んだ。


 ――人々が、往来している所が見えた。結構、フルフェイスの兜を被っている人が見える。


 これなら、普通にしていれば、怪しまれないかも?万が一に備えて、【セーブデータ】を残しておこう。


 今度は間違えないようにっと、二本目の【セーブデータ】にセーブ。


 ――さて、行ってみるか。人波に紛れるように、スッと路地裏から出る。


 出てきた時には、人の視線を感じたけど、直ぐに感じなくなった。


 商店の並ぶ所の路地裏だったらしく、露店や商店が並んでいた。暫く歩いていると、建物の壁に張り紙が貼ってあった。


 眺めてみるけど俺には、この世界の文字は読めない。なんて書いてあるんだろう?


 そうしていると、近くの露店の男性が話しかけてきた。


「あんた、博物館が珍しいのかい?」


 ――博物館?そうか、これは博物館の案内の張り紙だったんだ。


「そうなんだ……。あっ、ちょっと用がありまして」


 読めなかったのを誤魔化すように、言葉を付け加えた。


「へぇ、そんな身なりだけど、あんたも学者さんなのかい?」


「学者?」


 思わず、聞き返してしまった。確かに、学者なら博物館に興味を持っても、おかしくなかった。


「あれ、違ったかい?てっきり【セータ】様に、会いに来たのかと思ったのに」


 どう答えようか、考えていると田舎者だと思われたのか、そのまま男は話を続ける。


「この魔法学都の最高位の学長【セータ・メビウス】様さ。博物館を創ったのも、セータ様だよ」


 うーん、何だか凄い人なんだなぁ。……まてよ、博物館に行けば、俺の体についても何か、判るかもしれないぞ。


 運が良ければ、その【セータ・メビウス】に会えるかもしれないし。


「へぇ、凄い人ですね。ちょっと、行ってみます」


「おぉ、気い付けてな!」


 男との話の後、再び張り紙を眺めると、文字が読めるようになっていた。


 (あれ、何でだろう?)


 俺は【メニュー画面】を開き、【ステータス】を見てみる。すると、【スキル】に【文字解読】が追加されていた。


 (これも、【言語理解】の時と同じか……)


 これはこれで、運が良かったと思う。これのお陰で、難なく博物館へとたどり着く事ができた。


「ここが、博物館か」


 張り紙には、いくつか博物館があったけど、一番近かった【生物博物館】にやって来た。


 入り口らしい場所から中に入ると、いきなり大きな鎧の置物が置いてあった。


「……リビングアーマー?」


 その鎧の下にあった展示表記を読むと、そう書いてあった。……これも生物なのか。


「博物館に、ようこそ!初めての方ですね?」


 不意に後ろから、話しかけられた。ビックリして振り向くと、どうやら受付の方だった。


「初めての方は、無料でご入場頂けます。此方に、お名前をご記入して下さい」


「あっ、はい」


 挙動不審な姿が、田舎者に思われたんだろうな。俺は、受付の方の所に行く。


「こちらの帳簿に、ご記入して下さい」


「アンロック……と」


 ちょっと変わったペンで、帳簿に名前を書く。しかし、受付の方は、怪訝そうな顔をしている。


「あの……失礼しますが、これは何の文字ですか?」


「えっ?」


 俺は、帳簿の文字を見る。……あっ、しまった!


 帳簿に書いてある文字は、読める。でも、俺が書いた文字は、それとは違う文字。


 つまり、この世界での文字では無かったのだ。受付の方が、睨みを効かせてきた。


「もしかして、悪事を働きに来ましたか?」


 受付の方が、机の下の何かを押した動きをした。すると、側に展示してあった二体の鎧が動きだし、俺を囲む。


「たまに、居るですよね。読み書きが出来ず、文字の形と発音だけ覚えて、狙いの展示物だけを盗む犯罪者の方が……」


 マズイ、悪い方に話が進んでる。どうにかして、説得しないと……。


「あー、こんなところに居たんだ?」


 と、そこに杖を片手に持った一人の女性が、やって来た。


 少しダボっとした服にケープを羽織った姿の眼鏡を掛けた、黒い髪の毛のおさげの女性。


「あっ!これは、【セータ】様。……もしかして、知り合いの方でしたか?」


 この人が、学長の【セータ・メビウス】?少し、のんびりとした人だなぁ。


「うーん、そうよ。迷惑をかけちゃったね?」


 二体の鎧が、元の展示スペースに戻っていく。どうやら、何とかなりそうだった。


 でも、どうして助けてくれてのだろう?それに、名前の事も……。


「さあ、アンロック。こっちよ」


 疑問に思っていると、彼女は付いて来いと言わんばかりに、歩き出した。


「あの……何で、助けてくれたんですか?」


 歩きながら、俺は質問をする。


「そうだねー、理由は二つ……あるかな?」


 彼女は、軽い口調で答えた。そして、ある部屋に連れてこられた。


 部屋の中の机の上に皿があり、そこにスポンジケーキ。その上にヒビの入ったクッキー、あるいはビスケットが乗せられていた。


 そして、その上にメープルシロップが、かけられている。それが二つ、片方はヒビが入ってなくシロップも、かけられていなかった


「これはね、占いの結果。これが、理由の一つ」


 彼女は、ヒビの入ってないケーキで実演する。まず、スプーンで、ケーキの上のクッキーの真ん中辺りから割る。


 そして、小さなポットから、メープルシロップを垂らしかける。


 この時の、シロップの広がり方とヒビの割れ具合で、占うそうだった。


 まるで、亀甲占いみたいだな。そして、彼女か幾つかの単語を呟いた。


「……事件……正体……調べる……車輪……解決……と」


「えーと、どういう意味ですか?」


 セータは、少し考えてから、答えた。


「うーん、貴方の事を占ったの。考察すると、自分の正体を調べるために、馬車に乗って来たけど、受付で事件を起こした。……そんなとこかな?」


 ――馬車では、無かったけど大体、合っていた。


「凄い……、でも解決というのは?」


「それが、二つ目の理由が含まれるかな?私は他の人より、耳が良くてね」


 そう言うと、手袋を着けて【ペンライト】のような物を取り出した。


「貴方の体の中から、人の物ではない音が聞こえるの。で、これで貴方を調べたい、それが理由」


 妙な道具をちらつかせる彼女から、恐怖を感じて、俺は逃げようと後退りをした。


 (――体が、動かない!?)


「貴方が立っているその床、束縛効果のある床だから。大丈夫、痛くしないから」


 彼女は、その道具を俺の体に近づけてくる。ペンライトが、発光しだした。


 すると、俺の体が透け始め、中が見える。彼女が出力を変えているのだろう、骨が見え、更に心臓が見える。


「……皮膚が服と、一体になってる。けど、ここは普通の人と同じ」


 痛みは無かった、透けているだけ。彼女は、更に奥を見ているようだった。


「……何かの器官が、発破を起こして、心臓を動かしている?これが、音の正体ね」


 ――俺の心臓は、普通に動いていなかったのか!?


 俺が驚いていると、彼女は今度は下の方に光を当てる。……待って、それ以上は……。


「胃腸がない代わりに、液体の入った何か……?この液体が気化して、発破してるのね」


 話を気いていると、段々と気分が悪くなっていく。と、彼女が驚きの声を上げた。


「ちょっと、大事な物が無いじゃない!!?」


 セータが驚いたのは、排泄器官は無く、更に男女の区別する大事な部分が、どちらも付いていなかったからだった。


 ――それを聞いて、俺は意識が遠くなった気がした。何で、自分で確かめなかったのだろう……。


 と、その時。ドアをノックする音が聞こえた。彼女が返事をすると、女性の声が聞こえる。


「セータ様、【ラスディア】です」


 セータが、中に入っていいと承諾する。会釈を返して、入ってきたのは鎧を着た女性の騎士だった。


「只今、戻りました」


 その顔には、見覚えがあった。俺を村から運んだ、騎士の二人組の女性の方だった。


 まあ、あの時は隠れて、付いてきたのだけれど。彼女は、俺を見るなり、剣を手に取る。


「――き、貴様!何故、ここに居る!?」


「あれ?もしかして、知り合いだった?でも、今は動かないよ」


 ラスディアは、俺が身動き出来ないことを確認すると、剣から手を離した。


「……失礼しました」


「所で、【ウォルド】はどうしたの?」


 セータの質問に、ラスディアは、あきれた様子で答える。


「それが……ですね」


 会話の内容から、【ウォルド】というのは、もう一人の騎士の事だと思った。


 彼は、ここに来る前に、二人で銭湯に行ったようだった。そして、他の客と我慢比べをして、のぼせたのだった。


 そして、そのままラスディアは、帰還報告を済ましていた。どうやら、辺境の地で代理の仕事をしてきたらしい。

 

「……以上に、なります」


「そう、ありがとうね。お疲れ様」


 と、ラスディアが机の上に視線をやる。


「……また、二つも食べるんですか?太りますよ?」


「い、いいじゃないの。ちゃんと、占いには使ったんだし……」


 セータは腕組をして言い訳した。しかし、彼女は自分の腕の感触を、確かめていた。


 ――やっぱり、あのケーキは食べるんだ。もしかして、ただ食べたいだけなのでは……?


 そうこうしていると、部屋の外が騒がしくなってきた。それを確かめるために、ラスディアは部屋を出ようとした。


「ちょっと、確かめに行ってきます」


「待って、私もついていく。何か、様子がおかしい」


 一人、行こうとするラスディアに、セータもついていく。ドアを開ける前にラスディアが、俺に話しかけてきた。


「どうやって、やって来たかは知らないが、今は後回しだ。ここを動くなよ?」


「大丈夫よ。体積が変わらない限りは、指一本動かせないから」


 そして、二人は部屋から出ていってしまった。――どうしよう、しゃべる事も出来ない。


 ――いや、そうだ。体積が変わらない限りと、言っていた。だとすると……。


 俺は、【そよかぜ】をバイクに変えた。すると、ガラスの割れるような音と共に、体が動くようになる。


「……ふう、危ない危ない」


 俺は、一息ついた。やっぱりだ、彼女が俺の体を調べたとき、まるで俺の中身が、バイクのパーツのようだった。


 【そよかぜ】をバイクに変えれば、俺の体積が変わると思ったけど、うまくいって良かった。


 ――でも、それは【そよかぜ】が、俺の体に入っていたということ。


 ――いや、助けてくれているのだろう。そう、思いたかった。


 とりあえず、三番目の【セーブデータ】にセーブしておこう。


 セーブを済ました後、そよかぜを衣に戻して、部屋を出る。先ほどの騒ぎは、まだ続いているようだった。


 見回しながら、散策していると、人が居るのが見えた。


 ――千鳥足のような、妙な足取りをしている。と、此方を振り向いた。


「なに、あれ……」


 俺は、思わず息を飲んだ。その人物は、体の至るところが、文字通り崩れていた。


 肩の辺りは、繋がっているのか怪しい感じに、ぶら下がっていて、腹の辺りは空洞になっていた。


 まるで、【ゾンビ】だった。


 虚ろな瞳で、俺を確認したのか、近づいてくる。俺は後退りした。


 ――その時、後ろから体を掴まれた。もう一体が、後ろに居たのだった。


 そいつに首もとを、噛み千切られた。そして、前に居た一体に、挟まれて……。


 ――気がついたら、真っ暗な世界に飛ばされていた。


「何なんだよ、あれは……」


 まるで、ホラー映画だった。どうして、そうなってしまったのだろう。


 確かめるために、部屋での【セーブデータ】をロードする。部屋の中から、再スタート。


 ――さてと、まずは状況を知っていそうな、セータとラスディアを探そう。


 俺は、ゾンビを避けながら、二人を探した。幸いにもゾンビは動きが鈍く、避けるのは簡単だった。


 曲がり角で、二人の声が聞こえてきた。どうやら、戦っているようだった。


 いきなり出ると、ゾンビと間違えられそうなので、ゾンビに気をつけながら、様子を見る。


 ラスディアは、あの【リビングアーマー】と戦っていた。その後ろで、セータが杖を構えていた。


「そいつは、【ゾンビ】と同じで光が弱点だよ!もう少し、耐えて!」


「はい!」


 ラスディアが、相手の攻撃を押さえている間、セータが念じると、杖に光が集まっていく。


「【ライトニングサンダー】!!」


 セータが叫ぶと共に、杖から雷のような光が、【リビングアーマー】目掛けて跳ぶ。


 リビングアーマーは、閃光とハチドリの羽ばたきのような音に包まれた。


 閃光と音が収まると、それは膝から崩れ落ち、動かなくなった。


「ありがとうございます。それにしても、厄介ですね……」


「……そうだね、これに【ゴースト】が取りつくなんて、思ってなかった」


 ――【ゴースト】か、成る程。それで光に弱いのか、わかりやすいなぁ。


 それに、【光】か、今の俺の中にはバイクのパーツが入っている。――もしかしたら……。


 と、その時だった。もう一体、【リビングアーマー】が現れて、二人に襲いかかろうとしている。


 二人は、まだ気づいていない。――ええぃ!こうなったら、実戦だ。


「危ない!!」


 俺は叫ぶと、リビングアーマーに向かって走る。そして、バイクのスプリングを使い、高く跳躍。


 リビングアーマー目掛けて、バッテリーの電気を流した足で、飛び蹴りを放った。

 

 直撃を受けたリビングアーマーは、胴体に穴を開けて動かなくなった。


 そして、俺は綺麗に着地。うーん、うまくいった、名前を付けとしたら……。


「【ライトニングサンダーキック】、略してライ……」


「貴様、どうやって抜け出した!?」


 セリフの途中で、話しかけられて、キックの所で声が裏返ってしまった。


「しかし、助かったぞ」


「そうだね、ありがとう」


 気を取り直して、少しだけ二人の信頼を得たような気がする。


「それにしても、ライキックだっけ?中々、良かったよ」


 セータが、俺の言った名前を誉める。しかも、裏返った部分を真似しながら。


 いや、その耳なら、略す前のも聞こえてただろ。


「こほん……。それで、この状況は何なんですか?」


「……それは移動しながら、説明するよ」


 俺は、二人に着いていきながら、話を聞いた。その道中も、何度か、敵に襲われた。


 その最中に、腕にバイクのチェーンを回し、【チェーンソー】のような物を出すことも、出来るようになった。


 それを見たラスディアが、不思議なツルギと言っていたので、

【しんめいのつるぎ】と名付けた。


「この先にある、隠し部屋に封印された【書物】を誰かが開いてしまったみたい」


「その影響で、【ゾンビ】と【ゴースト】が召喚されてしまったということだ」


「……成る程」


 ――俺たちは、その書物がある隠し部屋へと向かう。


 隠し部屋の中には、幾つもの危険なトラップや、ギミックがあったけど、セータが全て解いていった。


 そして、原因の書物がある場所にやって来た。開かれた書物の側には、一人の干からびた死体があった。


「これだね、【ゾンビ】と【ゴースト】の書物」


 死体が持っていたのは【生物召喚】の書物で、それを開くと記載されている生物が、召喚されるのだと言う。


 しかし、死体はトラップかギミックのせいか、致命傷の跡があった。


 恐らくは、盗賊だったのだろう。助かろうとして、この二冊を開き、ゾンビかゴーストになったのだろう。


 ――もしかたら、すでに倒してしまったかも知れない。


「これは、閉じれば事は収まるよ。全部、消える」


 セータが書物を閉じると、まだ残っていた【ゾンビ】と【ゴースト】が塵になって消えていった。


 そして、盗賊の死体も一緒に。書物を閉じる時、その影響でゾンビやゴーストになった者も、消えてしまうそうだった。


「なんとか、なりましたね」


 ラスディアは、安堵の声をついている。俺たちは、部屋を後にした。


 しかし、隠し部屋の入り口を出たとき――。


「……よかった……、無事みたいだな……」


 一人の男の騎士が、壁を背に倒れていた。


 ――ラスディアと一緒に居た、ウォルドだった。


「ウォルド!?」


 ラスディアは、悲痛な叫びを上げて、彼に駆け寄った。彼は笑みをこぼすが今にも、事切れそうだった。


「はは……、ドジやっちまった」


「喋らないで!」


 彼女は、セータと一緒に彼を治療する。俺は、何も出来なかった。


「すまない……婚約したばっかなのに……約束、守れそうにない……」


「そんなこと言わないで!」


 しかし、二人の努力も空しく、ウォルドは塵になってしまった。すでに、遅かったのだった。


 ラスディアの泣き叫ぶ声が、辺りに響いていた。


 俺は、ある考えが浮かんでいた。


 ――俺には、まだ出来ることが、あるんじゃないか?


 【セーブ】、そして【ロード】。この魔法学都に、来たばかりのも、村からの【セーブデータ】もある。


 ――まだ、やり直せる。


 俺は、決意のままに、【ロード】を選択した。


 ――しかし、その思いは打ち砕かれる事を、まだ知らなかった。



 ――続く。

『ということで、アンロックの二話目です』


「結局、妙案はあれでいいの?」


『えー実の所、思い付きませんでした』


「へー」


『書くまでに何か思い付くかと思いましたが、駄目でしたね』


「まぁ、何とかつながったからいいんじゃない?」


『何とか、セータさんまで出すことができました』


「で、ライキックって何?」


『ライ〇〇キックの事ですよ』



 ということで、今回はここまでです。


 最後まで、読んでいただきありがとうございます。


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